第8話 解放・・・?
「ほれ、もっと大原にとばせ!」
「ほいほい。」
ピンッ
「痛っ。」
英語の時間、大原先生の腕に当たったのは、悪がきチーム代表数人で作った、特製・ボールペン射的だ。
ボールペン射的??と思う方に説明しよう。それは、ボールペンのバネとインクのケースを改造して、その先端にとがった針らしきものをセッティングしたやつで、ボールペンの芯を押す部分を押すとその針らしきものが一気にとび出る仕組みになっていた。
よくそんなもの考えるよな。ある意味天才だよ。
授業の半分の時間が経過したとき、床にはとばした針的なものが幾つも落ちていた。一時間で床が埋まりそうな具合だ。
達之介は、重~い溜息を吐いて、掃除用具入れに寄った。ちりとりとホウキを持って先生のそばに座り込む。俺も立ち上がって達之介と同じように床に落ちているものを取り始めた。萌も動かなきゃと思ったのか、同じことを開始する。そんな俺たちを見て、大原先生は
「ありがとう・・・・」
と、弱々しく言った。それに反応して、悪がきどもがこっちを見てきた。
「でた!お気に入り登場www」
ゲラゲラ笑いだした。何が可笑しい・・・自分たちで散らかしたものじゃないか・・・・。横を見ると、萌が震えていた。
「怖い・・・」
と小さくつぶやいた。
「気にすんなよ萌。どうせいつものことだし。」
「そうだ、坂下。いちいち反応してたらあいつらの思うつぼだ。」
俺らで励ますと、萌は少しだけ微笑むのだった。
こうして、ついに一学期最後の日になった。成績表が返され、皆大はしゃぎ。
「うは、俺オワタ」
「え、1の教科5つ!?」
「人のこと言えないでしょ、アンタだって1、3つもあるじゃん。」
その会話を聞いていると馬鹿馬鹿しくなってきた。そして、俺も返された。チラッと見てみると、驚いた。
うそ・・・こんなことって・・・・
すると、悪がきどもがやってきた。
「成績どお?駿はー。」
「どうせいいんだろー?」
「いや、別に。」
「見せて見せて!」
と、悪がきどもは俺の成績表を見る。あー!!といった。耳元でうるさいなぁ。
「ほかは・・・・、達!お前はどうだ!?」
「なにが」
「英語の成績!」
「え、ん。」
達之介のも見て口をあんぐり。
「あとは・・・坂下!見せろ!!」
「えっ・・」
ばっと萌のものも見る。そのとき大原先生が来て、悪がきどもは言った。
「大原、これひいきだろ!」
「なーにっ」
「せ・い・せ・き・!お気に入りだけ、5なんじゃん!!えこひいきだろ!!?」
確かにいえていた。俺のテストの成績は80点以下だったのに、5はありえないだろう。
「なんで?だってほかの皆は授業態度悪かったし、点数も悪かったし、このくらいしかつける人いないと思うけど。」
「それをお気に入りっていうんだよ!!」
「それは俺もそうだと思いますよ。」
俺も我慢ならず、口を開いた。
「俺の点数、80点以下じゃないですか。なのに5はおかしくないですか。」
「ほら、駿だって言ってるじゃん!」
「だって逞真は授業態度よかったし。」
「ほ~ら、おっきにいりっ、おっきにいりっ!」
お気に入り、お気に入りうるせぇよ・・・。大事なことだけど、これはうるさい。
だが・・・・もう、大原先生には期待できなくなっちまったかもしれない。
夏休みに入った。
なんだか、あのうるささが消え去ったような日々が続き、幸せを感じていた。こんな幸せ、おかしいのかもしれないけど。
ある日、俺は宿題と涼みを兼ねて、図書館へ行った。一般図書コーナーに行くと、そこには見慣れた姿があった。個別机で問題集をしているそいつに俺は肩をたたいた。俺に気づいたそいつはニコッと微笑む。
「駿君。」
小声で言った。
「よう、萌。元気だった?」
「うん。駿君は?」
「勿論元気だよ。学校でのほどぶりも冷めていいんじゃないか?」
「そうだね。なんだか夢のようだもの。でも・・・・」
その時、放送が流れた。
「皆様こんにちは。今日は水曜日ですので、午後3時から人気の本展示会を行います。
お気に入りの本が見つかるといいですね。」
萌はピクリと反応した。
「やっぱり・・・・お気に入りって言葉がトラウマになっちゃったみたい・・・。」
「そう・・・なのか。」
萌は困ったように笑った。
「駿君は大丈夫?」
「うん。そんな気にしないかな。萌、気にしなくていいぞホント。」
「ありがとね。」
その後俺たちは勉強して、そして、別れた。
何日かたった昼下がり、俺は自分の部屋でアイスキャンディを舐め、思った。
最近萌に逢ってないなぁ。図書館以来だ。宿題は終わったし、図書館に行く理由なんてもうないからなー・・・。
ん?なんで俺そんなに萌に逢いたいんだろうか?ほんの夏休みの間なのに。
そこへ、バーン!とドアを開ける邪魔くさい同居人が来た。
「いいなーっ、アイス!!いーないーないーなぁーっ!!!」
「なんで。冷蔵庫に入ってるだろ。うっさいから消えろ。」
「ないの!アイス!」
「ハァ!?」
「そうなのよ逞。今日逞ので打ち切りだったみたい。」
母さんも来る。
「嘘っ・・・」
「ほんと。からっぽ。ずっと、お兄ちゃんがズルいって聖奈が言うもんだから・・・」
「・・・いってらっしゃい。」
俺は母さんが買い物に行く前提で言った。が、
「何言ってんの。逞、お願い♡」
と、マイバッグを渡してきた。
「なんで俺!?」
「だって、どうせ宿題は終わったんでしょ?やることないだろうし・・・ね?妹の為でもあるんだから。」
「なんで兄貴が妹のために働きゃないのよ。普通逆だろう。そうだよ、店近いし自分で行ってこい。」
「やぁーだぁー!!」
「駄目に決まってるでしょ。こんな小さいのに。」
「・・・・はぁ。」
結局、言葉が強い家族約2名に負けて俺が買いに行くことになった。
近くのコンビニに行き、アイスを所持金以内でできるだけ買いまくる。・・・ふと思った。こんな時また偶然萌が通りかかったりしないだろうか?何か買いに来ないだろうか?と。まぁ、何かない限り、萌が来るはずないか。
代わりと言っちゃあなんだが、違う北中生が来た。嫌な奴だった。俺のクラスの悪がきども。
「あ、駿だ。」
「マジ!?」
「お~い、駿~!」
無視はできない。うん、する勇気ない。俺も作り笑いで手を振った。
家に帰り、妹にアイスを与え、大人しくなったところで、俺は割と涼しい自室に入った。
何故だろう、夏休み中、ずっと頭の中は萌でいっぱいになっていた。逢いたくて、話したくて、笑いあいたくて、堪らなかった。
何故なんだろう?こんなもどかしい気持ちになったのは初めてだった・・・・・______
駿君、意外と鈍いですね。
次回もよろしくお願いします☆