第6話 狂ってる・・・・
体育大会が終わったころから、2組が急変していった気がするのは、俺だけだったのかな。
その原点はきっと、大原先生にあったのかもしれない。
英語の授業の時のことだ。大原先生は、楽しく学習する教育方法でやっているらしく、様々なグッズや、ワードが登場するのだ。その日もそうだった。
「は~い、では、前回の授業の復習をしたいと思いま~す☆」
先生は黒板に英語で”あなたは音楽がすきです”と書いた。
「じゃあ、これを疑問文に直すにはどうしたらいいでしょうか?」
皆はいったん黙る。誰も手を挙げないため、大原先生はこう言った。
「皆ー、”Be動詞、なければ出てくるDoラえもん(どらえもん)だよ!」
「・・・・」
はぁ。覚えやすいッちゃあ覚えやすいのかもしれないけど、なぜそのキャラに合わせたのかな?
「先生、それもういいですよ。」
一人の男子が呆れて言った。
「えー、なんで?あたし、いいネーミングセンスあると思うけどなあ。天才でしょ??」
・・・はぁ。仕方ないから答えることにした。
「Doyoulikemusic?ですか?」
「流石、逞真☆アッタリ~」
それだけではない。
「じゃあ次は今人気のあのアイドル・・・」
先生は黒板にあるアイドルの写真を貼った。
「AKB38でやってみましょう!」
クラスの一部が盛り上がった。
「あ、たかみの!」
女子だけじゃないんだこれが。
「淳子ォ、俺の淳子ォ~!!」
気色が悪いが、熱くなってる男子もいる。
「もー、皆興奮しちゃって!そんなに可愛い?私より可愛くないと思うけどーっ??」
「・・・」
空気が一変した。そう、大原先生はナルシスト発言が多いのだ。
「絶対ないだろ。」
「うん。AKB可哀想。」
生徒からブーイングが来るが、大原先生は気にせずルンルン気分だ。
こういうことがあり、先生対生徒の間で亀裂ができ始めた。いつの間にか2組の間で”大原キモい、ウザい”という言葉が流行し始めた。先生を呼び捨てしている時点で、変わっていったことがわかるよ。それに、北西小だった子たちだけで言っていたのが、気付かぬうちに北小だった人たちまで言い始めた。洗脳されちゃったのかな・・・。
そうして、先生へのイジメが多くなった。朝、先生が来る前にドアに汚い黒板消しを設置して、来た時に先生の頭上にあたって笑いまくったり、先生のチョークや、教室にあるチョークを隠したり、単元テストになれば、英語の時だけ後ろ向いて答え訊いたり、授業中本読んだりメモ帳まわしたり、とにかく授業にならなかった。しばらくその日常が続くと先生のやる気自体がなくなった。生徒はザマーと大はしゃぎ。
6月中旬には教室に物が落ちていたり、黒板にチョークが置いていないことが当たり前となった。
落ちているものは主に小さくちぎって投げた後の消しゴム、使い捨てボールペン、英語のプリントで作った紙飛行機などなど。こんな状況に慣れる自分が情けないよ。
先生を見ても、教卓に座り込んで呆れ顔するだけだから頼りにならない。先生に何か注意しようと試みても、先生に反論するなんて・・・・と、いつもできないんだ。
萌へのイジメもヒートアップしていった。前まで萌にこびてた男子どもも、女子に変な噂をきいて萌を毛嫌いするようになった。たとえば、席替えで同じ席になると、
「うわ、坂下かよ・・・。運ないじゃん!」
と、嫌がるし、声も掛けなくなった。女子はというと、
「ゴミ捨ててきて。」
と言われると、すべて萌の机の上に置く。その女子いわく、
「え、だって、ゴミ捨てるんでしょ?ここ最適だよ~♪」
らしい。意味わかんねーよ・・・
しょんぼりしている萌をいつも俺は励ましていた。誰にも見られない場所に行って。そのたびに俺は萌のことが気になっていた。萌と話すだけで、クラスのことでピリピリしていた感情が穏やかになる。どうしてなんだろう。
「気にするなって。」
「ありがとう、駿君。」
これが俺たちの毎日会話する中での最初の言葉だ。
6月末には、期末テストがあった。6月なのにもう期末!?って感じだけど、仕方がない。2週間前を切ったため、俺は、テスト勉強に励むことにした。
今日(土曜の午後)は、達之介が家に来て、一緒に勉強する日だ。俺は帰宅部だけど達之介は野球部。時間は午後しか空かない。
6月だが、もう暑い!真夏のようだと思って温度計を見ると30℃を差していた。もう、温度計なんて見るもんかよ。
達之介が家に来たら、ますます暑苦しさが増した。汗びっしょりで、色黒にガングロメイクをした感じだったから。
「お前な・・・・。見てるだけで暑苦しいわ。」
「そっかぁ?実に暑いのは確かだけど。」
「とにかく入れよ。妹いるけど気にしないで。」
「ふーん、歳は?」
「4歳。うるささ抜群だ。」
「可愛いもんじゃないか。うち全員男で上しかいないからある意味うるさいから、大丈夫だ。」
中に入ると、すぐに聖奈が扇風機に当たってるのが見えた。
「ぷー。ん?」
達之介に気づいたみたいだ。
「よっ!」
驚かないでくれ、聖奈の言葉だ。どこで学んだんだか、こんな下品な言葉遣い。
「おー!よう!!元気だなーっ。妹ちゃん名前は?」
「聖奈。」
「聖奈ちゃんか。俺ァ、達之介っていうんだ。」
「たつのすけくん。」
「おうよ。よろしくな!」
そのまま俺の部屋へ向かう途中、達之介は小声で
「可愛いじゃねーかよー!」
といった。あれのどこが。お前は本性を知らないからそんなこと言えるんだよ。あ、扇風機。
俺は扇風機のスイッチを切って持ち上げた。
「これ、兄ちゃんたち使うから。」
「あー!だーめ、だーめ!!」
「勉強するから我まま言うな。」
俺は言い捨てて部屋へ入った。
それぞれ勉強し始める。
「駿ー、お前数学のワーク範囲終わった?」
「とっくの間にワークは終わったよ。で、何?」
「この応用問題わかんなくてさ、全体ガラTだすよね。」
ガラTは元の名を大柄T。数学の先生だ。
「大柄先生は出すだろ。ワークからしか出さないもんあの人。」
「だよなー」
「ってかさ、それ全然応用じゃないじゃん。基礎中の基礎だよ。方程式の移項だろ?+と-反対にしたら解ける。」
「うわ、流石駿。数学得意っていいよな~。大人になって役立つもん。それに比べて俺は野球にしか目がないもんだから。」
「野球で生きてけばいいんだよ。」
「そうなるかねー。馬鹿でも。」
「・・・達之介。」
「なに。」
「クラス、ヤバくない?」
「はぁ、お前ってホント話変えんの理不尽過ぎ。」
「ごめん。馬鹿って言葉で思い出しちゃった。」
達之介は手を止めた。
「確かに、ヤバいな、ありゃ。」
「狂ってるよ。」
「はは、そりゃいいや。・・・マジに、北西の時よりヒートアップしてる。」
「やっぱり、小学校でもこんなことあったんだ。」
「あぁ。原因は大原Tみたいに、教師が悪くてな。ああ育っちまった。でもこんなこと初めてだ。小学の時は体小さくて迫力なかったから尚更だけど、ドラマでも同じこと放送してたやつもあったからな。それ真似してやってるんだよ。」
「なんで、イジメやるのかな?意味ないと思わない?」
「意味はないな。ただ、やりたくなる理由はわかる気がするよ。」
「なんで!?」
達之介が口を開こうとしたとき、いきなりドアが開いた。
「あつーい!」
聖奈かよ。
「勉強の邪魔するな、馬鹿!」
「あっついんだも~ん!お邪魔しないから、ここいてい?」
「駄目に決まってるだろ。ただでさえ暑いのに人口密度が多くなったらたまったもんじゃねぇよ。」
「じんこうみつど?」
「あ~っ、なんでもないよ。とにかく出てけ。」
聖奈は頬を膨らまして仁王立ちした。
「や!」
「ハァ!?」
「まー、いいじゃんかお兄さんよ。邪魔しないって言ってるんだし。」
「お前・・・甘いんだな。末っ子恐るべし。わかった、いていい。」
「ホント!?ありがと達之介君!」
「なんで俺じゃないんだよ。」
「だって、兄ちゃん説得したの達之介君。」
「・・・あっそ。」
「か~わい~な~♪たっくよぉ!」
はは、今度は達之介が鼻の下のびてるよ。まったく、暑くって反論する気力もわかないよ。
そして、期末テスト当日となり、そして終わった。
来週になって色々返されたが、様々なことで驚いた。
まず俺の点数。国語82点、数学98点、理科90点、社会80点、英語75点、保体85点、音楽79点、技術家庭84点だった。
驚いたのは5教科の中で80点を取れなかったやつがあるってこと。英語だ。授業になってなくてわからなかったといっても言い訳になるが、ホントに意味が解らなくなっていた。1年生でこんなんだったら、正直へこんだ。
さらに驚いたのは平均点数だ。どの教科も70点平均になっていないのだ。母さんの話と全く違った。酷いのが英語。平均37点。ウソだろ・・・と思った。やっぱり、授業になってないってのが、響いてるらしい。
もともと馬鹿なのか、中学でこうなったのか、とにかく、驚いた。
家に帰って、父さんに見せても同じようなことを口にした。
狂ってるよ、やっぱり。この先の1年2組が心配になってきた・・・・・。