第4話 逞真の家で・・・
「ただいま。」
アパートのドアを開ける逞真に反応して、高校生か大学生ほどの女の子が駆けてきた。
「お帰り、兄ちゃん!・・・?」
逞真の妹の聖奈だ。兄の背後にいる女に沈黙する。
逞真はそのまま靴を脱いだ。
「入って。」
「お邪魔します・・・。」
逞真の無表情振りに聖奈はニヤッとする。
「兄ちゃん、その人は?もしかして、兄ちゃんの。」
「馬鹿。」
聖奈の頭を軽く押して、逞真はリビングに入っていった。
「聖奈、茶でも淹れてこい。」
「はーい!」
「い、いいよ構わなくて。」
「いや、長話になりそうだからな。いいから、そこに掛けて。」
逞真はソファを指差した。萌は頷いて座り、ふと、台所の聖奈を見た。
「懐かしいな、聖奈ちゃん。あの時は幼稚園児だったのに大人っぽくなってて。ねえ、駿君は二人で生活しているの?」
「一応な。あいつはただの居候だ。」
「居候・・・」
「今、両親と揉めているらしい。まったく、受験生のクセに。」
逞真も反対側の椅子に腰掛けた。すると聖奈が茶を運んでくる。
「別にいいじゃん。勉強なら兄ちゃんに教えてもらえばいいし。駿河先生」
「俺は中学専門だ。」
萌はクスッと笑った。
「駿君やっぱり根は変わってないんだね。でも、中学行ってびっくりしたわ。昔の面影全然ないんだもの。」
その言葉に、逞真は深刻な顔をする。
「それはこちらの台詞。最初全くわからなかった。何故私がここにいると?」
「私、ピアノの講師なの。その教え子が貴方の生徒で、名前を聞いてハッとしたわけ。」
「あぁ、優花のことか。」
「そう。駿君、生徒からの印象あまりよくないのね。あ、ごめんなさい。でも優花ちゃんが、真面目で几帳面過ぎて、毎日お説教してる人なんだって。」
逞真は苦笑した。
「いいんだ。そう思われているのはとっくの前に気づいているから。」
「でも、どうしてそうなったの?昔は真逆のように明るくて笑顔を見せていたのに。」
「・・・色々あってな・・・。」
「ほー、色々ねぇ。彼女さんに教えなくていいのかな?大事なことなのに。」
聖奈がイヤミったらしく言った。逞真がギロリと睨む為、聖奈はニカッと笑った。慣れているらしい。
「それにしても_____」
逞真は不意に萌に顔を近づけ、彼女の額を露出させた。
「未だにこの傷が残っていたなんてな・・・・」
聖奈はニヤニヤして拍手した。
「熱いね、熱いねーっ!」
逞真も流石に堪忍袋の緒が切れて、額に血管を浮かべた。
「聖奈ー?(怒)」
素早く立って、聖奈の服の襟を猫のように掴み上げた。
「お前には関係ないんだ。向こうに行っててくれないか。」
「嫌だよ。兄ちゃんたちの話聴きたいし。」
逞真は軽々しく聖奈を抱き上げ、部屋のほうへと歩き出した。
「この際、特別に俺の部屋を貸してやる。受験勉強に最適な本が数えきれないほど置いてあるぞ。」
「嫌だー、放してーっ!!」
そんな聖奈の叫び声に聞き耳持たずに、自分の部屋に妹を閉じ込める。
「・・・はぁ、済まないな。これでゆっくり話すことができる。」
萌はフフッと微笑んだ。逞真も思わずもらい笑いしてしまう。
「萌は、覚えているか?中学の冬時期か、私が口にしたこと。君のその傷が大人になるまで癒えなかったら_____」
そこまで言うと、慌てて萌は口を挟めた。
「そ、それ冗談だと思ったのに。あのときはまさか、駿君とこんな風な関係になるなんて思ってなかったから・・・。」
「私もだ。が、今でも責任は感じるんだ。その傷で萌が女性として損害を受けるのは当たり前だと思ったし、それならいっそ私が引き受けたほうが良いとな。私は男だから、まだそんな傷くらいはどうでもいいと思えただろう。本当に、災難だった。」
「・・・・・」
萌は押し黙った。自らの額に手を当てながら。
そんな姿を見ながら、逞真は苦笑気味に目を細めた。
「何だか、萌に逢った途端に色々な過去を思い出してしまった様だ。じゃあ、まず私たちの過去について語り合うことにしようか。」
「うん。」
萌は微笑んで頷いた。
「私たちの出会いは、中学の入学式だったな。」
逞真は二人の過去について話し始めた。
さて、続いての話からは逞真視点の過去編です。
どんな過去なのか・・・?
次回もよろしくお願いします☆