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『約束』  作者: wokagura
☆本編☆
37/39

第37話 2年3組団結






「ねぇ、今日の放課後さ、どっか部活ある?」


 朝、3組の教室で、賢吾がふと言った。


「ないだろ。今日は職員全員会議で放課後は部活できねぇもん。」

「だよな。」

「急にどうしたん?賢吾ォ。」

「いや、ちょっと駿Tのこと、みんなまだ整理できてないと思って。」

「ん、確かに。ほどぶりは冷めたけどなんかスッキリしない。」


 賢吾はだろ?と机に絵を描き始める。


「だからさ、今日の放課後、3組で討論したいと思って。」


 丁度机に描いたヘンな生物の絵が完成した。


「それ、いいかもね。ねぇ皆!」


 紘一郎が教卓の前で叫んだ。一気に注目される。


「今日の放課後、皆3組集合ね!駿T会議を行いやす☆」

『OK☆』


 皆はサラリと許可した。その時、職員会議を終わらせた逞真が教室に入ってきた。


「何をしている、紘一郎。とっくに朝読書の時間は始まっているぞ。」

「あっ、いや、その・・・スンマセン。」


 生徒たちはクスクス笑いながら、自分の本を読み始めた。










 そして、放課後・・・・


「よぅし、みんな集まったな!はかせ君、会議の時間何時だっけ?」

「ズバリ、もう始まってますな。」

「完璧だぜ☆んじゃ、始めるか。」


 皆は席に着き始めた。


「ではではまず、噂がどんなものだったかについて。上手く言える人!」

「そんじゃ、俺言おうかな。」


 神路勝(かみじまさる)が手を挙げた。


「ある期間、駿Tが夜遅くに何人もの女を家に連れ込んでやった。その女は全員妊娠した。それを家の母さんが見ったってんだ。」

「そうそう。」

「色気ヤバかったらしいぜ。」

「あのどっちかっていえばクール系の駿Tがw」

「男は狼ね。」

「あんた誰だよ・・・」

「教師クビだよな。」

「全員妊娠だもん。不倫ね、フ・リ・ン!!」

「ってか、やっぱ彼女いたんだ。」

「いや、彼女かどうかは・・・・」

「体だけの関係ってヤツ?」

「お前!18禁男って呼ぶぞ!」

「こういうこと知ってる時点で俺ら同類じゃねーかよ!!」


「ストーップ!!みんなせいしゅくに!!今は噂の愚痴大会じゃないだろが!」

「いや、ついノリでb」

「なにb←コレつけてんだよ!まず聞けィ!!」

「勝、どーもでしたっ。次、駿Tが休んで今に至るまでの経緯について。誰?」

「んじゃ、オレ♪」


 野球部の佐久間大晟(さくまたいせい)が立ち上がる。


「駿T、全然反省してない様に見えたから、俺たちでいじめてやったんだ。殴ったりけったり。」

「あ、確か金属バットでくたばらせたよな。」

「そう。多分骨折はしたんじゃないかな。そういうことして、流石に駿T休んだよ。一週間。そのあいだはパラダイスだったけどな♪」

「うんうん。あーだこーだ言われずにっ。」

「そんで、帰ってきたんだけど、すっかり傷とか治っちゃって、それで今に至るわけ。」

「あ、付け足し付け足し!」


 女バスの現部長・堀川伊月(ほりかわいつき)が手を挙げる。


「その休む前に、女バスが手ェ抜いたゲームして怒られて、無期限停止にさせられた。復帰した後うちらでしつこく頼んだら、涙ながらにOKしてくれた。”根はいい子たちだ”って。ま、信じることはできなくても、普通に指導は受けてる。」

「オレらも信じちゃいないけど、でもいじめてはいない。無意味だから。」

「流石に信じられないよね。だってあんなことしたんだもん。」

「そーそー。」


 花帆が頬杖つきながらヘッと笑って言った。


「待って。」


 一ノ瀬波音が口を挟めるように言った。


「あっ、ゴメンね急に。」

「ううん、で?」

「そのことなんだけど、皆信じてないって言うけど、そもそも本人がしたって言ってないよね。ただの嘘かも知れない。」


 その言葉にみんな押し黙る。


「確かに・・・めっちゃ否定してた。」

「駿Tみたいな人、本当だったら認めるよね、普通。」

「・・・だとよ、生徒会!」

「なんでアタイが責めらにゃあかんのよ!」

「お、落ち着いて、花帆それから賢吾。」

「ホレ、波音は優し♡賢吾ちゃんとはお~違いっ!」

「テメ。」

「話し戻るか。それにさ、例え本当だとしても大人なんだから別によくない?」

「そうだよね。駿Tだからって、普通にするときだってあるよ。」


「ねぇ、駿Tこのこと許してもいいんじゃね?」

「だよね。」


 皆も頷く。


「これからは、普通通り接しようよ。それにホラ、無視してたら居心地悪いでしょ?」

「成績も落ちるしな。」


 皆は笑った。


「んじゃ、これで解散でいいよね?」

「おう。」


「じゃ、礼して帰るか。いいんちょ、頼んます☆」

「よっしゃ。気を付けー、さいなら~」

『さいなら~』


 そして皆は別れた。









 その晩、逞真の家では、逞真が何やらパソコンでプリントをつくっていた。


「・・・よし、これでいいかな。」


 それは、学級通信で、今回は一段と文字数が多くなった。


「これで、わかってくれればいいが・・・・」


 その時、逞真のもとに一本の電話がくる。


「はい。」

『駿君、私萌だよ。』

「うん。どうした?」

『明日のこと。打ち合わせ通りでいいんだよね?』

「・・・あぁ。その通りにやってくれればいい。頼むぞ、萌。」


 逞真は微笑んだ。


「それで・・・・生徒たちが信じてくれればいいが・・・・」

『心配?』

「ちょっとな。」


 萌の音声にクスッという息遣いが入った。


『駿君なら大丈夫だよ。今まで信頼してきた仲なんでしょう?わかってもらえなかったらそれまでの仲でしかないよ。』

「・・・そうか。」

『大丈夫。もし、駿君の思うようにうまくいかなくても、私が守るから。』

「ありがとう、萌。・・・フッ、彼女に守ってもらうなんて、男らしくないな。」

『そんなことないよ。』


 逞真は再び笑みがこぼれた。


「やはり、萌が帰ってきてホッとしたよ。なんか、話しているだけで緊張が和らぐんだ。これからも、傍にいてくれるか?」

『うん。勿論だよっ!』


 萌の明るい声とともに、電話は絶えた。逞真は携帯をしまい、決心したように表情を変えた。










 次の日・・・・


「おはよう。」


 そう言って教室に入ると・・・・


『おっはよーございます!駿T!!』


 と、以前のような元気な声で返してくれた。


「ど、どうした?お前たち。」

「どうしたって?これが普通の俺たちじゃありませんかっ!」

「そうですよ、もしかして忘れちゃったんですか?」

「そ、そんなことはない。ただ、驚いただけだ。・・・もう、気にしていないのか?」

「え?なにがァ??」

「いや、なんでもない。」


 逞真はぶっきらぼうに言って俯いたが、本当は嬉しくて堪らなかった。





 その日の6時間目は学活だった。

 逞真は教卓の前にプリントを置き、決心して口を開いた。


「皆、聞いてくれ。」


 一気に注目を浴びる。


「いつでも聞いてますけど?」

「どしたんす?改まって。」

「皆に、話さなければならないことがある。」


 その時点で、生徒たちは深刻な顔をしていた。

 逞真は頷いて、こういった。


「・・・噂についてだ。」


 生徒たちは”おっ”と、目を見開く。


「噂というのは、皆はもう知り尽くしてると思うが、念のため言っておく。私が、何人もの女性と夜遅くに会って、性行為をした。そしてその女性たちは全員妊娠してしまった、ということだったな。おそらく皆はもう性行為については知っていることと思う。保健で習っただろうし、この年頃になると知ってしまうのだろう。中学教師がこんなことを言っていいのかわからないが、でもそれを踏まえて言わせてもらう。」


 生徒たちは真剣なまなざしで逞真を見詰める。


「今更言ったって、信じてもらえないというのは十分承知の上だ。だが、本当のことを言うと・・・それは嘘だ。」


 きゅっと手を握り締める生徒たち。


「本当に、嘘なんだ。私は、何人もの女性と会ってはいない。また、複数の人との性行為はしたことがない。だがな・・・本当の部分もある。」

「え?」


 思わず声をだしてしまう。


「私は一人の女性と会って性行為をしたのは事実だ。そして、妊娠させた。これだけの証言では信じられないだろうから、その本人を連れてきた。・・・入ってくれ。」


 その言葉とともに、扉が開く。そこには萌の姿があった。


「も、萌先生!?」


 優花が声を荒がす。


「そう、優花は見覚えのある顔であろう。ピアノの担当講師なのだから。」


 萌は一礼して、逞真の隣に寄った。逞真は萌の肩を抱く。


「彼女の名は坂下萌。現在ピアノの講師をしている私の恋人だ。」


 わぁ、となる生徒たち。


「あ、確かにお腹が膨らんでる。」

「萌、話してくれるか。」

「はい。」


 逞真の脇を通って、教卓の前に立った。


「彼が今話した通り、それは本当です。でも、私以外の女性とは会っていないと思います。そんなこと、彼がするはずありません。」


 逞真はフッと笑った。


「皆さんもわかってるはずです。駿く・・・いえ、駿河先生がそういうことする人じゃないって。今まで一年と約半年過ぎ、ともにいた生徒さんなのでしょう?そうしたら、信頼できる仲に、十分なっているはずです。ですから、駿河先生を信じてあげてください。」


 生徒たちは沈黙する。


「萌、ありがとう。・・・皆、わかってくれたか?いままで誤解させて、本当に済まなかった。」


 逞真は頭を下げた。おそらく、生徒に頭を下げるのは初めてかもしれない。


「・・・駿T、顔あげてよ。」


 逞真はハッとして顔をあげる。


「もう、わかってたよ俺たち。」

「実は昨日皆で話し合ったんだ。駿Tを許してあげようよって。」

「なっ・・・」

「なんだぁ、そういうことだったんか。勝の母ちゃん誤解しすぎ!」

「そう母さんに言っとく。」


 生徒たちは笑った。


「でも、私たちも悪かったね。凄い誤解して。」

「しかも、暴力まで奮って。」


 生徒たちは立ち上がって頭を下げた。


『先生、ホントにごめんなさい!』


 逞真は思わず一滴の涙をつたらせた。隣にいる萌は微笑んでいる。


「皆・・・私を・・・信じてくれるのか・・・?」


 生徒たちの顔は活き活きしていた。


「どうしてだ・・・?どうして私の周りには素直でいい子しかいないんだ・・・?私は・・・なんて幸せ者なんだ・・・・」


 逞真は目をこすりながら俯いた。生徒たちはクスッと笑う。


「先生~泣いてるの?」

「駿Tが泣いちゃ、俺たちどうしようもないじゃん。」

「はは・・・そうだな。済まない。」


 逞真は顔を上げた。


「駿T~!!」


 途端に生徒たちが群がってくる。


(ね?大丈夫だったでしょう?やっぱり駿君には敵わないよ。生徒たちに守られてるっていうか・・・凄く温かくなるね。)


 生徒たちに囲まれる逞真を見て萌は微笑んだ。


「おい、もう座ってくれ。配りたいものがあるんだ。」

「え、なになに?」

「学級通信だ。さっき話したことが、同じようにここに書いてある。保護者に見せてくれ。」

「あいあいさ~♪」


 逞真はプリントを配り始めた。









 その夜、それぞれの家でプリントは渡り、保護者たちは驚いた。


「へー、そうだったの。」

「え、なにがだ?」

「駿河先生の噂、嘘だったんだって。」

「なんだ、そうだったのか。」


 そういう会話が多かった。




















 それからしばらくし、二人は同居していた。


「はい、コーヒー入ったよ。」

「あぁ。ありがとう。」


 逞真はパソコンに目を向けたまま言う。


「忙しそうだね。」

「あぁ。」

「生徒さんとはあれから元通りになったんでしょう?」

「あぁ。」

「・・・駿君?」

「あぁ。」


 萌はテーブルを叩いた。



 バシッ



「うおっ、なんだびっくりするじゃないか。」

「だって、真面目に聞いてくれてるかなって思って。駿君いっつもそうなんだもん。」


 コーヒーを口に運びながら逞真は不意に思った。


「なぁ萌。」

「はい?」

「その駿君っていうのもそろそろやめようぜ。」

「え、なんで?」

「もうそんな仲じゃないだろう。これからこっちも自分のこと俺っていうから。」


「で、でも、なんて呼べばいいの?」

「・・・・逞真とか。」

「えっ!?いきなりそんな風に呼べないよ!」

「何故?もしかして、まだ人のこと呼び捨てにしたことないの?」

「う、うん・・・・」


 赤くなる萌に、逞真はフッと笑って頭を撫でた。


「だったらさ、俺がその一番目になるよ。」

「え?」

「呼び捨てされる一番目。いいだろう?」

「いい、けど・・・」

「じゃあ、逞真って言ってみろよ。」


 萌はまた顔を赤くして、俯いた。


「可愛いが、照れるな。」


 逞真は萌のあごを持ち上げた。萌の顔はもうリンゴ同然だ。


「た・・・逞・・・真?」

「疑問形じゃなくて。」

「意地悪。」

「で、悪かったな。」


 萌は少し頬を膨らませて、そして、言った。


「逞真。」


 流石の逞真も、思わず見惚れてしまった。


「・・・逞真?」

「あ、いや、なんでもない。よし、よく言えたな。」

「なんか、恥ずかしいな。」

「何故だ?」

「なんででも。」


 二人は微笑んだ。その時、聖奈があくびをして部屋を出てきた。


「ふあ~、おはよ・・・ございます。」

「もうおはようじゃないだろうが。時計を見ろ。」

「むぅ・・・わかってんのよ。だって昨日何時まで勉強してたと思ってんの?3時よ、3時!ハンパなくない!?」

「受験生なら当たり前じゃないのか?」

「なによぅ!どうせ二人はラブラブしてたクセに!!」


「「えっ!?」」


 二人は同時に振り向いた。


「図星か☆だってぇ、聞こえちゃってたよ?”俺が、呼び捨てされる1番目になる”って。ねぇ?」


 逞真は震えて、血管を浮きだたせた。


「せ・・・・聖奈!!」

「わー!怒った!!」

「俺を見下すんじゃないぞ!お前に何やらせてもいいんだぞ!?」

「なにするつもりー?あ、ねぇ、兄ちゃんこそ時計見たら?」

「あぁん?」


 不意に時計を見て逞真は血の気を引く。


「・・・部活、10分前・・・・」

「レッツへリ~♪」

「い・・・行ってきます。」


 逞真はエナメルバッグを持って玄関を出ていった。


「気を付けてねーっ」


 そう叫ぶ萌の隣に聖奈は座った。


「やれやれ、兄ちゃん萌さんには優しいのに。」


 萌はフフッと笑った。


「でも、同居してくれてよかったな♪だって、萌さんのこと、萌お姉さんって呼ぶ日が来るんだもん。」

「なんなら、もうそう呼んでいいよ?」

「ホント!?」

「えぇ。」

「やった!萌お姉さん♪」

「なーに?」


 聖奈はキャ♡となった。











 そんな、幸せな日々を過ごしていく、駿河家であった・・・・






次回もよろしくお願いします☆

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