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『約束』  作者: wokagura
☆本編☆
36/39

第36話 切ないトライアングル





 街の片隅にある、割と大きな音楽会社のビル。そのピアノ教室の階で萌はいつも働いている。


 この頃の萌は妊娠のため、よく体調を悪くしていた。ピアノのレッスンも最近は辛くなってくる。それは、そこで働いている仕事仲間も知っていた。


 その中の一人の男性・遠藤呀怜(えんどうあれん)も萌のことが心配で堪らなかった。


 呀怜は一生音楽を欠かすことのない男であろう。生まれた時から音楽に恵まれて、ドイツ人の父親と日本人の母親に育てられ、容姿端麗のまま28年生きてきて現在ピアノ講師として働いている。

 上品な萌とも気が合って、良き友人である。萌のそばに逞真がいるときまでは・・・


 今の呀怜は萌のことが気になり始めているのだ。最近も距離を縮めてきている。


 



 呀怜はピアノのレッスンを終え、萌に声を掛けた。


「お疲れ様、萌先生。」

「あ、お疲れ様です。呀怜先生。」


 萌はいつもの笑顔で呀怜のほうを向いた。


「最近・・・萌先生の体調が思わしくない様に見えるんですが、大丈夫ですか?」

「はい。体調悪い様に見えちゃいましたか。それはすみませんでした。」

「いえ。あの、失礼ですがお腹に膨らみがありますね。妊娠・・・されてるのですか?」


 萌は遠慮がちに小さく頷いた。


「それはそれは。おめでとうございます。」

「・・・ありがとうございます。」


 萌の表情はあまり嬉しそうではなかった。それを察した呀怜は深刻な顔をする。


「どうしました?嬉しそうではありませんね。」

「いえ、そんなこと・・・。」

「・・・お相手は?」


 萌は俯いて首を振った。


「え・・・、いないんですか・・・?」

「いるんですよ。でも・・・今はもう逢えないんです。」


 呀怜は”どうりで・・・”と思った。


「ごめんなさい。触れてはいけないことを聞いちゃいましたね。」

「そんな、全然!私こそ、呀怜先生を不快にしてしまって、その・・・すみません。」

「気にしてませんよ。それよりも・・・」


 呀怜は自分に何かできないかと思い、思わず言った。


「僕が、その子の父親代わりになりましょうか?」

「えっ?」

「萌先生一人では心細いでしょう?」


 萌はフフッと笑って呀怜を見た。


「全然大丈夫ですよ。私、こう見えてこういうの慣れてますから。気持ちだけ、受け取っておきますね。」


 萌の明るい笑顔に、呀怜も苦笑した。


「えぇ。わかりました。」










 一方、逞真のほうは・・・



「・・・・はぁ。」


 夜の12時をまわったころ、残業をすまし、ソファに座っていた。手にはハイボールの入ったグラス。酒を飲みながら逞真は考えごとをしていた。


(萌が・・・妊娠した・・・。俺が今できることは、逢ってそれを確かめて自分の罪滅ぼしをすることだ。だが、今の俺が逢っていいのか・・・?また以前のような過ちが起こるかもしれないのに。それに俺の子と決まったわけじゃ・・・)


 逞真はハッとしてグラスを口に運んだ。


(いや、何を考えているんだ俺は。萌がそんなことするはずがない。どうして萌を信じてあげられない?)


 ソファの背もたれにもたれ込む逞真。帰ってそのままのYシャツは既にシワが多くできていた。


(いや、わからない。俺と萌の交わした約束は心情のバランスが取れるようになった上にまだ想い合っていればの話だ。萌が幸せになってくれればそれでいいこと。・・・とにかくまずは確かめなければならない。付き合い直すかは別として、まずは逢わなければ・・・。)


 その時、聖奈が自室から出てきた。


「ふあぁ~、ん。兄ちゃんまだ起きてたの。」


 フラフラしながら逞真のいるソファにやってくる。


「兄ちゃんお酒!?まさかのハイボール・・・珍しい。」

「聖奈も飲む?」

「あ、もらっちゃお♡」


 聖奈がわくわくしながら手を差し出してきて、逞真は穏やかな笑みでグラスを聖奈の目の前まで運んだ。が、渡す直前で___




 ゴクリ




 と、まぁ悪戯な表情で自分の口に運んだのだった。


「あ゛~!!!」

「馬鹿。お前はまだ駄目だろうが。冗談で言ったつもりなんだが?」

「だって私飲んだってどうもなんないもんっ!」

「飲んだことあるのかよ・・・」

「高2のとき、ちょっと♡」

「ハッ、グレてたときね。はいはい。それで、何を飲んだんだ?」

「カクテルだけ。」

「なんだ、ジュースみたいなものじゃないか。これは駄目だよ。ちゃんと二十歳過ぎてから飲みなさい。」

「また子ども扱い~!!」


 逞真はハイボールを飲みほし、立ち上がった。


「しかし・・・これだけの量を飲むと流石にキツいな。頭が痛い。酔わないうちに風呂入って寝る。お前も早く寝ろよ。目を悪くしないようにな。」

「目・・・目!?」

「どうせこんな時間まで友達とメールだろ。勉強ならまだしも。」

「ギクシ。や、やだなぁお兄様。は、早く寝ま~す!!」


 慌てて部屋に戻る聖奈に逞真は鼻で笑った。


「・・・フッ」


 そして、ネクタイを緩めていった・・・。






 次の日になっても、呀怜は萌のことが諦めきれないでいた。


 出勤時刻になり萌が出勤してきたときに呀怜は萌を呼び出した。


「どうしました?呀怜先生。」

「萌先生、昨日はごめんなさい。何もわからないのに父親代わりになるだなんて言って。」

「いえ、全く気にしてませんから。」


 萌の明るい笑顔に呀怜は衝動に駆られ思わずその肩を掴んだ。


「すみません、萌先生。ですが、諦めきれないんです。・・・萌先生が好きです。付き合ってください。」


 呀怜はいきなり告白した。が、萌は冷静だった。


「ごめんなさい。それはできません。」

「何故?」

「私、待ってる人がいるんです。例えその人が別の理由で幸せになっていたとしても私は待ち続けます。だから付き合うことはできません。」

「その、相手は誰なんですか!?」

「それは・・・悪いですけど、凄く悪いですけど、言えないんです。」

「・・・そうですか・・・・」


 呀怜は力が急に抜け、情けなく肩から手を放した。


「本当にごめんなさい。失礼します。」


 萌はロビーに向かっていった。






 その夜のこと、丁度優花のレッスンが終わったときにエレベーターが開いた。そこから優花の見慣れた人物が出てくる。


「あれ!?駿Tじゃないですか!どうしたんです?」


 逞真は近づく優花に微笑んだ。


「ちょっと用があってな。優花、今日も練習だったのか。頑張ってるな。」

「へへ。もうすぐ発表会ですから。」

「そうか、頑張れ。・・・なぁ優花。」

「はい?」

「優花の講師はいるか?」

「え、萌先生のこと?まだいると思いますよ。」


 逞真の表情が深刻になる。


「どこにいる?」

「えっとぉ・・・そこの教室の角を曲がった奥に。ねぇ?」


 優花は近くにいる友達に話し掛ける。


「うん。見た見た。呀怜先生と仲よさそうに話してたよ。」


 逞真は眉間にしわを寄せた。


「・・・アレン?」





 呀怜は萌の体を抱き締めていた。


「ど、どうしたんですか呀怜先生。」

「萌先生、やっぱり無理ですか?僕じゃ。」

「呀怜先生・・・、何度もすみません。もし普通に呀怜先生と付き合っても、問題ないと思います。呀怜先生は上品でジェントルマンで優しい方ですから。」

「・・・」

「でも、今の私はできません。」

「どうせ逢えないじゃないですかっ!!」


 呀怜は思わず声を荒がした。萌は驚いて押し黙る。


「貴女はいつから待ち続けてるか知りませんが、僕の見ている限り、逢えていないはずです。どうして無謀なことなのに待ち続けるんですか・・・・?僕と幸せになればいいじゃないですか。僕は、萌先生を一切傷つけたりしません。ですから・・・・」


 その時、不意に革靴のコツ・・・コツ・・・という音が近くで鳴り響いた。


「傷つけないと言っておいて、たった今傷つけてるじゃないですか。」


 冷酷な声。その方角を見ると彼が、逞真がいた。

 逞真は外の雪に髪を濡らし、まるで野良犬のように寂しげな眼差しをしていた。


「駿・・・君・・・」


 萌のか細い声に呀怜は眉をひそめた。


「貴方が・・・萌先生のお相手ですか・・・?」

「今、相手なのかは知りませんがね。あんたには関係ないことでしょう。」


 逞真はぶっきらぼうに言って、呀怜を睨んだ。


「萌が幸せになってくれればいいと思っていたが、やはり駄目だな。あんたのような人が萌の近くにいると思ったら、心配で夜も寝られませんよ。」

「なっ・・・」


 逞真は申し訳ない表情で萌を見詰めた。


「ごめん、萌。私があんな身勝手な約束をしたばっかりに、お前を傷つけてしまった。」


 萌は涙が溢れた。


「それに、その腹。やはり本当だったか。」

「駿君・・・」


 萌は呀怜から離れて逞真のほうへ。逞真はただ萌を抱き締めた。


 呀怜は流石に諦めを感じ、俯いた。














 ビルの一階にある喫茶店で、二人は話すことにした。


「萌、まず謝る。ごめん。色々なことを踏まえて今すべてを謝らさせてもらう。」

「・・・駿君、約束を叶えられる日になったの?」

「まだ、わからない。もしかするとまた以前のような過ちが起きるかもしれない。」


 萌は驚いて逞真を静かに見つめた。


「・・・ならどうして逢いに来たの?」

「なに?」

「約束を守れずに来たのなら、私は逢う理由がないよ。」

「お前な、妊娠して、じっとしてられるかよ。そいつは、私の子なんだろう?」


 萌は頷いた。しかし、表情は笑っていない。


「そうだよ、駿君の子。」

「それなら私は一緒にいて萌の手助けをしなければならないだろう。」

「でも、駿君には生徒さんがいるでしょう。まだバランスが取れてないまま私と付き合い直したら、生徒さんの人生狂わせちゃうよ。駿君もそれはわかってるはずだよね?」

「・・・あぁ。十分に承知してる。でも、私は萌のほうが大事なんだ。それに、気付いた。萌がいようがいまいが生徒を狂わせるのには変わりないって。」

「どういうこと?」

「萌がいなくなった後、すべてが戻った気でいたんだ。しかし違った。何かの心の緩みで生徒に誤解をさせ、あいつらを狂わせた。その傷は、今も私の体に薄く残っている。」

 

 逞真は軽く肋骨に触れた。


「そのときの私には萌が必要だった。萌の愛情が欲しかったんだ。でも、約束を交わしてしまいそれは不可能になった。今の私にも萌が必要だ。私も私なりに心を緩ませないように懸命に努力する。」

「そう、なの・・・」


 萌は微笑んだ。


「いいよ。駿君は私が必要なんだね。だったら、私は駿君に協力するよ。」

「本当か・・・?」

「うん。ホントはね、私も駿君に会いたくて堪らなかった。でも駿君がって思ったらとても会えなくて。待つって言っても本当に無謀な気でいたの。呀怜先生の言葉で気づかされちゃった。でも、駿君が来てくれて、ホッとした。」


 二人は手を握った。


「これからは、ずっと一緒にいられるんだね。」

「あぁ。ずっと一緒だ。」


 強く強く手を握り合った。解かれていた糸が再び結び合ったように。


























「ただいま。」

「おっかえりぃ~♪・・・ン!?」


「久し振り、聖奈ちゃん。」


 聖奈は逞真の背後の女性に、嬉しさが込みあがってきて、思わず抱き着いた。


「萌さ~ん!!!!」

「きゃっ。あれ、こんなに甘えん坊だったの?聖奈ちゃん。」

「会いたかったぁ~!ってかなんでいてくれてるのぉ~?また付き合ってくれたわけぇ~?」

「聖奈。いい加減離れろ。萌も説明したくてもできないだろう。」

「うん・・・」





 リビングに入り、萌は改まったように言った。


「ってことで、私は再び、駿君と付き合うことになりました。これからもよろしくね、聖奈ちゃん。」

「はい!」


 萌はニコッと笑った。


 が、ふと思い出したように逞真のほうを向く。


「ねぇ、さっき生徒さんに誤解を受けたっていったけど、それ気になっちゃうな。」


 逞真は深刻な顔をした。


「・・・あぁ。その代り、お前に手伝ってもらいたいことがあるんだ。いいか?」

「うん。なんでも協力するよ。」



 逞真は例の誤解話を話していったのだった。






逞真と萌、再び!

無理矢理に思えた方、ごめんなさい!

文才がないもので・・・・

次回もよろしくお願いします☆

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