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『約束』  作者: wokagura
☆本編☆
31/39

第31話 精神的苦痛






「いってらっしゃーい☆」

「行ってくる。」


 学校に出勤するとき、逞真はこの頃少しためらうようになった。


「・・・・」

「・・いてっ。急に止まんないでよ、背中にぶつかったじゃん。」

「・・・すまん。」


 逞真は我に返って歩き出した。















 ガラッ





「おはよう。」

「・・・・」


 教室に行くと、毎日のように無視される。

 逞真はそんな光景に慣れつつあった。








 授業でも・・・・


「先生、全くわかりません。」

「・・・お前たちの場合、わかろうとしていないだけだろう。」

「いいから始めてください。」

「・・・あぁ。」


 と、相手にされない。


 また、違う日・・・


「おい、私の授業で携帯小説を読むとは、勇気のある行為だな。」

「そうなんです、うち勇者なんで。」

「勇者だろうが何だろうが、決まりは守ってほしいものだが。本を読むとは授業に参加してないということだぞ。」


 ある生徒が鼻で笑った。


「妃那に何言ったって聞かないっすよ。もともと授業に参加する気ないですもん。」

「・・・あぁ、そうかよ。だったら、廊下行って読め。授業の妨げになる。」


 妃那は喜んで廊下に出た。


「他に授業に出たくないものは出ていっていいぞ。」


 すると、ぞろぞろといなくなり、3分の2くらいの人しか残らなくなった。それでも逞真は気にせず授業を進めた。











 もうすぐ学校祭だ。2年生は校内バザーを行う。


 クラスで学活の時間、そのバザーについて担任が説明するとき。3組は誰もそれについて聞かなかった。


「・・・これを聞かないとバザーをすることはできないぞ。」

「いいです、どうせプリントがあるんでしょ?それ見ますんで。」

「はい、もうそれでいいです。」


 逞真もやけになった。


「だったら、今回の学校祭に関しては、すべて自分たちでやれ。私は一切責任を負わないからな。」

「はーい、わかりましたぁ!」


 生徒たちはわざとらしく喜んでプリントを取っていった。







 その授業が終わり、職員室に行くと、1組の梅木先生と2組の斉藤先生に”お疲れ”と声を掛けられた。


「もうはや、僕んとこの生徒たちでも話題になってますよ。」

「そうですか。」

「今回の3組のやり方もすぐに話してましたわ。まぁ、原点に立ち返ればいいやり方かもしれませんね。」

「私とはともかく、生徒たちでの間が深まるようにしようと思いまして。」


 すると、二人の先生は苦笑した。


「もう、わかってるんですね、駿河先生は。」

「何をです?」

「今回の3組のやり方を自主的にさせたのは、噂のせいで誰も君を相手にしないからですね。」

「・・・えぇ。もう、わかり切っているので否定するのはやめようと思いまして。」

「先生も、大人ですね。」

「さぁ、ただの負けず嫌いかもしれません。」


 3人の教師は冗談ありげに笑った。








 結局、学校祭関連の活動は全く逞真の手を借りず、それにしては上出来な出来栄えになっていった。当日の教室のレイアウトはデザインの達人たち・美術部に頼んで考えて、売るものは生徒たちで考えに考えた。それに逞真の頭脳が付け足されれば、文句の言いようのない素晴らしい学級になったのに、やっぱり、何かが足りない。

 音楽祭関連は、合唱部の協力の末、結構いい演奏になっていった。





 学校祭当日・・・・




「では、昨日行われた音楽祭についての発表をいたします。」


 音楽担当の室川(むろかわ)先生がステージに立つ。1年生の順位発表が終わり、2年生。


「まず1組。・・・シルバー銀賞です。」


 1組はまぁ、拍手。


「続いて2組。・・・銅賞です。」

「え、ってことは・・・」

「3組。ゴールド金賞です!」


 3組はまっさかぁー!?と言う顔で、でも喜んだ。


 


 その後のバザーは3組の教室が大人気。売り物はすぐに完売。皆満足げだ。




 つまり、教師VS生徒では超バラバラなはずなのに、生徒だけになると、3クラスの中でずば抜けて団結力の高い、ヘンなクラスなのだった・・・











 学校祭が終了して間もないある日、放課後に女子たちに呼ばれ、逞真は女子トイレに来ていた。


「勿論誰も入ってないから安心してよね、先生。」

「それで、一体なんだ。私をこんな所に連れ込んで。」


 辺りはしん・・・と静まり返っている。皆帰ったり、部活に行ったのだ。


「先生、妊娠させたのにもかかわらず、何も変化ないよね。」

「だから、嘘だと言っているだろうが。」

「女の人たちは一体どんな気持ちしてるんだろうね。」

「聞いてないのかよ・・・」

「先生、紳士的じゃないよね!意外だったけど。もっと、レディーに優しい人かと思ったぁ。」

「それは済まなかった。話はそれだけか。」


 呆気なく終わらせようとすると、女子たちがムッとする。


「ホント、わかってない!」

「女の人たちの気持ち、思い知らせちゃおうよっ!!」


 と、女子たちがいっせいに逞真にかかってきた。


 逞真は小さく溜息を吐いてそれらを余裕でかわす。およそ10対1の対決だ。


「・・えっ!?」

「い、意外と素早い・・・!」


 大人と子供、男と女の差だろう。逞真はトイレの奥のほうに身を寄せ、軽くネクタイを整えた。


「それだけなんだな。」


 逞真はそれしか言わなかったが、女子たちの想いは十分伝わっていた。


「お前たちの言いたいことはわかったが、教師に手を出すとは、いただけないな。」

「っ~!!」

「これからは、気を付けるんだな。それじゃあ、私は行くからな。」


 トイレを出ていく逞真に女子たちは何もできなかった。






 が、次の日、今度は男子まで連れてきた。


「・・・まだ懲りてなかったのか。」

「先生、今度こそ思い知らせてあげるっ!お願い、男子!」


 男子たちは逞真の腕を固定させた。


「お前たち、なにを・・・」

「スマンな、先生。幼馴染の言うことは絶対なんだよね。」


 その矢先、逞真の腹に激痛が走った。違う男子が腹にグーパンチしてきたのだ。


「先生、意外に硬いね。」

「ホントだ、バスケ部の顧問たる者、自主トレとかしてるんかね。」


 次に胸部、脇腹、背中・・・あらゆるところを殴りまくる。


「うっ・・・くっ・・・・」


 逞真は必死に耐えた。女子たちはケラケラ笑っている。逞真の弱点を見せた瞬間だったからだ。

 

 ガードしようにも生徒に手を出すわけにもいかず、どうしようもできない。しかもその男子たちはスポーツ部だったものだから、力は逞真と同じか、それ以上だ。



「今日は、これまででいいんじゃね?」

「うん、ありがと♡男子たち!」


 と、皆は逞真を放し、向こうへ行ってしまった。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 逞真は壁にもたれかかって荒い呼吸を整えた。


「こんなの・・・初めてだな・・・・。これが、大原先生がされたことの一部、か・・。」


 逞真は嘲笑した。


(たかが誤解でこんなことになるなんてな・・・)





 

 家に帰宅して服を脱いでみると、全身に痣や打撲ができていた。




 そのせいか、逞真はこの日から毎日体調を崩すようになった。


 朝、鏡を見ると、顔が青白く、驚いた。しかも、なんだか熱っぽい。


(どうしたんだ、体は丈夫なはずなのだが・・・。)


 逞真は急いで顔を洗い、出発する支度に入った。









 学校に行くと、まず男子たちに


「お、先生元気?」


 と心にもないことを言われ、壁に押される。黙っていると、男子たちはニヤッと笑って顔を近づけた。


「妊娠させたなら、それなりに丈夫だよね。」


 と、不意に逞真の急所を強く掴んでくるのだ。


「何をする・・・。」

「先生、何もしないの?もしかして嬉しい?」

「馬鹿言ってるんじゃない・・。」

「あ、そっか。俺たちが殴ったあとのせいで何もできないのか。どうりでダルそうだもん。」


 馬鹿笑いする男子生徒たちに逞真はただ歯を食いしばるしかない。



 女子には


「先生、どったの?随分顔色悪いじゃん!」


 と、またも心にもないことを言われ、じゃれてくる。逞真にとってじゃれるというよりは、責められているようだった。自分の痣や打撲を敢えて狙って触ってくるのだから。

 しかし、周りから見て、仲よさそうに戯れているようだから、先生方も何も言わない。



 そんな毎日が続き、逞真は精神的にもダメージを受けていった。



 家で、緊張の糸が解け、涙が出そうになるが、聖奈がいるため、見栄を張って我慢した。その代り、逞真の性格上、なんでも自分の頭だけで物事を考えてしまう。


 生徒から自分はどう思われているのか、どうしようもできない無力さが逞真を混乱させる。


「・・・っ」


 すると、突如、逞真に吐き気が襲ってきた。素早く洗面所に行って、洗面台に顔を近づける。





「う゛・・・ゲホッ!!」




 逞真は吐いた。


「はぁ・・・はぁ・・・・」


 自分の弱さに悔しくなる。


(どうした・・・、こんなに臆病だったのか、俺は・・・)


 逞真は拳を握った。


「負けて・・・堪るか・・・・」


 つい、声が出る。


「俺は・・・大原先生のようにはならない・・・・。俺が休んで、誰が・・・数学を教えるんだ・・・・。教育委員会を見返すまで・・・・粘るって・・・決めたんだ・・・・。」




 




 熱をだし、貧血になり、嘔吐を繰り返しても、それでも逞真は学校に行き続けた。





 子供たちに教育を教えるために・・・____






次回もよろしくお願いします☆

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