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『約束』  作者: wokagura
☆本編☆
30/39

第30話 誤解





 萌と別れて、しばらくが経過した。




「聖奈、何をしている?」


 自分の部屋でこそこそやっている妹に不審を抱き、声を掛けた。


「あ、兄ちゃん。今日バスケなかったんだっけ?」

「あぁ。ところで何をしているのかを訊いているのだが。」

「あー、ごめんっ!別に怪しいことはしてないよ☆これから街の喫茶店で勉強会なんだー。だから兄ちゃんの持ってる参考書持ってこうと思って♪ね、いいでしょ??」

「別に構わないが、注意しておけよ。」

「え、何を?」

「甘いものや飲み物、友達との話題に夢中になり過ぎて勉強が疎かになっては困る。聖奈の場合、それが一番心配だ。」

「ギク・・・」

「今、唸ったな?」

「気のせい、気のせい!もー、大丈夫だよ、私だってもう18なんだしそれくらいわかるって!」

「そうか。」

「あらま、もう時間ダワ。んじゃ、行ってきまーす☆」


 慌てて出ていく聖奈に逞真は口角を上げた。


「フッ、相変わらず無邪気だな。」


 逞真は不意に窓を開けて曇り空を眺めた。その顔はどこか、切なげなものが含まれていた。


「・・・・これでいいんだよな・・・・」


 秋の風が冷たく逞真の心の穴をすき抜けるように吹く。





 何も変わらず、ただ時が過ぎていく。逞真はそんな日常に幸せを感じていた。



 これが、永遠に続けばいい、そう思っていた。しかし、逞真はそれが一瞬にして壊れてしまうのを知らなかった。幸せに思うものこそ、儚く壊れてしまう・・・。




 




 ある日、クラス中であることが噂になっていた。


「え、それホント!?」

「らしいよ~、信じられないよね!」


「マジかよ!やるな、それ。」

「だろ!」



 逞真が教室に来ると、一気にそれは静まった。


「それでは日直、朝の会を頼む。」

「は、はいーっ!」









 他の学級でも学年でも同じことが広まっていた。それについては逞真も内容までは知らないが察していた。でも、どうせどうでもいいことだろう、と気にしなかった。




 



 部活前にまで・・・・



「あー、やっぱり一年生のとこでも話題になってたか、それ。」

「はい!もう信じられませんよ!だって、あの人がですよ~」

「そうそう。いつもの行動とギャップがあり過ぎて困るわ。」


 逞真がきても、気付かず、話題に盛り上がる女バスたち。そこで、逞真は耳にしてしまった。ある一言を。



「駿河先生が、つくっちゃうなんて~」

「あ、そのことでクラスで手紙まわしてたんだった。書かなきゃ。」


「おい、待て。」

「あっ・・・駿T・・・・」


 逞真は手紙を取り上げた。


「なっ・・・なんだ・・・これ・・・・・」


 内容はこういうことだった。


 〈駿河先生のやっちゃった事件について〉

 「まず、ありえない!だって、あの真面目な駿Tだぞよ!?」

 「見損なった。一人ならまだしもそうじゃないんだもん。」

 「どんだけやれば気が済むんだよ!えっとぉ、5、6人だっけ?」

 「しかもその人たち全員妊娠したって。サイテー・・・」

 「どうやって会っていいのか気まずくてわかんない!」

 「朝来た時も一気に静まったしねww」


 など、たくさんのことを書いてあった。


「どういうことだ!?」


 部員を見ると軽蔑したような目で見ていた。


「どうって、自分のしたことじゃないんですか?」

「嘘だ。」

「流石の駿Tでもそう言いたくなりますよね。」

「先生、自分で言ってたじゃないですか。”自分がした過ちはばれないと思ってても必ず誰か見てる”って。その通りでしたね。」

「あ、そろそろ活動始める時間だ。始めるよー。」


「はい!!」


 まるで一気に信用を無くしてしまったような気分になった。


(なんだ、この噂は・・・。いつ、それよりも誰が見たというのだ?俺は何人もの女性と関わった覚えはない。一体誰がこんな嘘だらけな噂を広めたんだ・・・?)








******************






 その翌日から、急に駿河学級はバラバラになってしまった。



 朝、逞真が来ても、誰も挨拶せず、無視するのだ。



 また、授業でも・・・


「関数のグラフはこう書くんだったな。」

「・・・・」

「・・・聞いているのか?」


 いつもなら慌てて返事をするが、今日は誰も何も言わなかった。


「おい、反応が薄いぞ。きちんと返事ができないのか?」

「・・・・」

「私はな、お前たちと出会ってから何度も言っているが、数学を学ぶ前に一番大切なことは聞こうとしている心だ。聞こうとしないと頭に入っていかないんだぞ?それを確かめているのは授業での返事だ。返事をしないということは授業に集中してないということ。お前たちは集中しているのか?」


 生徒たちは”また始まった・・・”という顔。そして一人の生徒が呟いた。


「・・・先生、早く進めてください。3クラスの中で一番遅れてるの3組だって、知ってるんですよ?」

「・・・あぁ、わかったよ。だが進める代わりにきちんと返事をしろ。わかったな?」

「・・・はぁーい・・・」


 皆やる気のないような返事をした。











 その数日後、3組の保護者から逞真に苦情の電話が来た。


「どうしました?」

「どうしたもこうしたもありませんよ!」

「あの、まず何が用なのかを言ってください。」

「うちの子、最近の数学がわからないと言うんです!問題集解かせたら数問しか合ってませんでした。今までこんなことなかったのに、どういうことですかっ!?」

「落ち着いてください。それについては申し訳ありませんが私の責任は負いかねますよ。」

「・・・はい!?」

「授業は今まで通りのやり方でやっています。それでわからないのであれば妃那(ひな)さんが理解していないということです。まぁ、私の教え方が悪いのかもしれませんので、それは謝ります。ごめんなさい。ですが、妃那さんがわかろうとしていない以上どう教えても無意味だと思いますよ。そのうえで、私なりに努力してみますので。それでは。」


 逞真は少し乱暴に電話を切った。


「駿河先生、今日もですか。」


 一組担任兼社会科の先生の梅木(うめき)先生が苦笑気味に声を掛ける。


「はい。今日もです。」

「派手にやりましたね。また授業に対しての苦情の受付でしょ?」

「受け付けているわけではないんですけどね・・・。どうしてなんでしょうか、急にわからないとは。」

「分野も関係してるんじゃないですか?ほら、一次関数でしょ。僕も嫌いでしたから。」

「そういうことにしておきますか。」


 逞真は重たく溜息を吐いた。


(絶対に例の噂のせいだと思うのだが・・・)


 と、心の中で苛立つ逞真だった。















 そのまた数日後、3組の男子生徒が昼休みに数人逞真の所へ集まってきた。


「駿T、駿T!」


 このときだけやたらと元気が良い。


「なんだ。」

「ずっと、お聞きしたかったんですがぁ・・・・」


 男子たちはグフフと笑ってついに訊いてきた。


「やったとき、どんな感じでしたぁ!?」

「・・・は?」

「いや、だから、何人もの女の人との感想!」

「感想も何もない。原点に立ち返って言えば私は何もしていないのだからな!」

「そんな~、嘘言わないでくださいよん♡俺たちにだけ教えてください。これでも俺色々と知ってますんで♪」

「わかった、わかったからこれ以上何も言うな。性についての興味があるのは十分わかったから。」


 その言葉に、教室にいた女子が反応した。


「い・・いま駿Tなんて言った?」

「いや、突然のことでさっぱり・・・。」

「ちょっと、会話聴いてみるか。」

「うん。」



「いや、興味は十分にあるんですけど、でも駿Tだからこそ訊くんです!ちゃんと答えてください!!」

「意味が解らん。何故私だからなんだよ。」

「担任ですし、真面目ですし、それゆえにどんな感情でやってるか知りたくなるもんなんです!」

「あのな・・・」


 逞真は溜息を吐いた。


「そんなに性について、いや、お前たちなら性行為のみか。知りたければ保体の新城(しんじょう)先生にでも詳しく訊け!私は詳しくは知らない。」

「え、男はみんな知ってるもんじゃ・・・」

「私の持ってる知識くらいはお前たちはもう知っているんだろう、どうせ。だから新城先生なら私よりわかりやすく、正確に、詳しく教えてくれるだろうよ。」

「いや、どうしても駿Tに。」

「どうせ噂のせいだろう。私は何も言わないからな。」


 逞真は教室を出ていった。女子たちはドン引きして硬直する。


「ね・・・今駿T・・・」

「確かに言った・・・」

「やっぱり、駿T変態だったんだぁ~!!!」

「噂はホントねー!!!」


 女子たちは泣き出しそうになった。











 また、ある日のこと。移動教室中の3組の女子生徒に服装が校則違反な人がいた。


「おい、実留。」

「・・・なんですか。」

「その服装は何だ。」


 実留の服装は、ブレザーにリボンをしておらず、スカート丈が膝より上。そしてブレザーの下にパーカーを着ていた。十分な校則違反である。


「なにって、私なりの着方です。」

「それが校則に反しているのがわからないのか?」

「はいはい、スミマセンでした。あの、移動教室なんで急ぎます。」


 と、逞真の脇を通り抜けようとするが、逞真は実留の肩を掴んで、壁に押して場所を封じ込めた。


「今すぐ直せ。」

「リボン忘れました。」

「だったら、ブレザーを脱ぎなさい。」

「嫌です。」

「・・なんだと?」


 実留に顔を近づけて睨むと、実留は


「先生、顔近い!離れてください!」


 と叫んだ。


「なら早く脱げ。」

「嫌っ!!」


 そのとき、違う女子たちがやってきた。


「あれ、駿Tと実留だ。何やってんの?」


 会話を聞いてみることに。


「いいから脱げ!自分でやらぬなら私が脱がすぞ。」

「やだっ!やめてよ先生!!」


 女子たちはこりゃまずいと近寄った。


「先生なにしてるんですかっ!?」

「生徒にまで手を出すつもりですかっ!?」

「は?何を馬鹿なこと言っている。」

「だって・・・」


 その時、チャイムが鳴った。


「あ、急がないと!いこっ」


 逞真を軽蔑した目で見たまま女子たちは実留を連れて階段を上っていった。


「はぁ・・・また誤解されたか。」



 まるで新任の頃を思い出した。今は当時よりもっと酷いことになっているけれど。


(まったく・・・正直恐ろしいな。これでは萌を別れた意味がない。また・・・教師を辞めさせられたりしないといいが・・・・)



 一方、生徒たちは・・・


「皆、きいてー、駿Tがいま実留を襲おうとしましたー!!」

「なにぃ!?翔がいるのにも関わらず!?」

「いや、それよりも生徒を襲うってとこが問題っしょ。」

「やっぱり、噂はホントみたいだ。」

「サイテーな人・・・」



 皆で逞真をドン引きする。


「なぁ、はかせ君、どう思う?」


 これに対し、3組の頭脳、通称・はかせ君は独自の眼鏡をくいっとあげ呟いた。


「ズバリ、学級崩壊の危機ですねぇ・・・・」

「うわ、マジか。」

「はかせ君が言うならそうだわね。」

「心配になってきたわぁ・・・」



 みたいな感じで、生徒だけで意外と団結していたのだった・・・_____


これからどうなるのでしょうか・・・?

次回もよろしくお願いします☆

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