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『約束』  作者: wokagura
☆本編☆
29/39

第29話 コントロールしきれない心




 PRRRR・・・・


「はい。・・・・萌か?」

『うん。今玄関前にいるわ。開けて。』

「わかった。」


 インターホンを押せば聖奈が起きるかもしれない為、二人はいつもこうしていた。


「今日も・・・だよね?」


 すること前提で言うと、逞真は首を振った。


「え?」

「ごめん、今日は折り入って話したいことがあるんだ。だから、今日はしない。」

「そっか。」


 萌は逞真に導かれ、彼の部屋に入った。


「それで、話って何?」

「・・・単刀直入でいいか?」

「?ええ、いいわよ。」


 逞真は一回口を開いたが、ためらうように口を閉ざした。


「・・・・やっぱり、言い難いことだな。」


 困ったように笑う逞真に萌は微笑んで、彼の手を握った。


「何言ったって驚かないよ、私。」

「・・ありがとう。」


 逞真は決心して呟いた。




















「・・・・・別れてくれ・・・・・・・」





















 萌は一瞬何が何だかわからなかった。すぐ目の前にいる恋人の瞳は真剣だった。


「何言っても驚かないって言ったのに、これはちょっと、予想外過ぎて驚いちゃうな・・・。」

「ごめん。」

「どうして急にそんなことを?」



 逞真は本当に申し訳ないと言わんばかりに萌を見詰めた。


「そんな顔しないで。悲しくなってきちゃうよ。」

「あぁ・・・それは悪かったな。きちんと前置きを言うべきだった。私はな、気付いたんだ。萌がいることによって、自分の心が昔のように素直なものになってきていると。萌もわかるだろう?私がよく笑うようになって、キレっぽくなくなって。私自身も、それ自体は嬉しかった。」


「それじゃあ、どうして?」


「・・・それと同時にわかったこともあった。そうなると、学校での自分もそうなってしまい、今までのキャラが保てなくなると。」


「・・・え?」


「コントロールできないんだ、自分の心を。萌といる時の自分と学校での自分が区別できない。つまり理想にしてきた教師ではなくなるということ。それは避けたいんだ。何故かというと・・・」


「・・・ごめん。そのことはもう知ってるわ。聞いたの、聖奈ちゃんから。」

「何?聖奈だと?」

「えぇ。駿君は初めての学校でいろいろな事件が起きて教師を諦めさせられるようなことがあったのよね?でも、辞める訳にはいかなくて性格を変えてでもやり続けた。そうなんでしょう?」

「・・・あぁ。私は昔までの心で教師を続ければ生徒を駄目にさせると思ったんだ。だから、真逆の性格に無理矢理直した。それが今、解けようとしている。」

「そう・・なんだ・・・・」


「今の私は、きつく言ってしまえば、自分のことなんかどうでもいいんだ。もっと言えば自分の恋愛なんて何よりも後でいい。それよりも、自分の生徒を駄目にしてしまうことのほうが怖い。生徒が自分の責任で酷い人生になってしまったとしたら、私は、何をしても責任を追い払うことはできないだろう。自分の信条により、恋人より教員人生を選んだ。どんなに謝ろうと足りないだろうが、本当にごめん。」


「駿君。私もね、自分のことなんてどうでもいいのよ。もっと言ったらね、駿君が幸せになってくれるんだったらそれでいいの。」


「なっ・・・・」


「それが、駿君の願いだとしたら、私は何も言わないよ。」

「萌・・・」


 逞真は萌を抱き締めた。頬が涙をつたう。


「約束を・・・守れないで・・・ごめん・・。萌にとってこれは私の身勝手なことなはずなのに・・。中学時代から、守り抜いてきた約束なのに、呆気なく破れてしまったな・・・。」


「駿君、そんな風に考えないで。駿君の私に対する気持ちは今までで充分に伝わったから。でも、駿君の愛は広いでしょう?人のため、子供たちのために考えてる。だからいいの。」


 萌も涙を流した。


「萌・・・、お前もピアノの講師としてこれからも頑張ってくれ。萌は素晴らしい講師だから。」

「駿君だって、自分のその心、忘れちゃ駄目だよ。・・・二度と逢えないわけじゃないんでしょう?」


 逞真は頷いた。


「私が、自分の想いをコントロールできるような立派な男になったら、その時でも萌が想い続けていてくれるなら、また逢おう。」

「えぇ。これもまた”約束”よ?」

「あぁ。”約束”だな。」


 













 二人は約束を誓う証に深いキスをした。今までで一番長い、濃厚なキス。














 唇が離れて、二人は微笑んだ。




「じゃあ、またね、駿君。」

「あぁ。絶対にいい教師になって見せるからな。」

「それまで楽しみにしてるよ。」





 そして、いつものように夜が明け、いつものように別れた。


 本当に、”いつものように”・・・・



 











 翌日___


「おはよ、ホントいつも何時に起きてるのって感じ。」

「おはよう。」


 逞真は新聞に目を向けたまま言った。


「目も合わせてくんないぃ~(涙)でも、これがいつもの兄ちゃんか。」


 聖奈は何故か安心したのだった。







 学校___




「先生、スンマセン・・・」

「どうした?」

「数学の道具全部忘れてきましたぁー!!」


 逞真は沈黙した。


「・・・駿T?」


 額に血管を浮かばせたその時、外で雷が鳴った。




 ゴロゴロゴロ・・・・ビッカーンッ!!


「今すぐ取りに行けーっ!!!」


「ヒ~!!わかりやした!ってあれ?」

「・・・元に戻ってる・・・」


 生徒たちはまたまた唖然。その瞬間に安心感に包まれた。


「よかったぁ~!」

「駿T、帰ってきてくれたんですねッ♡」

「何の話だ?私はいつでもここに居るが。」

「うんうん、これでこそ駿Tだっ☆」

「いつもだとウンザリだけど、やっぱこうでなくっちゃ困っちゃうよ!」

「駿T~!!!」


 生徒たちが抱き着いてくる。


「馬鹿!重たいだろう、離れろ!!」


 そういう逞真の顔は曇りがなく、むしろ活き活きしていた。






 



 萌と別れて、逞真は全て元通りになった。


 新しい約束を胸に、教員人生を過ごしていくのだった・・・____


 










 









 

8月の一日、二日は投稿できないので、その分投稿しておきました!

なんか、終わりをかもし出している雰囲気ですけど・・・まだ続きますよっ(笑)

次回もよろしくお願いします☆

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