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『約束』  作者: wokagura
☆本編☆
28/39

第28話 変化しつつある教師








 あの夜、萌と一線を越えた日から、逞真は毎日のように萌と一晩過ごすようになった。今度は酒を含んでいない、本当の気持ちで。

 逞真は無意識にしてしまった行為と言動に萌に詫びているのだ。萌もそれを察していて、快く引き受けている。


 そうしているうちに、逞真の心は変わりつつあった。萌の前ではよく笑顔を見せ、ありのままの自身の姿を露わにする。そう、昔の逞真のように戻り始めていたのだ。










「駿君、夜が明けちゃったね・・・・」

「・・・そうだな・・・。そろそろ行く準備をしなくてはな。」


 起き上がる逞真の腕を掴む萌。


「どうした?」

「・・・やっぱり何でもない。頑張るね、駿君。」

「萌も頑張ってるじゃないか。お互い様だろう?」

「でも、私は昼からしか指導しないけど、駿君は朝から晩まで大忙しじゃない。」


 逞真は萌の手を取って微笑んだ。


「何を今更言ってるんだ?私は大丈夫だよ。私こそ、毎晩のようにつき合わして悪いな。」

「いいのよ、全然。」


 逞真はベッドから起き上がり、Yシャツのボタンを閉め始めた。萌も自分の服に手を寄せた。










「じゃあ、またね。駿君。」

「あぁ。気を付けて帰れよ。今晩も待っているぞ。」

「はい。」



 今は朝方。萌は朝早くに自分の家に帰る。聖奈が寝た後に来て、聖奈が起きる前に帰るのが日課になっている。







「ふあ~・・・、おはよ兄ちゃん。いっつも早いね。」


 しばらくして聖奈が起きていた。


「おはよう。早く朝食食えよ、遅刻するぞ。」

「・・・ほぉ・・・」


 逞真の穏やかな笑みが、毎回毎回見ていても慣れない聖奈だった。











 学校で______





「先生・・・スンマセン・・・」

「どうした?」

「締切今日までの提出物、あ、参観日の。忘れちゃいやしたぁ~!!」


 生徒は涙目で覚悟したようにやってきた。逞真は苦笑して、こう言った。


「・・・そうか。仕方がないな。今日の放課後までに持ってきなさい。ご両親に何も言ってないのであれば、明日で構わない。」


 そして穏やかな笑み。生徒たちは唖然とした。


「へ!?い、いいんですかっ!?」

「あぁ。でも気を抜かず急げよ。」


 思わず生徒たちは顔を見合わせた。


「駿Tがキレない・・・。」

「うん、いつもの駿Tなら”今すぐ取って来い!”だの”お前が忘れたのが悪いんだろう。きちんと責任を感じて自分でどうするべきか考えろ!”とか言うのにさ・・・。」

「す・・・駿T!」


 生徒たちはいっせいに振り返った。


「な、なんだ、急に。」

「それはこちらの台詞ぅ!先生急にどうしたの!?なんか悪いものでも食べた!?」

「熱あるんじゃないの??」

「べ、別に大丈夫だが・・・?」


 その時、一人の生徒が思いついたように言った。


「先生、あの彼女とはどうです?」


 生徒たちは”そりゃヤバいだろ!”という顔でそいつを見るが、逞真の答えは予想を反していた。


「んー・・・まぁ、そこそこいい感じだと思っていてくれて構わん。」


 これには皆世界がひっくり返ったように思った。ぞろぞろと逞真のもとへより、肩叩きだの、下敷き扇ぎだのをし始めた。


「駿T・・・俺たちが悪かったです!」

「また、私たちで何か悪いことしたんですよね、そうでしょ!?」

「じゃないとこんな接し方しないじゃんねぇ!?」

「元に戻ってぇ~」

「お願いだから、ね?ね?」


「な、どうしたんだよ皆。私はどこもおかしくないし、お前たちも何もしていない。」

「よし、こうなったら最後の手段だ!」

「女バス!頼んだぁ~!」

「あいよぅ!」


 女バスたちは逞真の前に立ちこう言った。


「先生、今日のトレーニングメニューは?」


 逞真は満面な笑顔で言った。


「外周全力疾走2周。腕立て伏せ5セット。ストレッチ7セット。シュート連続50回。以上だ。その後の練習は私が来てから行う。」


 女バスたちは青ざめた。


「こればっかりは変わんない!」

「良かったのか悪かったのかようわかんないけど、安心していいんだよね!」

「でも、笑顔でいうのが怖いよぉ~!!」


 生徒たちの反応に、逞真は面白くて笑っていた。








 







 その昼休みのこと。教室で次に行う授業について確認していた時、女子生徒がいきなり走ってきた。


「先生、大変ですっ!」

「どうした?そんなに急いで走ってきて。」

「2組で、瑛斗(えいと)(つかさ)が取っ組み合いしてます!二人とも鼻血出してて、怪我もしてるんです!」

「何だと!?」


 丈のほうは3組の生徒だった。素早く立ちあがる逞真。


「斉藤先生は?」

「今会議でいないんです!」

「あぁ、そうだったな。」


 急いで2組に入ると、野次馬で本人たちは見えなかった。


「済まない、道を開けてくれ。」

「よかった、駿Tだ。」


 そして本人たちを見ると、逞真は目を見開いた。


 確かに鼻血を出していて顔中は血だらけ。腕と足は打撲ができていて、それぞれが叩いた傷もあった。


「瑛斗!丈!それまでにしろ!」

「ッ、止めないでください、先生!丈が悪いんです!」

「いや、瑛斗が悪いよ!もう1発殴ってやろうか!?」


 逞真は舌打ちしてその手を掴む。


「丈、早まるな!何があったか知らないが、まずお前は悪い。違うクラスに入るのは校則違反だぞ!?」

「わかってる。わかってるけど、瑛斗が許せなくって・・・。放して駿T!こいつ、もういっぺん殴んないとわかんないって!」


 もがこうとする丈。逞真は全身で止めた。


「暴れるんじゃない。」

「うわ、駿T!痛いって!!」


 半端ない力が丈を襲う。丈はうめき声をあげた。


「うあぁぁぁあ!!」

「・・・ハッ・・・」


 逞真はふと、古い記憶を思い出した。


 新任の頃、いじめていた子の手首を誤って折った事件。あんな過ちは2度と起こさないつもりだった。逞真は仕方なく丈の手首を離した。その代り、二人の体を離す。


「いい加減にしろ!」


 逞真の怒鳴り声に二人は制止した。


「・・・・保健室へ行くぞ。」


 逞真に無言でついていく二人。








 保健室で事情を伺うと、こんなことがあったらしい。


 遊び半分で追いかけっこをしていた二人。不意に瑛斗が自分のクラスに入って


「これじゃあ、エッタできねぇなっ!」


 といって挑発したらしい。その挑発はどんどんヒートアップしていって・・・


「どうせ、ケツあごは追いかけられねーんだよっ!」


 と、丈のコンプレックスを口実にしてきた。丈は耐え切れなくなって2組のクラスに入って瑛斗をぶった。そして取っ組み合いになったのだった。


「はぁ・・・それは挑発した瑛斗も悪いが、早まって暴力をふるった丈も悪いな。お互い様だろう。」


 手当てを受けながら二人は頷く。


「先生、すみません。本当は先生が来る前に解決しなくちゃならなかったのに。」

「そうやって、学年集会でも言ってたもんな。中2なんだから、もめ事とか自分たちで解決しなさいって。」

「・・・・その通りだ。わかっているならまだいい。」

「ごめん、丈。」

「いや、こっちこそごめん。」


 二人は仲直りしたようだった。一息吐いて、保健室を出る逞真。その手は震えていた。


「・・・・ぁ・・・・」



 逞真は素早く水道に行って顔を洗った。


「はぁ・・はぁ・・・・」


(まさか、過去の事件をまた引き起こそうとするなんて・・・・。今まではこんなことなかったはずだ。

例え取っ組み合いをしていて、口では治まらず体で止めなくてはならなかったとしても、あんなに力を入れずできたはず。何故だ・・?俺の心が緩んでしまった。)


 ひんやりとした顔を拭い、逞真はハッとした。


(・・・萌。萌のことのせいで、俺の心が緩んでしまったというのか・・・?そう思えば生徒たちも今日の俺が変だと言っていた。理想の教師から、昔のような心に変わりつつあるのか・・・!?)


 そう思うとゾッとした。


(やばい・・・。それでは俺が目指してきたものが変わってしまう。どうする?萌の存在が、俺を元に戻してしまうのだとすれば、俺は一体どうすればいいんだ・・・?萌とは一緒に居たい。しかし、そうすることで俺の心が乱されてしまう。)



 逞真が頭を抱えたその時に、チャイムの音が重たく耳に響いてきた。



(よし・・・・俺はこうするしかない・・・・・)



 逞真は暗い笑みを見せ、決意した。







先生の決意したことは何なのでしょうか・・・?

次回もお楽しみに☆

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