第25話 真逆の性格、その真実
まだまだ暑いある日の真昼。
聖奈は勝手に兄の部屋で夏の宿題を終わらせていた。
その時、インターホンが鳴った。
「は~い」
受話器を取ると聖奈の表情はパァッと明るくなった。
「あらぁ、萌さん!」
『上がってもいいかしら?』
「あ、はい!今行きます!」
聖奈は素早く玄関へ。すぐにドアを開けた。
「いらっしゃいませ!」
「駿君はいるかな?」
「あ、今部活中なんです。あと・・・一時間半ぐらいで帰ってくると思うんですけど・・・」
「そっか・・・」
「あ、じゃあここで待っててくれますか?私も積もる話があるんです。」
聖奈は欲望に満ちた笑顔で言った。
「うん。じゃあそうさせてもらうわ。」
(やった☆)
聖奈は心の中でガッツポーズした。
(萌さん本人に二人の秘密訊いて・・・それで兄ちゃんの秘密も暴いちゃうゼ☆)
「お邪魔します。」
萌は律儀に言ってリビングに入った。
「掛けてください!あ、暑かったですよね。今冷たいお茶でも用意します!」
「ありがとう。」
聖奈はササッと麦茶を用意してそれぞれの所に置いた。
「で、早速なんですけど・・・」
「なぁに?」
「・・・どんなことがあって二人は再会したんですかっ!?」
「・・・はは。」
萌は苦笑した。
「訊いちゃ、ダメでした?」
「いえ、いいわよ。聖奈ちゃんならね。駿君はきっとそういうこと教えてくれないんでしょう。」
「そうなんです!」
「あのね、中学時代に私、いじめられてたの。それを助けてくれたのが駿君と達之介君。達之介君は誰にだって親切にするでしょう?だから特別な気持ちはなかったんだけど、駿君は助けてもらっていくうちに気になるようになっちゃって。気づいたら両想いになっていたわ。」
「は、はぁ・・・」
聖奈は兄にそんな過去があったとは・・・という顔をした。
「でも、両想いになった瞬間、私が引っ越すことになっちゃったの。あんなに想い合ってたのに、呆気なく別れるのって結構否定感があるじゃない?だから私たちは”約束”をしたの。」
「ど、どんな!?」
「・・・離れ離れになるけど一生逢えないわけじゃない。次に逢った時は運命を誓おう・・・って。」
「ギャー!!!!」
聖奈は興奮して叫んだ。
「やっぱ、やっぱ、熱いよぉ~!!高校の私でもそんなことなかったのに、中学でって早っ!!」
「せ、聖奈ちゃん大丈夫?」
「はい!それで今再会して、こうなってるんですね!?」
「そうね。」
「羨ましいですよぉ~。きっと萌さんにだけしか見せないことがあるんですよね。」
「・・・そう、なのかな。」
聖奈は不思議そうな顔をした。
「どうしてですか?」
「だって、聖奈ちゃんには俺っていうのに私には私。」
「あ、確かに。」
「それから、再会して初めのほうで聖奈ちゃんが言い掛けた”あのこと”についてもなにも触れてこないし・・・」
「あ゛~!!まだ言ってなかったんですか、兄ちゃん!」
「そうなの。まだ私のことただの女としか思ってないのかな・・・?」
「最低・・・あんの馬鹿兄貴・・・萌さんをこんな気持ちにさせといて・・・・。」
「聖奈ちゃん?」
「あ、こっちの話です!・・・話しちゃおうかな。いいネタだ。」
「え?」
「私が、それについて。本人のほうが味がでると思うんですが、本人が言わないんだから仕方ないですね。」
「そうね。もう、気になるから話して、是非!」
「はい!えっとぉ・・・昔の兄ちゃんを思い出してみてください。」
「昔って、中学の駿君?」
「はい。それがそのまま先生になったらどうです?」
「・・・・・」
「結構いい感じの先生じゃないですか。実は兄ちゃんは教師になるまで昔の性格のままだったんですよ。」
「そうなの!?」
「はい。でもあることがきっかけで今みたいな性格になっちゃって。」
聖奈はそれについて話し始めた。
「新人教師の頃は、とっても生徒に人気な先生でした。
『あ、駿河先生!おはようございます!!』
『おう、おはよう!』
それに妹が言うのもなんですが、割と端整な顔でしょ?女の子にも人気があったらしいです。
『先生、どうしてそんなにカッコいいの!?』
『いや、どうしてって言われても・・・』
『先生この学校の中で一番カッコいいです!あ、言っちゃった。』
そんな兄ちゃんはすぐに担任をもらえるようになりました。
『よし、皆、この学級をどんなクラスにしていきたい?』
『このメンバーが必ず団結してて、駿河先生のお膝元みたいな感じで成り立ってる学級☆』
その言葉に兄ちゃんは改めて感動を覚えました。
その目標のとおり、駿河学級はいい学級になったんです。それとともに、生徒たちの関心や意欲が発展していって、この学校生活をよりよくしようプロジェクトが始まったんですよ。
『先生、こういうのはどうです!?』
『お、いいな。候補にあげようか。』
プロジェクトに上がった候補はたくさんありました。
例えば
・学期ごとに一度校区内や地域の掃除する
・募金活動があれば必ず募金する
・校則は必ず守る!(駿Tの鉄拳くらいます)
・学級対抗では一人欠かさず学級のために全力を尽くすこと
・クラスのメンバー同士でイジメや嫌がらせをしない
などなど。そしてこんな候補も上がりました。
・他の学校との交流もあったらいい
それについては、兄ちゃんだけではどうにもできなかったから校長先生にも言ってみたらしいです。そうしたら・・・
『する意味はあるんですか?そんなの、授業の妨げでしかないでしょう。どうせ駿河先生のクラスメイトはそういう悪賢いことを考えて授業を少なくしようという魂胆でしょうよ。』
と冷たく言われたそうです。
流石の兄ちゃんも校長先生に向かって否定しました。
『そんな言い方は無いんじゃないですか!?子供たちはただ純粋な思いで考えているんです!』
『そんなの、駿河先生が見ての発言でしょう。生徒の心の奥底にああいう気持ちがあるかもしれませんよ。』
『なっ・・・』
兄ちゃんはそれ以上何も言えませんでした。この校長に言っても通じはしない。そう思った兄ちゃんは教育委員会に意見を出しに行きました。
『なるほど、他の学校との交流。それは生徒会活動の一部としてやっていると思いますが。』
『ですがそれは生徒会所属の生徒しかできないではありませんか。私は全校でそれを行いたいと思っています。』
『それは少し厳しいことだと思います。今の中学生は学習量が過去と比べて少ないです。授業が無くなることで、指導要領に影響がありかねませんよ。』
『それは承知の上です。ですが、他の学校と交流して学ぶこともあると思います!』
兄ちゃんがあまりにも粘るものだから、教育委員の人たちはムッとして言い放ちました。
『今の教育にそれは無用です!お引き取りを!!』
兄ちゃんは戻りざるを選れず、学校に戻りました。これだけで、兄ちゃんは教育委員会での評判が少し下がったわけです。
次の日に生徒に
『駿T、どうだった?』
と訊かれ、
『・・・駄目だった。』
と答えて、残念そうな顔をする生徒に、兄ちゃんは悲しい気持ちになりました。
また、いくら学級での仲がいいとはいえ、他のクラスでの交流のあったから、他のクラスからのイジメや噂の吹き込まれが多くなっていきました。
そして、悲劇は起きました。
部活の後。そのとき兄ちゃんは男バスの顧問で、そのとき体育館にいたそうです。みんな帰る用意をしているときに、倉庫の方で叫び声がしました。妙に思って行ってみると、そこには男子バスケ部数人がいました。
『何してるんだ?』
そういった兄ちゃんは思わずゾッとしました。
男子バスケ部一人(兄ちゃんの生徒)をほかの学級の男子バスケ部が囲んでいて、その二人の手にははさみ。そしてそのほかの人たちは囲んでいる人を押さえつけていたそうです。
男子バスケ部の人たちは兄ちゃんが来ても動じず、行為を続けました。その行為こそ、囲まれた人の髪の毛を容赦なく切ってくこと。
『なっ…おい、止めろっていうのがわからないのか!?そのはさみを置け!』
『校則違反だから、切ってあげてるんですよ。』
『何だって…?』
確かにその生徒は少し髪の長さが校則アウトだったみたいですよ。それが裏目に出たイジメでした。
『校則は守るって、先生のクラスの決まり事なんでしょ?破ったら先生の鉄拳が飛ぶって。それじゃあ可哀そうじゃないですか。』
『だからと言ってそんなことしなくてもいいじゃないか!口で言えば済む話だろう!?お前も、嫌なら嫌と何で言わないんだよ!俺はそんな臆病な生徒に育てた覚えはないぞ!』
『僕はありがたいと思ってるからいいんです。この人たちは悪くありません。』
『ほらね、だからいいじゃないですか。先生のせいで変な方向に髪が切れたらどうするんですか、早く出てってください。』
よくあるイジメの仕方ですよね。男子たちは懲りずにやり続けました。当時の兄ちゃんは今と違って熱血教師だったから、体で止めに入りました。
生徒の手首を掴んで動作を止めさせたんです。
『いい加減やめろ!』
兄ちゃんはまぁ、今もバリバリのスポーツマンだけど、当時も握力がハンパなかったんですね。流石の生徒も痛がりましたよ。
『痛い痛い!先生痛いよ!』
『髪切るのやめるか?』
『それは嫌だね。』
『何だと?』
兄ちゃんはムキになっちゃいました。思わず手首と掴む力を強めちゃいまして。するとその矢先に_____
ポキッ
っていう何とも鈍くぶ厚い音が鳴りました。その音に気付くその瞬間に手首を掴まれた生徒はもがき苦しみました。
『うわぁぁぁ!痛い!痛いよ…!』
『・・・ハッ・・・』
兄ちゃんは自分のしたことがやっとわかりました。生徒の手首の骨を折った・・・・。倉庫のなかは大騒ぎ。
結局その生徒は保健室に連れてかれ、被害を受けた生徒も髪以外何も損傷はありませんでした。でも、その後のことが大変です。骨を折らせた生徒を病院へ連れて行き、レントゲンを撮りました。すると、見事に右手首にヒビが入っていました。
『どうしてくれるんですか!?』
『この子はバスケが大好きだったのに、手首が使えなかったらできないじゃないですか!』
その親は大激怒。生徒自身はふて腐れた顔のまま何も言わないし。兄ちゃんはただひたすらに謝りました。代償金を払い、土下座までして、何とか済んだんですが、次の日での噂が酷くて、それは一日にして学校中や親たちにも広まりました。
最悪教師を謹慎させるって手もあったんですけど、今までの兄ちゃんの名誉があるし、その最悪の事態は免れました。でも、またこれで兄ちゃんの評判は悪くなっちゃいました。
それからしばらく経ってのこと。この頃数学の授業が甘いという噂が流れ始めました。他の学校とか塾では詳しく教えるところを少ししかやらなかったり、宿題やテストの問題が簡単すぎだとか、噂のもとは様々でした。まぁ、新任だしそういうこともあるのかもしれないんですが、ますます兄ちゃんの評判は悪くなってく一方なんです。
そして、最終的な悲劇が兄ちゃんを襲いました。
『駿Tとある女子生徒Aさんの熱愛発覚!!』
いきなりのことでした。ある日一人の男子がそれをデカい声で叫んだんですよ。兄ちゃん自身何もわからず、ただ焦るだけ。気が付かないうちにそんなありえないような噂はどんどん広まっていきました。
兄ちゃんはその噂について深く考えました。
〈女子生徒A・・・・もしかしてクラスにいる彩愛のことか・・・?〉
確かに兄ちゃんはその彩愛ちゃんに結構かかわっていました。彩愛ちゃんのお父さんがうちのお父さんの仕事の後輩で、結構親しかったり、数学が大好きで兄ちゃんによく質問していて、意欲的だと喜んで答えていたり、女子でもバスケ部だったため色々アドバイスしたり、とにかくそのかかわりはほかの人から見て誤解しがたい感じだったようで。なんでそれだけのことがこんな騒ぎに?と兄ちゃんは不思議で仕方がありませんでした。
先生と生徒・・・・その危ない組み合わせと兄ちゃんの若さも偶然に重なったんでしょ。生徒の間でドでかい騒動になりました。
そしてこんなことにも・・・
『なんと!駿TとAさん!キスしちゃいましたぁ~!!!』
『イエーイ!!!!!』
これには兄ちゃんは全く覚えなし!ひたすら否定したみたいです。
『生徒の唇の味は??』
『そんなの知るかよ!した覚えもないよ!』
『そんな~、照れちゃって♡』
『いや、ホントなんだけど・・・』
もう、どうしようもなく兄ちゃんはその本人をこっそり呼び出ししました。
『なぁ彩愛。このごろ根も葉もない噂が流れているな。』
『はい。』
『それになにか心当たりはないか?』
『・・・そのAになってるのは多分あたしなんだと思います。』
『やっぱり?』
『はい。自分ではそんなこと言った覚えも感じた覚えもないんですけど・・・・ですよね?』
『だろうよ。俺だってそんなことした覚えがない。』
『キス・・・してないですよね?』
『してないよ、安心しろ。・・・ったく、どうしてそんなことになったんだ・・・・』
『・・・あ。』
『なんだ、いきなり。』
『それ、あたしのせいかもしれません。』
『・・・なにぃ!?』
『いや、先生のこと、普通の先生のなかで好きなんだとは友達にいいましたけど・・・。』
『・・・それか。』
『いや、でも普通の先生でですよ!?誤解しないでください!』
『わかってるよ、それくらい。先生として好きっていうのは別に否定しないしむしろ喜ばしいけど、でもそれを聞いた友達は変に誤解したんだろうよ。あと、この年頃になるといけない関係について喜ぶ奴らとかいるしな。俺も新任の身だし、お前とは違う感じで縁はあったから。』
『偶然に偶然が重なったってことですか?』
『そういうことにしておかないか』
兄ちゃんと彩愛ちゃんは同時に溜息を吐きました。
噂はピークを迎えて薄れていったものの、悪くなっていった兄ちゃんの評判はこれで一気にガタ落ちしてしまった訳でした。
そして、新学年の構成と決める時。
次にどの先生がどこの担当をするかって時に兄ちゃんはこんなことを言われました。
『駿河先生、単刀直入に言いますが、覚悟はできてますか?』
『はい。』
兄ちゃんは息をのむと一気に青ざめました。
”教師を辞める”という選択肢を与えられたんです。
『そ、それはどういう・・・』
『教育委員会からの指令です。』
『教育委員会・・・』
『この一年に結構な問題になりましたからね。この地域から見れば大事でした。他の所ではもう少し甘い指令だったと思いますが。』
『・・・・・』
『このまま教師をつづけるという手段もあります。ですがそうなるともう少し教育法を変えていただかないと・・・・』
兄ちゃんは何も言えませんでした。それを察して校長は
『明日までに。』
といいました。
その晩、兄ちゃんは今までにないくらい深く考えたそうです。・・・あ、今思えばのことですけど、兄ちゃんは私にも選択肢を選ばせたんだと思います。
だって、私に電話してきましたから。
『よう、聖奈。元気にやってる?』
『よっ☆そりゃもう!兄ちゃんは?』
『・・・まぁまぁだな。勉強はうまくいってるか。』
『う゛、ま、まぁまぁね。』
『そうか。学校は楽しいか。』
『うん!バッチこいって感じ。』
『フッ、意味わかんねーぞ。』
『ははっ。・・・どうしたのさ急に。私に電話なんて珍しいじゃん。』
『俺とお前、タダ友だから得かなって。・・・聖奈。』
『うん?』
『俺が教師になってよかったと思うか。』
『・・・はい?なにそれ。』
『俺が、中学の先生でよかったと思う?』
『えっとぉ・・・・よかったんじゃない?』
そのとき、兄ちゃんの呼吸が一旦止まった気がしたんです。
『そっか。』
『だって、勉強は聞けるし、兄ちゃんの性格いいから生徒たちに好かれてそうだし!そんな兄ちゃんを見てたら聖奈は嬉しいのです☆だから、よかったって思うよ!』
『・・・ありがとな。』
『うわ、いきなり気持ち悪いこと言わないでよ。ホント今日の兄ちゃん可笑しいよ?』
『はは、そうだね。ごめんな、いきなりこんなこと。じゃ、切るからな。』
『うん、わかった。』
『夜更かしするなよ。おやすみ。』
『おやすみなサイ。』
その時は何のために電話してきたのかさっぱりわかんなかったけど、兄ちゃんはこれからも先生でいていいのか一番身近の私に訪ねたかったんだと思います。
後から聞いて、兄ちゃんはこんなことを思っていたそうです。
〈今、教師を辞めさせられたりしたら萌に見せる顔がない。〉」
「・・・え・・・?」
萌は聖奈の言葉に思わず声を出してしまった。
「これ、萌さんとの約束を破りたくないっていってるんですよね?」
「・・・そう・・・みたいね・・・。それから?」
聖奈はまた話し始めた。
「〈いいさ、俺は教師を辞めたりしない。俺の教育方法を変えてでもやりぬいてやる。教育委員会が納得するまで粘るんだ・・・・・〉
と、兄ちゃんは深く決意しました。ここで兄ちゃんの負けず嫌い精神が発動したんでしょうね。
そして次の日、兄ちゃんは校長にこういいました。
『僕に教師を続けさせてください。』
『ほう・・・』
『勿論、今までのような過ちは繰り返しません。違う学校でまた新たに頑張っていきたいと思います。』
兄ちゃんはその時で3年所属していたからどっちにせよ違う学校にはとばされる身だったんです。
『わかった。これからも頑張ってください。それで、どこの学校へ行きたいかという希望はありますか。』
『・・・あります。北中学校です。』
『北中。どうしてだね?』
『僕の卒業した学校なんです。またそこからスタートを切りたいな、と。』
『なるほど。では第一希望に推薦しておきますね。』
『よろしくお願いします。』
そして兄ちゃんは今現在も北中で働いてます。
北中に行くと決まった時から、兄ちゃんの性格がガラリと急変したんです。その時再会して驚きましたもん。
目つきは今までとはかけ離れたような冷たい眼差しに。口調はぶっきらぼうな感じになっていて、あまり笑わなくなりました。
一番驚いたのが性格です。明るかったでしょ?でも、真面目になってました。
『兄ちゃんどうしてそんな変わったの?』
って訊くと、その時は今まで通りに笑ってくれました。
『そうしないと、俺の中の教師として成り立たなくなるんだ。済まないな。』
兄ちゃんの中の教師っていうのは多分教育委員会が納得するような理想の先生なんでしょね。
それで、今のようにいたるわけなんです。」
聖奈は一度ふぅと息を吐いた。
「そんなことがあったの・・・・」
「はい。こんなに大事なことなんで言わないんだか。ほんと、今の兄ちゃんはよくわかんない。」
「ねぇ、ちょっと待って。聖奈ちゃんはどうしてこんなこと知ってるの?」
「あ、兄ちゃんに性格変わったねって言った時に教えてくれたんです。全部。妹なんだから教えてもいいかな、なんて言って。」
「へぇ・・・」
その時、ドアが開く音がした。
「あっ!」
「ただいま。」
逞真だった。半袖短パン姿でいかにも部活の指導を終えた先生だ。
「なんだ、萌。もう来ていたのか。待たせたか、済まなかったな。」
いつもながらの口調に二人はクスッと笑った。
「?なんだ?二人して。」
「駿君・・・・大好きだよっ!」
萌は逞真に抱き着いた。
「なっ、いきなりどうしたんだ!?聖奈、お前何かしただろう!」
「さぁーね??」
裏のある笑みを見せる聖奈と抱き着いたまま離れない萌に、逞真はただ立ち尽くすだけだった。
こんなことがあって、先生の性格が変わってしまったんですねぇ・・・。
次回もよろしくお願いします☆