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『約束』  作者: wokagura
☆本編☆
23/39

第23話 大変だった一日




 萌と再会したその翌日、逞真は普通に学校に通勤してきた。





 職員室・・・



「おはようございます。」


 逞真が同じ学年の担当の先生に挨拶をすると、一気に注目を浴びた。


「な、なんですか?」

「駿河先生、おはようございます。」


 初めに声を掛けてきたのは2組担任の斉藤先生だった。


「おはようございます。」

「単刀直入に訊いてもいいです?」

「はぁ、何をですか?」

「・・・昨日のこと。」


 すると他の先生も頷いていた。

 逞真は苦笑した。


「昨日のことといいますと、あの女性のことですか。」

「そうですそうです。駿河先生とあの方はどんな関係なんですか!?」

「・・・斉藤先生は中学の同級生の名前と顔を正確に覚えていますか?」

「はい?」


 斉藤先生は理不尽な逞真の言葉に首を傾げた。


「私は名前は憶えていても顔についてはあまり覚えていませんでした。例えば中学以降で顔が変わったりして面影が薄かったりして。」

「もう、焦らさないで言ってくださいよー。」

「あの女性は、私の中学のときの同級生ですよ。」


『同級生!?』


 職員たちは声を揃えた。


「だから、名前と顔が一致するのに時間がかかったんです。まるで初対面のようなやり取りでしたでしょう。」

「な、なるほど・・・」


 逞真は萌のした行為(抱き着き&キス)についてふれられなくてホッとした。流石は教師。大人だ、と。


 その後仲のいい伊東先生が来て


「駿っち!昨日のお客について説明してほしいんだけど!」


 と似たようなことを尋ねられたが、他の先生が


「中学の同級生らしいですよ。」


 というと、伊東先生は安心の表情を浮かべた。


「なんだ、そうだったんだ。ガールフレンドではなかったのね。」

「そういうことにしておいてください。」

「ビックリしたじゃーん。」


 伊東先生は力強く逞真の背中を叩いた。


「痛いですよ。」









 でも、クラスでは違った。


「おはよう。」


 朝の職員会議が終わり、2年3組の教室に行くと一気に目が向けられた。


「駿T!」

「なんだ」


 クラスメイトの数人がこちらにズンズン向かってきた。


「昨日の!」

「放課後の!」

「呼び出しで!」

「お客が来たじゃないですか!?」


 ご丁寧に台詞分けまでされている。


「・・・あぁ。」


「そのお客さん!女の人でしたよね!?」

「だからなんだ。」

「あの人は誰ですか!?」

「”誰”とは随分と失礼な言い方だな。」

「あっ、ど、どちら様でございますかぁ?」


 逞真は溜息を吐いた。


(女バスの連中が広めたな。あとで鉄拳喰らわせておこう。)


「お前らには関係ないと思うが。」

「関係大有りですよ!」

「だって、駿Tの生徒ですよ!!」

「意味が解らないぞ。」

「ン~!!とにかく教えてくださいよ!バスケ関係でも数学関係でもなさそうな人だったそうじゃないですか!」

「知り合いだ。」

「どんな!?」

「中学の同級生。」


『同級生!?』


 職員室と同じ反応をされた。すると、女バスのやつらが来て、


「じ、じゃあ、あの抱き着きとキスはどう説明するんですか!?」


 ・・・ここが大人と違って空気の読めない所だ。


「中学で付き合っていた、そういえば通じるか?」

「え゛~!!?」

「駿T、付き合ってたんですか!?」

「悪いのか。」

「いえいえ!?」

「ただ、意外だなぁ・・・って。」

「馬鹿。お前たちくらいの歳だったら好きな人くらいはできてふつうだろう。」

「そ、そっすね、はい。」

「じゃあ、その人が何のためにここに来たんですか!?」


 やたらと面倒な連中だ、と逞真は思った。


「同窓会の案内だ。」

「同窓会・・・」

「行くことにしたんですか?」

「勿論、パスだ。」

「え、なんで!?」

「部活だ。」

「なんだ、そんなことなら部活休みにしていいですよ♪」

「ちょっと待て。それは部活をサボりたいだけだろう。」

「あ、バレました??」


 逞真はニヤッと笑った。


「あ、そういうことする美悠(みゆう)には、あとで外周+5周と筋トレ+5セット増加させようかな。」

「ギャー!ごめんなさい、ごめんなさい!!もうしませんのでお許しを!」

「冗談だ。」

「なんだ・・・・」



 と、言ったところで、朝読書の時間に入った。


 逞真は内心ホッとした。





 しかし、他のクラスや他の学年でも同じことを何度も何度も訊かれた。女バスが広めたのは確実だった。

 いちいち怒りを静めて説明するのにも疲れた逞真はつくづく思った。


(女バスの馬鹿野郎どもが・・・こういうことだけパスが速い奴らだ・・・)








 授業が過ぎていき、放課後になった。


 今日の女バスの割り当ては体育館(全面)だったため、体育館に行くと、やはり鋭い眼差しで部員に見詰められた。



「・・・」


 もう説明はしたくないと言わんばかりに沈黙していると、お約束のように女バスの子たちが逞真のもとに集まって訊いてきた。


「先生、昨日の人は誰か教えてください!」

「・・・・あぁん゛!?」


 思い切り部員を睨む逞真。二年生の部員たちはハッとして逞真をなだめた。


「先生、落ち着いて!私たちが悪かったです!!」

「黙ってればいいものの出過ぎたことを___!!」


 え、駿T何かしちゃった??と訊く3年生に2年生は小声で


「先生、あのこと噂になっててたくさんの人に説明したりしたから不機嫌なんですよ。」

「あーなるほど。それはそれは。」

「触れないどこうか。バスケ部心得の第9条に”顧問の先生を労わろう”ってあるしね。」

「じゃ、例のことについては後輩ちゃんからゆっくり聞いちゃおうではないか。」


「お前たち・・・?余計な真似はしなくていいからさっさと活動を始めてくれ。」

「す、すみません!!」

「はーい!ストレッチしまーす!」


 部員たちの慌て様に逞真は苦笑いした。こんな子供たちでも素直は素直。自分に対して行うこれらの行為が、可愛くて仕方なかった。




 でも、逞真は頑固だ。仕返しはたっぷりと2倍、3倍と返すような男である。だから、噂を広めた部員たちに逞真はこんなことをした。


「ひ~!!許して、駿T!!」

「痛い痛い!もうしないからぁ~!!」

「駄目だ。あと3セット。」


 鉄棒にぶら下がって腕を上下させるのを1セット10回とカウントさせて計5セット行うのだ。これは腕力が鍛えられるし十分に痛いから一石二鳥だ。


 ニヤリと笑ってそれを眺める逞真に部員たちは


(やっぱ、敵わないなぁ・・・)


 と深く思った。















 そんな部活が終わって、夜7時半のことだ。


「駿T、さよならー!」

「さようなら。」


「ギャー、雨じゃん!傘持ってないや。あ、入れさせてー!」



 そんな言葉を耳にして扉を開けると大雨が降っていた。



「聖奈のやつ、傘持って行ったかな」



 そんなことを呟いていると、背後でまた扉の開く音がした。振り返ると、副顧問の大野日向(おおのひなた)先生が困ったように立っていた。


「どうしました?」


 逞真が声を掛けると、大野先生は困ったように笑った。


「今日、天気が良かったので歩いてきたんですけど、傘持っていなくて。どうしよう、困ったな。」


 逞真より年下の大野先生は逞真の後輩みたいな者だった。


「でしたら、乗っていきますか?私、車で来ましたので。」

「え、いいんですか?」

「どうぞ。」


 逞真は大野先生を車に導いた。









 車を走らせて10分ほど。


「あ、ここです。」


 大野先生が不意に言った。逞真はブレーキをかけ、大野先生を車から降ろした。そこは、音楽教室のレッスン室が近くにあるところだった。


「ありがとうございました。助かりました!」

「困ったときはお互い様ですよ。また、なにかあったら言ってくださいね。」

「はい!・・・あ、駿河先生。」

「はい?」

「ついでですので伝えておきたいんですけど、次回の練習試合で・・・」


 大野先生は表が書いてあるような紙を出した。


「え、なに。」


 逞真は大野先生に近づいて紙を眺めた。暗くてよく見えないから結構な距離まで近づく。


「旭西中との対戦だったんですけど、急きょ光星中との対戦になりました。」

「まずいな、バランスを上手く整えて対戦しないと光星は意外と手強いですから。」

「今まで通り勝てればいいんですけどね。」

「そうですね。」



 逞真は車に戻って家に戻っていった。

 その逞真は何も知らなかった。萌が先ほどの姿を見ていたことに。


 音楽教室が近いからだったのか、萌は帰り道にこちら側を通っていたのだ。


 物凄い距離まで近づいて親しそうに話していて、萌は誤解してしまった。そして嫉妬してしまった。


 驚きのあまり何も言えないで陰にうずくまっている。


(どうして・・・?どうして?駿君・・・・)
















 逞真は家に戻った。


「ただいま。」


 すると、リビングには女が二人いた。


「お帰り、兄ちゃん♪」


 まず、妹。そして、


「おかえりなさい。」


 萌がいた。


「もう来ていたのか。」

「えぇ。迷惑だった?」

「・・・・そんなわけないだろう。」

「そう。ありがとう。」



 逞真は妙に思った。


(なんだ、この昨日とは違うよそよそしさは。)


 そう思っていた矢先に、萌は呟いた。


「駿君、好きな人が、他にもいたの?」

「・・・・は?」

「いたんだね。やっぱり。」


 よく見ると、萌は涙を浮かべていた。聖奈が怪訝そうな目で見るため、逞真は”場所を変えよう”と自室に移動した。

 気を取り直してもう一度訊きなおす。


「つまり、私が萌のほかに浮気をしていると?」

「・・・うん。」

「何故だ。」


 逞真は心当たりが全くないと思い、必死に訊いた。


「・・・私、見たんだよ。今日、駿君が女の人とくっついて、親しそうに話してるの。」

「・・・ぁ・・・」


 逞真はやっと心当たりがわかった。


「いや、誤解なんだが。」

「嘘っ!昨日駿君は私に他に好きな人はいないよなって訊いたけど、自分じゃない!」

「萌、落ち着け。あの人は同じ学校の教師で、部活の副顧問だと言えば通じるか?」

「・・・だから、そんなに親しい仲になったの?」

「いや、そういう意味ではなくて・・・」


 逞真は思った。萌は意外と焼きもちで、思い込みやすい人なんだと。


「駿君がそういう人だったなんて、今気づいたよ。」


 逞真はついむきになった。


「だから、誤解だと言っているだろう。」

「あんなことして!?」

「萌」

「どうせ約束なんて、どうにも思ってないんだ・・・・・」

「聞け!」


 逞真は命令口調でしかも萌の肩を強く掴んだ。


「え・・・?」

「萌がいつどこでどういう風に見ていたのかは知らないが、私は一切そういう気持ちはない。」

「でも・・・」


 ギュッ・・・


 黙らせる代わりに抱き締めた。


「具体的に説明するとな、今日はこんな雨だった。傘を持っていなかった彼女は困っていたため車で送ってやったんだ。バスケのことについて知らせてくれた際によく紙が見えなかったから近づいた。歳も近いし、副顧問だから割と親しいだけだ。もし、彼女が男だったとしても私は同じように接する。これでわかったか?」


 萌は少し沈黙して、逞真から離れた。


「・・・ごめんなさい。私、何も知らないであんなことを・・・」

「大丈夫だ。私も誤解させるような行為をしてしまって悪かった。」


 萌は涙を拭って笑った。


「びっくりした・・・」


 逞真も微笑んだ。







 それから二人はそれぞれの今日の出来事を話した。


 逞真は特に例の噂話について。萌は特に教え子たちの楽しげな話題について。






 とにかく、幸せな時間を過ごした。











 萌の帰り際・・・


「今日は本当にごめんなさい。私のせいでいろんなことで迷惑かけちゃったね。」

「いや。たまにはこんな日も悪くない。・・・萌。」

「はい?」

「あんな誤解をさせてまで済まないが、まだ約束は保留でいいか。」

「・・・いいよ。」


 萌は一度逞真の手を握って、家を去っていった。





 リビングに戻ってすぐ、逞真は溜息を吐いた。


「疲れた・・・・」


 もし、連続で会議が続いたとしても、こんなに疲労はないだろう。



 今日の逞真は何度も説明をして、何度も誤解された。









 逞真にとって大変な一日になったのだった・・・・_______








次回もよろしくお願いします☆

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