第22話 その後の二人
本編です☆
逞真視点から無視点に変わりましたので、ご注意を。
また、これに出てくる地名はリアルとは一切関係ありませんので。
「はぁ・・・・・」
逞真は過去を思い出し切って一息吐いた。
「あの時は本当に酷かったな。教師になって思うが、あそこまで酷いところは見たことなかった。」
萌はフフッと笑った。
「確かに、先生に向かって反抗するって珍しいことよね。・・・でも、私懐かしいなって思うんだよね、なんでだろう?あんな酷くて、死にたいって思うほどだったのに、今ではいい思い出なの。」
「そう言われてみれば、確かに・・・」
「ね?」
萌が逞真のほうに身を乗り出した。
逞真は思わず心臓がドクンと脈打った。萌との過去を思い出したせいか、やけに萌を意識してしまう。今も、顔が近くにあるだけで、この様だ。
「・・・どうしたの?」
「あ・・・いや、なんでもない。萌、訊きたかったのだが、お前はあの後どこにいたんだ?」
「あー、えっとね、ここのもっと北にあるばしょなんだけど、雨別っていうところ。知ってる?」
「雨別といえば羊だの雨祭りだので有名な場所か。なんだ、そんなところにいたのか。そこでの学校はどうだったんだ?」
「もう、ビックリした。全く違うんだもん。クラスにもすぐ馴染めたし、いい人ばかりで良かったわ。」
逞真は微かに切ない顔をした。
「北中よりずっとよかったんだな・・・。だがあの酷かった学年も萌が引っ越した後真逆に変わったんだぞ。それからの2年間一回も悪い噂を耳にせず、涙して卒業したほどだからな。」
「え、そんなに変わったの?」
「あぁ。」
「なんだーっ、だったら戻りたかったな・・・」
「でもいいじゃないか。こうして巡り会えたんだ。」
「そうだけどね。」
「では、その雨別から、どうしてここまで来たんだ?お前の教え子の優花に私のことを訊いたなら、その前にここに来る根拠があったはずだ。」
「・・・・だって、今頃駿君先生になってるかなって思ったら待ちきれなくて・・・・、駿君はまだ故郷に残ってるのかなって思って、それでピアノの講習区域を変えてきたんだよ・・・?」
萌は頬を赤くして恥ずかしがるように言った。
「なっ・・・それだけの理由で・・・?」
逞真が真に受けながら驚いて呟くと、萌は悪戯っぽい笑顔で、
「なーんてね♡そうだったらロマンチックだよね!」
と言った。
「なに?」
「あ、怒っちゃった?ごめんなさい。」
「つまり、それは嘘か。」
「そうよ。本当はこっちの講師の人手が足りないから来たわけ。それで、優花ちゃんに訊いて今に至るのよ。」
逞真ははぁ・・・と溜息を吐いた。
(しばらく見ないうちに萌も言う女になったじゃないか・・・)
「じゃあ・・・萌の派遣場所がここではなかったら、再会していなかったってことか・・・。それもそれで凄いな。」
「偶然って凄いよね。」
萌はニコッと笑った。
「じゃあ、今度はこっちが訊くけど、他の先生に訊いたら女子バスケット部の顧問みたいね。どうしてバスケ?」
逞真はウッと顔を歪ませた。
「どうしてそんな顔するの?」
「あ・・・いや・・・別に・・・」
「え、なになに?そんな顔されたら気になるよ。」
逞真は諦めて口を開いた。
「中2のときにな・・・お前がいなくなった後、どうにも心残りがあったために、吹っ切れるため適当に始めたバスケットボールが、どうしたわけか、ハマってしまってな・・・。明け暮れていたら、高校でも結構うまくいって、教員になった今、顧問になったわけだ・・・。」
すると萌は思わずプッと笑った。
「じゃあ、私のせいでバスケの顧問になったわけ?」
「萌のおかげで、だがな。」
「あ、ってことはよかったんだ。」
「まぁ、そうだな。」
不機嫌そうに目を逸らす逞真。
萌はそんな逞真の手を握った。
「ハッ、止めろ!!」
逞真は声を荒げた。萌は一瞬ビクッとしたが、微笑んだ。
「そんなに怒鳴らなくてもいいでしょう?私たちの関係はそんなに薄くないじゃない。」
「そうだな。済まない。」
「やっぱり、駿君、変わったみたいね・・・・」
「・・・・」
自分の手の上に恋人の手と頬が乗っており、逞真は頬を染めた。正直、こんな行為をされたのは全くといってなかったからだ。
「駿君・・・」
「なんだ」
「”約束”、叶えてくれる?」
不意に呟いた萌の言葉に逞真は押し黙った。
(運命を誓う・・・・そうなると、俺の教員生活はどのように変わってしまうのだろうか?)
それには深い深い想いを込められていた。
「どうしたの?」
「・・・お前、他に恋人はいないよな。」
萌は顔を上げた。
「なんでそんなこと言うの?いる訳ないよ。」
「そうだよな。萌がそんなことするはずがない。」
逞真は表情を和らげて微笑み、萌の髪を撫でた。
「・・・保留だ。」
「え?」
「もう少し考えさせてくれないか。色々と訳があるんだ。」
「わかったわ。保留ね。でも、約束は破らないでね?」
「・・・当たり前だ。」
逞真は立ち上がった。
「さて、もう遅い。戻ったほうがいいぞ。」
萌はやけに反応して否定した。
「嫌・・・まだ駿君と一緒にいたいよ。」
逞真は苦笑した。
「嫌らしいこと言うなよ。それとももう泊まっていきたいか?」
その言葉に萌はカアッと赤くなった。
「そ、そんなんじゃ・・・・」
逞真はそんな萌が愛しく思って、衝動に駆られた。
そして______
チュッ・・・・・
逞真は萌に濃厚な口付けをした。
あまりにも急で、萌は動作を止めた。
逞真は増々キスを深くしていく。10数年ぶりの萌とのキスを十分に味わっていった。
それから数秒が経って逞真は唇を離した。
「駿君・・・」
「もう逢えなくなるわけではないのだから・・・」
逞真の顔は優しげだった。
「・・・はい。」
萌は頬を赤く染めたままリビングを出た。
そして、玄関先で
「萌、ちょっといいか。」
「え?」
逞真は萌を抱き締めた。
耳元で呟く。
「また、私の家に来てくれ。夜ならいつでも構わないから。・・・待ってるぞ。」
萌は微笑んで頷いた。
「じゃあ、また。」
「あぁ。」
萌がいなくなり、リビングに戻ると聖奈が自室から覗いているのに気付いた。
「チッ・・・おい聖奈!」
聖奈はヒッと声を上げ、静かに出てきた。
「あはは~見ちゃった☆」
「いつからだ。」
逞真は既にキレモード全開だ。眉間にしわを寄せて血管を浮かばせている。
「え~と、兄ちゃんが、萌さんにキスしてる時から。・・・・テヘ♡」
「ふざけるな!!」
逞真は聖奈の胸ぐらを掴んだ。
「まぁまぁ、そんな怒らずに。あっ、兄ちゃん赤くなってる!」
「何だと!?」
「・・・・」
「・・・・」
沈黙が続き、逞真は聖奈のTシャツの襟を離した。
「・・・すまん。興奮しすぎた。首は大丈夫か。」
「うん。大丈夫。・・・ゴメンね?覗いちゃ駄目だったのに。」
「別に。もういい、忘れてくれ。」
「・・・萌さんとは、やっぱ恋人同士だったの。」
「・・・・」
「私、少しだけだけど覚えてるよ。小さいとき萌さん遊びに来たよね。私、萌さんに恋人なのって訊いてた。」
「あぁ、そうだ。お前は昔も今も邪魔ばかりだ。」
聖奈はニカッと笑った。でも、不意に真面目な顔をする。
「ねぇ、そんな仲なのにあのこと言わなくていいの?」
思わず逞真は聖奈を見た。
(全く・・・・こいつは真面目な話をするときのギャップが激しいから困る。)
「話せるときが来たら話すさ。まだ、再会したばかりだ。」
「そぉ。」
聖奈はまた笑顔に戻った。
「そうだ、お風呂!お風呂入んなきゃー!」
聖奈がバスルームに入ってから、逞真は溜息を吐いた。
(まだ早いんだよ。わかっていないな聖奈は。いくら萌が昔からの深い付き合いだからといって、あのことを話せるほどの仲じゃない。プライドに傷がつく。あのことは、俺にとって最悪な傷痕なんだからな・・・・)
次回もよろしくお願いします☆