第19話 負けない心
あれから数日。萌と俺が付き合っている騒動の治まる気配は全くなかった。
美術の時間____
美術室に移動した際、女子軍団が萌に近づいた。
「ねぇ、坂下。アンタまだ絵具使わないでしょ?絵具ないんだよね。貸してくんない?」
「え、う、うん・・・・」
萌はおどおどしながら絵の具セットを渡した。
女子たちはクスクス笑って自分たちの席へ。
何をするのだろうと、彼女たちの机を見ていると・・・
「ふ・・・ふふ・・・」
「ははは・・・」
女子たちは萌の白色の絵具を水の中に注入して水を白く濁らせていた。これは、あえて濁らせたのではなく、多分萌の絵具を減らしたかったんだろう。
「ふふ・・・・ブスのくせに調子のってんなよって感じ。」
「駿と付き合ってなに浮かれてんだか。」
絶対に例の騒動のことについてだった。
このままでは、萌の絵具がなくなってしまう。
俺は臆病な心を捨てて、近寄った。
「ねぇ、それ萌のだよね。他人のやつなのに絵具の無駄遣いだよ。やめなよ。」
冷静な声で言うと、女子たちは面白おかしそうに笑った。
「あーっ、やっぱり付き合ってるんじゃん。バレバレだよ、隠したって駄目!」
「そうやって助けようなんて、お熱い恋人同士ですこと!」
すると、近くにいた男子たちも茶化し始める。
「ヒューヒュー、ラブラブじゃん!」
「前はよくも弟を侮辱してくれたな?ホントじゃねーかよ。」
俺は一回目を伏せて、にっと笑って言った。
「そうだよ。付き合ってるけど?それが君たちに何が悪いっていうの?」
一瞬、皆は唖然とした。
「な、なんだよ。随分あっさりだな。」
「だって、ホントのことなんだもん。この前は嘘ついてごめんね。」
一同はワッと盛り上がった。
「お気に入り同士だ!お気に入り同士だ!」
「そりゃ気が合うだろうにぃ~」
萌はまるでリンゴのように顔を赤くしたが、俺は動じなかった。むしろ、萌の肩を抱いて・・・
「うん。凄い気が合ったよ。君たちのおかげでね。な?萌。」
「う、うん・・・」
俯いてるけど、幸せそうに笑っている萌に俺は微笑んだ。
クラスの皆はこれ以上何も言えなくなって押し黙った。
勝った。初めてこいつらに勝った。
達之介を見ると、”やったじゃん!”みたいな顔で頷いていた。
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今日は三学期の終わりの日。修了式だ。
とうとう来た☆
待ちに待ったって感じがする。これで、これでおさらばなんだ・・・・
と思ったつかの間の英語の授業。またしても最低最悪の悲劇は起こった。
「ねぇ、聴いてんの!?」
いつもの大原先生の声がクラスの騒ぎ声に交わる。今日の大原先生は最後ということもあり、いつもより粘っている感じだった。
「思えばさ、皆と真面な授業したの一学期の最初だけだったよね。そのあとは一度もいいところを見せてくれなかった。」
大原先生は涙ぐんでいた。
「最後の最後でこれ?みんな・・・・最低・・・・・」
その言葉には、俺たちが反応した。そのわけは、俺たちは普通に授業を受けていたからだ。クラスの一部だけがうるさいのに、”皆最低”というなんて、そっちのほうが最低だよ・・・・。
そして、大掃除の時間。勿論掃除を真面目にやる人は少なかった。
「よし、健弥来いっ!」
「ピッチャー、武本。投げますっ!」
「カキーン!打ったー!惇一、ホームランです☆」
そんなバカげた言葉の先には、健弥と惇一と一輝。健弥が紙を丸めて作ったボールを投げて、惇一がホウキで打っていた。一輝は実況。
昔から定番のガキンチョ遊びだよな。
また、違うところを見ると、雑巾に水を含ませて教室にぶちまけるアホな奴らがいた。
「それじゃあ、教室が洪水になっちゃうでしょ!」
「うっせーな!」
大原先生が注意したって、そりゃ聞かないわ。
そして、今日の授業がすべて終了した。
大原先生はみんなに一人ひとりメッセージカードを渡した。でも、悪がきの中で、それを見る者は誰一人いなかった。本人の前でメッセージカードをゴミ箱へ捨てるんだから。
帰りの会・・・・・
「これで、帰りの会を終わりまーす。先生からはないでーす!」
みたいな感じで皆立ち上がり始めた。
「待ってよ!最後くらい挨拶してよ!」
「誰がするか、バーカ!」
あぁ・・・・流石に最後くらい挨拶しても・・・・
大原先生の願いは儚く叶わなかった。一応個人的に挨拶したが、それにしても酷い。大原先生とこうやって馬鹿やってるのも最後かもしれないのに。
こんな、後味悪いしめ方をして、俺の中一生活は終わった。
次回もよろしくお願いします☆