第13話 冬休みの思い出
「はい、明日から冬休みです☆みんな、交通事故とかに気を付けて・・・」
「へいへい、それはもういいから早く帰ろーぜ!」
「そうだ、そうだ!」
先生の話も全く聞かずに終わった帰りの会。
「気をつけー、さよならー」
「さよならー」
ま、いつものことか。
この学級とともにいるのは、冬休みを抜いてあと3か月。はぁ、まだ早いけどそう思ったらせいせいするよ。
冬休みが始まって数日も経たないうちに、俺は従兄弟たちと逢うことになった。正月に皆揃えないかららしい。父方の爺ちゃん、婆ちゃん家に集まるのだ。
「っちわ~!」
「あ、雅彦家来たー!!」
雅彦家というのは、俺たちの家族のことだ。父さんの名前が雅彦で、従兄弟たちはみんな名字が駿河だからややこしくならない為だそうだ。
ちなみに、父さんは3人兄弟の真ん中で、長男が明彦伯父さん。三男が禎彦叔父さん。
明彦家の皆はもう来ていた。明彦伯父さんと恵美伯母さん、俺の6つ年上の智に、俺の3つ年下の狼、同い年の咲耶だ。
「元気だったか?逞ー。」
智がにっこり声を掛けてくれる。
「うん。そっちの3人は?」
「相変わらずさ。狼は、チビのくせに神経質でキレやすいし。咲耶は反抗的になってきて兄の俺は二人の八つ当たりを受けてばっかりだ。」
苦笑している智に、狼が牙をむけるように言った。
「別にキレてねーよ。」
「それ、まさしくキレてるだろ。」
「逞、俺がキレてるように見える?」
「・・・ごめん、いつものとおりに見える。」
「「いつもって、どっちだよ!?」」
声を揃えていうものだから俺は思わず笑ってしまった。咲耶は女の子だから、俺たちより聖奈のほうへ構っていた。聖奈は嬉しそうに
「咲耶ちゃーん!」
と、抱き着いてるし、咲耶も咲耶で
「聖奈ー、久し振り~」
と、聖奈を抱っこしていたし。やっぱり、相変わらずだ。
その時、禎彦家もやってきた。
「こんにちわー」
「あっ、こんちわぁ~!禎彦家来た。」
「これで、全員揃ったね。」
禎彦家は、禎彦叔父さん、紘子叔母さん、俺の5つ年下の双子・陽樹に捺樹に、生まれたばかりの奏多がいる。
陽樹は俺たちの所にやってきて、捺樹は聖奈と咲耶の所へ行った。
「よう、陽樹。元気?」
「元気。」
陽樹はニコニコしている。
やっぱり、一家大集合すると楽しくなる。クラスのことなんて、頭の片隅にもなかった。
夕方に集まったため、すぐに晩ご飯となった。食べながら、こんな話で盛り上がった。
「智はー・・・レスキュー隊に所属したんだってな。」
おかずを口に入れ、智は頷いた。
「うん。」
「そう言えば、智君ちょっとたくましくなったんじゃない?」
「そうかなぁ?」
「そうだよ。ほら、腕の筋肉とか。」
「そういや、兄貴って今年で腹筋ついたよね。」
「うそっ!」
「見せて見せてー」
「ちょっとー待った!!」
いきなり咲耶が声を上げた。
「食事中に止めてくれない?それに咲耶は・・・・」
「そうよ、咲耶ちゃんもう中学生だもんね。嫌なのも無理ないわ。」
「いや、別にそうじゃなくて・・・」
「素直に頷いとけよ、反抗期咲耶!」
智がそういって咲耶の頭をくしゃくしゃ撫でた。咲耶は
「やめろー!智ー!!」
と、その手をはがそうとする。それに苛ついた狼が
「二人ともうるせぇ!食事中!!」
と叫んだ。これが明彦家の日常なんだと思う。そこへ、明彦伯父さんが俺と咲耶に話し掛けた。
「そう言えば、二人は中学生だったね。どうだい、中学校生活は。」
咲耶は笑っていたが、俺は顔を曇らせた。
「楽しいけど、先生は厳しい。」
「逞は?」
「・・・まぁ、いいんじゃないのかな。うん、あれはあれで。」
「なにが。」
「あ・・・いろいろあってね。うん、楽しいよ。非日常生活みたいで。」
「非日常生活・・・」
「そうなの。毎日が違うんだ。新鮮でしょ?」
「いかにも抽象的な言い方だけど・・・まぁ、楽しいんだったらいいか。」
「ちがうんだよ、兄ちゃんね・・・」
聖奈が話をこじらせようとしたため俺は慌てて止めた。
「聖奈!なんでもないだろ。」
「・・・うーん。」
何とか納得したらしい。でも、このせいでクラスのことを思い出してしまったのだった。
明彦伯父さんは双子にも訊く。
「陽と捺は学校たのしいかい?」
二人は同じように頷いて笑った。
「「たのしーっ!!」」
流石双子。相変わらずいきぴったりだ。
夕食が終わり、子供たちでかるたをしていた時だ。
陽樹がいきなりカッパのぬいぐるみを持ってきて、
「いい?このお方は大先生ね。いじめちゃ駄目だよ、兄ちゃんたちー。敬うんだよぉ~。」
と言い出し、智と狼がツッコんだ。
「どっから連れてきたんだ、大先生は。」
「ってか、カッパが大先生って・・・どこをどうしたらそうなる?」
「妖怪は敬うべきなのです!」
「陽樹ね、妖怪にはまってるんだよー。」
捺樹の言葉に俺たちはブフッと笑った。
「おーい、みんなー」
禎彦叔父さんの声がした。
「お楽しみがきたよー」
「えー、なになに!?」
みんなリビングに群がる。
「じゃーん!お・と・し・だ・ま☆」
「うわー、やったぁ!」
俺たちは大はしゃぎ。
「では、まず一番お兄さんの智君から。」
「あら、僕でもまだもらえるとは。ありがとうございます!」
「次、逞と咲耶ね。」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「はい、狼。」
「ありがとうございます。」
「陽樹と捺樹は家でね。はい、聖奈ー。」
「ありがと。」
ということでちょこっと早いお年玉をもらったのだった。
「じゃあ、男どもー、みんなでお風呂入っといで~!」
「はーい。」
「婆ちゃん家の風呂広いからいいよね!」
「そうそう。4人でも楽勝。」
そういいながら、俺たちは風呂に入っていった。
風呂の中で、俺はびっくりした。
「智の体、ホント凄いね!ムキムキじゃん!!」
「これくらい、逞だって鍛えればすぐなるよ。」
「ほんと?」
「うん。雅彦さん似でしょ?駿河家は代々筋肉質だから。」
「そうなんだ。」
智は狼を見てクスッと笑った。
「狼は可哀想だよなー、母さん似だからこれほど筋肉がつくかどうか・・・」
「うるせぇな!どうせ俺は母さん似で細っこいよ!」
「あー、またキレたー!!」
陽樹が笑いながら言って、狼はフンッとすねた。
夜も遅くなって、聖奈や双子たちが寝静まった頃、俺たちは帰ることになった。
「ではでは、よいお年を。」
「よいお年をー。」
「逞、またな!」
「うん、また来年!」
「逞ー、聖奈が兄ちゃんケチって言ってたよ。もっと優しくしてやりなさいよ。」
「余計なお世話だよ!・・・あっ、あまり反抗して智を困らせないでよ。」
「そっちこそ、余計なお世話!!」
俺たちは婆ちゃん家が遠ざかるまで手を振って家に向かった。とても、楽しい一日となったのだった。
*********・・・・・・・・・*********
もうすぐクリスマスというものがやってくる。昔ならサンタ伝説を信じていたが、今は現実を見て信じていない。
母さんにこう言われた。
「逞、なにか欲しいものとかないの?」
「特にないなあ。俺はいいからサンタ伝説を信じてる聖奈にでもいいもの買ってあげなよ。」
「もう、欲のない子供だこと。なんかあるでしょ、なんか。」
「う~ん・・・・あ、学校で使うサラサのペンのインクが切れたから、その代えで5本ほど買ってほしいな。」
「そんなものいつでも買えるのに。」
「いいって。じゃ、それで宜しく。」
クリスマスイブの夜、駿河一家はパーティをした。
そして、寝る前に聖奈はクリスマスツリーに”れごぶろっく”と書いたメモを貼り付けていた。夢のある奴でいいな。
聖奈はグフフと笑いながら自分の部屋へと戻っていく。まぁ、俺も明日になればペンがあるわけだし、少しは喜ぶか。
翌日・・・・
「あーったー!!!!」
妹の甲高い声に目が覚めた。あぁ、ブロックがあったのね。それはそれは。俺も起きて見てみることにするか。
リビングに行くと、聖奈がきゃぴきゃぴ喜んでいた。
「兄ちゃん!サンタさん来たよ!!兄ちゃんのもあるよ!!!」
「そうだな。それはよかったね。」
俺はそう言いかえし、5つのボールペンが入った紙袋を部屋に持って行った。
中身を見ると、ペンのほかにも最近人気の文房具が入っていた。
・・・母さん、ありがとよ。凄く嬉しいよ。
そんなクリスマスイベントが終わって間もなく、正月というものがやってきた。
正月初日早々、年賀状が束のように届いた。まぁ、ほぼ父さんのなんだけど。聖奈は必死に自分あてのがないか父さんに訪ねているし、父さんは待て待てと、自分の年賀状をじっくり見ている。
俺あての年賀状は、小学からの友達もいたけど、北西の人からも結構あった。あ、出してないから急いで返さないと。
勿論達之介からもあった。流石達之介。野球のイラストは必ず入ってるし、今年の干支のイラストも水墨画のようで、力強い。
すると、父さんにこういわれた。
「逞、またお前あてだ。・・・女だ。」
「・・・えっ、女?」
「さかした?さかじた?とかいう奴。」
まさかとは思ったが、それは萌からだった。
「ちょ、ちょうだい!」
「ああ。」
俺はすぐにその年賀状を見た。そうか、俺の家知ったから勿論住所もわかったわけだ。
萌の年賀状は柔らかくて、可愛らしくて、達之介とは大違いだった。そこに色ペンでメッセージが書かれていた。
”駿君、あけましておめでとう。あと何日か経てば3学期だけど、あと3か月、頑張ろうね。去年はたくさん助けてもらったから、お返しできたらいいな。今年もよろしくね。”
ついつい笑みがこぼれてしまう。俺はすぐに萌の住所を確認して返事を書いた。
”返事遅れてごめん。あけましておめでとう。そうだな、あと3か月。クラス替えまで頑張ろうじゃないか。お返しなんて水臭いだろ。このまま俺は萌の手助けになればそれで嬉しいよ。今年もよろしく!”
一番に萌のを書いて、そして、送った。
もし、ああやって萌に会わなければ、こういうメッセージはなかったと思う。
「あけおめ~駿ー!!」
「達之介!あけおめ!」
正月期間が過ぎて、達之介が家にやってきた。
「お、達之介、君肌の色抜けたんじゃない?」
「そぉか??」
「うん。夏なんてガングロだったじゃん。」
「まあ確かに。日に当たることもないし、部活も筋トレだから、抜けたのかもな。」
そういって、リビングに入る。
「お邪魔しまっス!お、聖奈ちゃん!あけおめ!!」
「あけおめ。」
「グフ、相変わらず可愛い♡おばさん、今年もお世話になりやす!」
「あら、達之介君。こちらこそ、よろしくね。」
「今日は何するか。」
「・・・スケート行ってみたい。」
達之介は突然言った。
「スケート?北雪アリーナで毎日あるやつ?」
「おう。俺行ったことなくてよぉ。」
「マジ!?北小は毎年必ず行ったんだけど。」
「北西ではそんなのなかったから。結構遠いし。な?行きたい~。」
「でも、金かかるぞ?」
「それなら金持ってきてるから安心を。さっそく行こうぜ!」
ってなことになり、俺と達之介は北雪アリーナに行った。
中は意外と混んでいて、同じ学年の奴もたくさんいた。
靴を履きながら、達之介が言う。
「なんか、キンチョーするな・・・」
「達之介、運動神経いいからすぐ慣れるって。ほらいこう。」
氷の上に足を乗せると達之介は
「ぐおぉぉぉぉ~」
と、うなった。
「なんだよ、耳元でうるさいな。」
「だって、だって、俺今氷の上にいる・・・。滑る!滑るよこれ!!どうすんの駿!?」
「滑るのは当たり前だろ。最初は壁のほうでやるといいよ。」
そういって、20分が経過したころには、達之介はホッケーシューズですいすい滑っていた。
「駿ー、これ意外とおもろいな!楽勝じゃん!!」
「はは、そうだね。」
全く、達之介には流石って文字をたくさん使うよ。
しばらくし、滑り終わって靴を脱いでいると、達之介が俺の耳元に囁いた。
「駿、あれ、あのお母さんたち、悪がきどもの。」
「え、マジで?」
「うん。修人とヤウチと健弥のお母さんだ。」
俺は何となく彼女たちの話に聞き耳立ててみた。
「もう、最近の教師はなってないわよね。」
「そうそう、息子から聞いたわ。ビックリよ。」
「あぁ、大原のことならうちも聞いたわ。」
・・・・・?なんだって?いま、呼び捨てにしたよな??
「大原があんな教え方するから、子供たちの成績も伸びないのよ。」
「そうよ、大原、来年きっとおろされるわね。」
「えぇ。」
俺と達之介は顔を見合わせて、そのお母さんたちにバレない様に外に出た。
「ふぅ。・・・なんだよ、あれ!?」
「親が先生を呼び捨てにするなんて、最低じゃないか!!」
「はぁ。ああいう大人の背中をみて子は育つんだねぇ。」
「そうか、親も悪いのかも。」
「そうだなー。」
俺たちは呆れた顔で家に帰っていった。
あと数日で3学期だが、直るわけないな、どうせいつもと同じだ、と諦めた、俺であった。
次回もよろしくお願いします☆