第12話 初雪
テストが中間、期末と終わり、2学期後半となりつつあった。
その二つのテストについては、触れないでほしい。勿論英語の点数は悪かったから。その代りと言ってはなんなのだけど、他の4教科は地味に上がった。
この頃、外が異常に寒い。あぁ、冬に近づいているんだな、と思う今日この頃。外は寒いけど、家は別だ。寒いのにもかかわらずうるさくって暑苦しさまで感じてしまう妹がいるし、母さんが寒がりだから、暖房もいれてくれた。
また、学校も別だ。この学校は意外と新しく、建て替えられて15年ほどしか経っていない。だから冷房、暖房については完璧なのだ。
つまり、外以外の俺の行き場は、温かいわけ。俺も幸せ者だ。
放課後、下校して達之介と別れると俺は急いで家に向かった。あと100mほどで家だ。と、その時前方に見慣れた人影が現れた。
「あっ・・・」
そちら側も俺に気づき振り向いた。
「あ・・・」
「・・・よう。」
俺は微笑んだ。そっちもニコッと笑う。
「駿君、こっちなんだ。」
「うん。萌はなんで今日はこっちなの?俺と逆方向の家だよな。」
「今日はね、ピアノのレッスンがこっち側の教室であるの。いつもは家の近くなんだけど。」
「そうなんだ。」
「でも、早くに来ちゃったから時間が有り余ってて。」
その時、冷たい風が吹き、俺と萌の頬を冷ましてしまう。
「きゃっ!寒い・・・」
「そうだな。そうだ!俺ん家に来いよ。少し温まるかもしれないし。」
「でもいいの?迷惑になるんじゃ・・・」
「前に俺も萌ん家にお邪魔したから、お返しみたいなもの。遠慮しないで。」
「じ、じゃあ・・・お言葉に甘えちゃおうかな。」
「そう!こっち。」
俺は萌の前に立って家に案内した。
一分もせずに到着して、家の中に入った。
「お邪魔します。」
萌は律儀に言って俺の後に続きリビングに進んでいった。
「ただいま。」
家には聖奈しかいなかった。
「おかりぃ~」
「母さんは?」
「幼稚園のお母さんたちでお菓子食べに行った。」
あぁ、茶会か。なるほど。萌は申し訳なさそうな顔をしていた。
「やっぱり駄目だよ。お母さんもいないんだし。」
「大丈夫だよ、小学生でもあるまいし。萌が俺ん家で悪さとかする訳ないじゃん。」
「する気はないけど・・・」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん。」
聖奈が萌の制服を引っ張った。
「え?」
「お姉ちゃんは、兄ちゃんの恋人さん?」
・・・・いきなり何を言い出すんだ、この野郎。
萌はかわいいな。めっちゃ顔赤くなってるよ。こんな奴の言葉なんて無視すればいいのに。
「そ、そんなんじゃないよぉ~!!」
「どうしてそうなった?」
聖奈は当たり前のように言う。
「兄ちゃんくらいの人が女の子連れてくるなんて、恋人さん同士にならないと有り得ないのです。そうやって、テレビが言ってました。」
ブッ飛ばしてやろうか?
「あのな、聖奈。兄ちゃんはいつも達之介君を連れてきますね?」
怒りを静め、丁寧に言ってみた。
「うん。」
「聖奈もよく男の子の友達の家に行くけど、彼氏じゃないだろ?」
「おもちのろん。」
「それとおんなじだ。男でも女でも友達は友達。家に連れてきて可笑しいことないだろ?」
「なーい。」
「よろしい。テレビがすべて正しいこと言ってるんじゃないんですよ、聖奈ちゃん!」
俺は、萌を手招きした。俺の部屋に入る。
「まったく、幼稚園児はあれだから・・・ごめんな、萌。」
萌の顔はまだ赤かった。
「・・・気にするな。俺もまったくスルーしておくから。」
「う、うん。可愛いんだね、聖奈ちゃんって。」
「それ以上妹を褒めないでくれ。馬鹿馬鹿しい。」
「ご、ごめんね。」
「いやいや。」
俺は萌にベッドに掛けるよう言った。俺は机に備わっている椅子に座った。
「少しは、温かくなったか?」
「うん、凄く。ありがとう、駿君。」
「ううん。冬って嫌だよな、無駄に寒いし。いつも薄暗いから自分の心まで暗くなるよ。」
萌は首を傾げた。
「そうかな?私は結構好きだよ。雪が降るところとか見ると、心が安らぐの。寒いけどね。」
「じゃあ、萌は夏派より冬派なの?」
「そうだね。夏は、逆に暑くて日に焼けちゃうし、雨も降るから、雷だって鳴るでしょう?あー、そういえばホントに夏嫌いだな。」
「クスッ、萌雷苦手なの。」
萌はまたしても顔を赤くした。
「あっ、つい!もー、どうして言っちゃったんだろう?」
「俺は得したなー。萌の苦手なもの知った。」
「意地悪!」
「で、すいませんねーっ。」
俺たちは笑った。
「なんか、結構久しぶりだな。こうやって思いっきり笑うの。」
「・・・クラスでは、笑えないもんな。」
「うん。でも、駿君となら何も考えずに笑えるの。ありがとうね、私と、仲よくしてくれて。」
「なんだよ、水臭いなぁ。これからも友達だよ。男では達之介、女では萌が俺の親友だ。」
萌は心から嬉しそうに笑った。
「もうすぐ、2学期が終わるけど、大丈夫なのかな?2組。私みたいな個人的なイジメならまだわかるけど、先生に対するイジメなんて・・・中学校でそれはいけないよね。」
「うん。これでも半年経ったんだね。この状況がいつまで続くのか・・・・まさか、卒業までだったら笑えるけど。」
「笑い事じゃないよー、ホントにそうなったらどうするのーっ??」
「どうしようかな。なーんてね♪」
すると、部屋の外で、聖奈がはしゃいで外に出ていく音が聞こえた。
「雪ー!雪ー!」
という声も聞こえる。雪?そう思っていると、萌がふと窓の外を見て呟いた。
「初雪・・・・・」
俺は思わず振り向いた。
「初雪?」
「うん。見てみなよ。」
俺は萌の隣に立って窓から外を見た。本当だ、白い粉のような雪がちらちら降っている。
「今日はやけに寒いと思ったら。」
「綺麗だね。」
俺は萌のほうを向いて、思わず見惚れてしまった。白い雪の反射で萌の顔がより白く美しく見えた。”萌のほうが綺麗だよ”と思ったが、いうのは流石にやめておいた。
でも、そんな美しい顔に額の生々しい傷が目立ってしまっていた。
俺は無意識のうちに萌の頬から額にかけて手を当てていた。
「・・・まだ、瘡蓋にならないんだね。これ。」
「深い傷だったから・・・」
「これは、俺のせいでもあるのにな。大人になっても跡が残ってしまったら・・・・ごめんな。」
萌は慌てて首を振った。
「駿君は悪くない!あれは・・・・誰か一人が悪いわけじゃないよ。偶然が重なっただけ、私はそう思う。」
心が広い、そう思った。あれは、確実に未来や健弥や俺の不注意なのに。萌は、巻き込まれただけなのに。萌だって、俺を庇おうとしなければ、こんなことにはならなかったのに。
そう思っても、俺は口にできなかった。そんな俺の気持ちまでもが、萌の海のように広い心に飲み込まれそうだったから。
だから俺は、これだけを言った。
「もしさ、その傷が大人になっても残ったなら、俺が萌の一生を背負わないといけないね。嫁に行けなくなるじゃん。」
今思えば、何を言ったんだろうか俺は。つまり結婚宣言しているようなものじゃないか。いやいや、そんな気持ちはないない。助けたいって思うだけ。それだけだし。
萌も、何かしら悟ったようだ。本日何回目になるか、また顔を赤くする。
「そんな、律儀に考えなくていいのに。これも、思い出の象徴として残ればそれでいいかなって思うし。だから、駿君は、何も心配しないで?」
「あ・・・っ」
萌の顔が俺のすぐ前にあった。その近距離にお互いが目を逸らしてしまう。急に身が熱くなってきた。まさか、顔が赤くなってるわけじゃないよな?・・・まぁ、今の萌は当然赤くなってるけど。
「あ・・・わたしもう行く時間だ。じゃあ、帰るね。」
「・・・あ、あぁ。」
萌は荷物を持って外へ出た。
「ありがとう、駿君。とっても温かかった!」
萌はいつもの笑顔を見せた。
「それは良かった。ピアノ頑張れよ!」
「うん、頑張る。」
俺は遠ざかっていく萌を最後まで見送った。
何だろう、さっきの気まずさは。前まではこんなことなかったのに。
以前は萌を、ただ助けたかった。それだけだったのに、今は違う想いも含まれている気がする。でもその正体はわからない。
何だろう、この胸の苦しさは・・・・____
「はっくしゅい!」
近くで聞こえるくしゃみに俺は我に返った。
あーあ、聖奈のヤツ鼻水垂らしやがって。
「聖ー奈、風邪ひくぞーっ。」
「寒い~!!!」
俺は冷え切った妹の手を握り、家の中に入った。
えー、全く真逆の季節でしたね・・・。
題名からそれを感じてた人もいらっしゃるのではないかと。
「初雪ィ!?」
みたいな。
まぁ、過去編なんでその辺はお許しを。
次回もよろしくお願いします☆