第11話 学校祭
9月。中学校の学校祭シーズンだ☆
北中の学校祭は、1日目に合唱祭があり、2日目に本格的な学校祭になるらしい。
で、今音楽でやってるのは合唱祭の練習だ。課題曲は『君を乗せて』、自由曲は2組は『ウィズユースマイル』。2つとも小学の頃に歌っていて、歌いなれている曲だった。
問題なのが、誰が指揮者と伴奏者になるか。指揮は健弥がやる!となったのだが、伴奏者が未だ決まっていない。
休み時間に入り、俺は萌に訊いてみた。
「萌、お前ピアノ上手いよな?」
「え、そんなんじゃないよ。」
「いや、上手くてもそうじゃなくても、合唱の曲ぐらい弾けるだろ?」
「うん・・・。まぁ。・・駿君の言いたいことわかるよ。」
「そうか。なら単刀直入に言うけど、どうして伴奏者に立候補しなかったんだ?」
萌は困ったような顔をした。
「私なんかがやっていいのかなって。」
「は?」
「だって、いじめられっ子の私が伴奏して、合唱が成立する訳ないじゃん?それだったら、私のようにピアノが弾けるクラスで人気なほうの由貴ちゃんのほうがいいんじゃないかなって。」
「由貴も立候補しなかったけど。」
「気持ちはわからないでしょ。そんなにすぐ決められることじゃないもの。」
「そういうもんか?」
俺は萌から離れて、由貴の所へ行った。
「由貴ー、ちょっといい?」
「ん?」
「合唱の伴奏、やりたい?」
由貴はう~んと首を傾げてそしていった。
「課題曲はやりたいな。」
「自由曲は?」
「やりたくない。面倒くさいもん。」
「面倒くさい・・・。」
「緊張するのは一曲だけで十分だよ。」
由貴はそう言い捨てて、教室を出て行った。
伴奏できる人は由貴のほかに萌しかいなかった。俺は萌に再び近づいてそのことを伝えた。
「えっ、それだけの理由なの?」
「みたいだ。最近の女子はこうだから困る。」
萌は本当に困った顔をした。
「ホントはやってもいいよ。でも、皆が受け入れてくれないと・・・じゃないと合唱はバラバラになるでしょう?」
「そうだな。」
俺はアンケートを取ってみることにした。萌が自由曲を演奏していいか、と。達之介に訊くと
「いいんじゃね?それしかないんだし。平井(由貴の名字)はどうか知らんけど、坂下はピアノ上手いしな。」
と言った。他の男子に訊くと、Yesの人が40%くらい。Noの人が60パーセントくらいだった。念のため女子に訊くと、Yesの人が30%、Noの人が70%くらいだった。俺は深く考えた。
断った人の割合のほうが高い。でも、由貴が自由曲を弾いてくれないなら、萌がやるしかない。
俺は萌に言った。
「萌、まだ決まったわけじゃないけど、自由曲弾いてみてくれない?弾くだけならみんな許してくれるかもしれないし。」
「・・・いいよ。でもどこで弾いたら?」
「そうだな・・・音楽室借りる訳にもいかないし・・・どうしよ。」
「私の家にピアノあるけど、家で弾こうか?」
「え、いいの?」
「うん。そのかわり、駿君が私の家に来ることになるけど。」
「迷惑じゃないんだったら、是非行くよ!」
ということで、俺は帰りに萌の家に行くことになった。
「へー・・・」
萌の家は洋風で小さな城のようで、俺は思わず足を止めてしまった。
「失礼だけど、萌んちって裕福?」
「ううんっ!全然だけど!?あ、この家見てそう思った?実は、お父さんが洋風なものが大好きで、それでこんな洋風に家を建てたの。ピアノを私に習わしたのも、外国の文化っぽいかららしいわ。」
「そう、なんだ・・・。」
「どうぞ、入って。」
「う、うん。」
俺は少しためらって中に入った。なかも豪勢に作られていた。
「お邪魔しまーす・・・」
リビングに行くと、犬にキャンキャン吠えられた。
「うわっ!」
これは・・・チワワか。真っ白で、よく世話されている感じだ。
「あ・・犬嫌い?」
萌に申し訳なさそうに言われ、俺は首を振った。
「いや?好きでも嫌いでもないから安心して。」
萌は頷いた。その時、キッチンから綺麗な女の人がやってきた。
「あら、お帰りなさい。そちらの男の子は?」
俺は慌てて自己紹介した。
「す、駿河です。駿河逞真。萌さんとはクラスメイトで・・・。」
「貴方が駿君?」
「・・・はぁ・・・」
「萌からいつも聞いてるわ。どうぞごゆっくり。」
「は、はい!お構いなく!」
俺はグタグタになりながらも礼をした。・・・萌が俺のことを話して・・・?萌を見ると物凄く照れた顔をしていた。
「も、もうお母さんはほっといて部屋に入ろう?こっち。」
俺は部屋に案内された。
「どうぞ。汚いけど。」
そういわれて、入ったところは汚いなんて言葉は程遠い綺麗な部屋だった。女の子の部屋ってこんな感じなのか・・?と、感心まで覚えてしまう。そこに、バランスよくグランドピアノが置いてあった。
「じゃあ、私弾くね。駿君はそこに座って。」
「あ、うん。」
俺はふかふかの椅子の上に腰かけた。萌は一気に目つきを変え、鍵盤に手を添えた。そして____
♪~ ♫~♬~
自由曲が流れ始めた。なんだか、範唱よりも丁寧で、確実な弾き方だった。それを俺は3分くらい聴き、心地よさを感じていた。
伴奏が終わり、俺は拍手した。
「やっぱ凄いよ萌!これならいけるんじゃない!?」
「そ、そうかな・・・」
「うん。明日みんなに話してみよう。」
「そう・・・だね。」
萌は少しためらった表情をしていた。
少しだけ部屋にい続けて、俺は帰ることにした。
「お邪魔しました。」
そういって玄関に行くと、丁度男の人が入ってきた。
「あ、お父さん、お帰りなさい。」
萌が笑顔で言う。この人が萌のお父さんか。この人もすっごい綺麗な顔してるな・・・・。だから萌も可愛く生まれたわけだ。
「こんばんは・・・、クラスメイトの駿河です。」
そういうと、萌のお父さんは穏やかな表情で微笑んだ。
「こんばんは。もう帰るのかい?」
「はい。お邪魔しました。」
すると、萌のお父さんは俺の耳元に呟いた。
「また、遊びに来てくれないか、萌が喜ぶ。萌のボーイフレンド。」
「え?」
ニコッと笑って萌のお父さんは俺から離れた。
「・・・どうしたの?」
「あ、いやなんでもない!今日はありがとう。また明日な。」
「うん。明日。」
俺は家に帰った。ホントはピアノがメインだったのに、なんか遊びにいったようで、俺は妙な感覚がした。でも、とても楽しかった。
次の日、俺は皆の説得に必死になった。その成果で、皆も何とか納得。
「弾くだけなら・・・」
みたいな。達之介は満足そうに頷いていた。大原先生は大喜びみたいで大人気なくはしゃいでいる。一応一段落かな。
でも、やっぱりそのせいで萌はまたもいじめられることになった。
萌が伴奏者になったその日の給食で、萌の牛乳に穴があけられた。萌の制服は牛乳だらけだ。辺りを見ると、女子の一部が笑っていて、その人たちの仕業だと気付いた。
また、音楽の授業で合唱の練習をするときに、先生が指揮者伴奏者がしきって作っていってくださいと言った。でも、萌の言葉に聞き耳持たずに練習は進んでいったのだ。俺は申し訳なさそうに萌を見ることしかできなかった。
放課後、俺は萌に謝った。
「ごめん、萌。俺が萌を推したばっかりに。」
「ううん、いいの。これくらい慣れてるよ。」
萌は平気、と微笑んだ。前にもそんな言葉を聞いた。ナイフ事件の時に。萌は平気と言ったがその傷は重症で、今も傷は生々しく赤みを帯びて残っているのだ。
だから、俺は萌の平気があまり信用できなかった。
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そして合唱祭当日・・・_____
2組には合唱部が男子女子合わせて6人もいたため、結構いい演奏だった。
でも、練習方法がいまいちだったらしく、結果は銀賞だった。
その翌日、たくさんの催し物に楽しめられ、学校祭は終了した。
楽しかったのもあるけれど、結構ひやひやした2日間だった。
来年の学校祭は、一体どんな風になるのだろうか・・・?
次回も宜しくお願いします☆