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空想を綴る

掲載日:2026/03/08

 花筏と言うらしい。清流に揺蕩う花弁はなびらを見て、好きでもないのに花見がしたくなった。清流に幾つか波紋が広がった。雨だ。傘を閉じて空を見上げる。髪に落ちた雫が顔を伝い、地面に落ちる。雨が僕の憂いを流したとでも言うのだろうか。全ての情景がやたらと眩しく、美しく見える。雨だというのに気分は何故か澄んでいた。

 そのうち向かい風が吹いた。意地悪な雲はまた涙を落とした。しかし依然僕の心は海原の如く凪いでいた。雨音は強まるばかりだが、それすらも自然の音楽のように感じた。なんでもない一歩がドラムのビートを奏で、雨足はメロディーを奏でる。自然と自分が同調していく感覚に、僕は一種の快感と確かな幸福を覚えていた。ふと気づく。雨が止んだ。花が、葉が、アスファルトが騒めいた先程とはうってかわり、コーダの終わりに指揮者がその手を掲げ、腕の力を抜くまでの僅かな余韻を僕は噛み締めた。

 そのうち光が差した。僕は傘を広げた。傘を開くと雫が散った。雫のイルミネーションに冬を想起し、一瞬で蒸し暑い地球に引き戻された。晴れ間には僕の足音だけが響いている。雨がオーケストラなら晴れはアカペラだろうか。独奏を楽しみ、僕は再び歩き出した。

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