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剣と刀

刀の名は『佳月(かげつ)』。

極限まで叩き上げられた刀身は

青白い光を反射して、

カグヤの銀髪のように煌めいている。

美しい曲線を描くように反った峰に、

触れた物を切り裂く刃。

桜を型どった鍔はほのかに桃色で、

夜のように黒く染まった柄は

それだけで闇の宝石のようだ。

さすがは異なる世界と言うべきか、

下界の刀と同じ玉鋼こそなかったが、

似たような鉱物を組み合わせることで

負けじ劣らずの刀が完成した。

満足のいく一本ができるまでは

和服以上の時間とお金がかかり、

それはもう苦労したものだ。

この世界の剣と言えば、

エルドが持っているような

両刃で剣先の尖った真っ直ぐな剣で、

刀という概念はヤマトの国にしか

存在しなかったことも

製作に時間を要した理由の一つだ。

だが、どれだけの時間をかけてでも、

カグヤは刀が欲しかった。

月にいた頃は毎日のように振り続け、

ひたすらに技を磨いていたのだ。

この世界に来てからも

鍛錬を欠かしたことはなく、

また刀を振れることを望んでいた。

そして、やっとの思いで念願の

刀を手にしたあの日に、

カグヤは血狩りの事件に巻き込まれた。

刀の調子を確かめるのと、

カグヤの技がどれだけこの世界に

通用するのか試すには、

ちょうどいい機会でもあった。

結果として剣姫という二つ名を

持つことになるとは思ってもみなかったが、

それはカグヤの技がこの世界でも

十二分にも通用することを証明してくれた。

いかに目の前の男が強かろうと、

この刀と技で切り伏せる。


「上等じゃねぇか!

やれるもんならやってみろ!」


エルドは剣を右手で持ち、

体をカグヤに対して正面に向く。

まるで猪のようなその構えは、

正面からぶつかることで

力を発揮するタイプだろう。

確かに、彼の大きな体格であれば

理想的な戦い方だ。

自分の体格と相性のいい構えを

しっかりと熟知している。


「いつでもかかってきなさい。」


対してカグヤは両手で持ち、

刀身を見せるように横に向けて剣先を下げる。

エルドのように自分から相手へ

突っ込んでいくのではなく、

正面からの相手の攻撃を

受けるのに適した構え。

刀身を見せることで相手を挑発して、

こちらの土俵に引き摺り出す。

エルドもそれを理解したようで、

いい度胸だと言わんばかりに

踏み込んで突進してきた。


「うおおおおおおお───!」


弾丸のように早い突進。

カグヤの頭の上から

叩き切るように振り上げた剣は

まさに一撃必殺の攻撃。

正面から受けていては、

さすがの刀でも耐えられないだろう。

それに、カグヤの肉体はまだ16歳だ。

いくら月で鍛錬していたといっても、

全てを出し切ることはできない。

あの事件の時は不意討ちで、

混乱の中だったから

制圧することができたが、

今回はそう簡単にはいかない。

素直に真っ向勝負をしていては、

殺し屋紛いのことをして

多くの人間を殺してきたエルドに

勝てる見込みは薄い。

だが、純粋な力と速さだけが

戦いの勝敗を決める訳ではない。


「死に晒しやがれ!」


エルドが剣を振り下ろすのと同時に、

カグヤも刀を振り上げる。

甲高い金属音が鳴り響き、

火花が二人の間に散った。

これが誇り高き武士同時の戦いなら、

ここでお互いの顔を見合わせながら

鍔迫り合いをするのだろうが、

まさに力勝負の鍔迫り合いなんて

カグヤがするはずがない。

剣と刀がぶつかった瞬間、

カグヤは体と刀を横に流して

エルドの剣を下へと受け流した。

あれだけの大振りの一撃なら、

勢いのままに床に剣が刺さるのが普通だが、

数多の人間を殺してきたエルドは

そのようなヘマをする程弱くなかった。

勢いを殺そうと力を戻すのではなく、

勢いそのままに剣を横へ逸らして

足でしっかりと踏み留まると、

裏拳で殴るように追撃してきた。

人間の体は縦に長いため

縦方向の攻撃は流しやすいが、

横方向の攻撃は受けるしかない。

しかしその分、体重の乗っていない攻撃は

ある程度の力の差があっても

受けることができる。

エルドの攻撃に対して、

カグヤは縦に刀を構えた。

そして、刀を振るのではなく、

ただ正面から攻撃を受ける。

その瞬間に少しだけ自分の体を浮かせば、

相手の攻撃を利用して

相手から距離を取ることができる。


「なるほど…剣姫の名は飾りじゃねぇらしい。」


カグヤの身のこなしが

普通の女の子のそれと

比べ物にならないことを察して、

エルドは一度動きを止めた。

相手が想定以上の実力だった場合、

無理に突っ込んでいくよりも

観察した方がいいと分かっている。

しかし、そうすぐに理性的になれる程、

エルドはカグヤに対する殺意を

なくすことはなかった。


「ならその二つ名ごと、ぶった切るだけだ!」


あの事件から二年のも間、

彼はずっと怒っていたのだ。

貯め続けてきた殺意が

たった一瞬の命のやり取りだけで

消えることなど有り得ない。

カグヤとてそれは百も承知。

だからエルドの殺意も含めた全てを

正面から受け止めている。

だが、それももう終わりだ。

今のやり取りだけで既にカグヤは

エルドの剣を見切った。

もう、彼の剣はカグヤに届かない。

再び猛烈な速さで突っ込んでくるエルド。

剣を振り上げて、今度はそう簡単に

受け流されないように直前で飛び上がった。

全体重を乗せた渾身の一撃。

もはや避けられる隙はない。

大振りの一撃には相応の

隙ができるものだが、

彼の剣にはそれがなかった。

そして、勝負は静かに終わりを迎える。

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