第8話 能力の教え合い(後編)
「爆弾って——ドカンって爆発するあの爆弾だよね」
ノノが念の為に聞くと、ネギシくんは頷いた。
「頭の中の情報では、【手投げ爆弾】って名称になっている」
「手榴弾ということですか?」
セトくんの確認に、ネギシくんは困り顔になる。
「えーと——手榴弾って聞いてパッと頭に浮かぶのとは違ってゴツゴツしてない。野球のボールくらいの大きさの球体で——だけど手榴弾みたいなレバーとピンは付いている。
ピンを抜いて投げれば爆発する。ピンを抜いても、レバーを抑えていれば爆発はしないらしい」
「実際はどうなのかは知りませんが、使用法はフィクションに出てくる手榴弾と同じようですね。
現実の——現世の手榴弾とは性能や性質が違うから、異なる名称にしたとかでしょうか」
「爆弾って確かに強力そうだけど——どれくらいの爆発力があるのかしら?」
ヒョウコさんが尋ねる。
頭の中に情報が入っているから、ネギシくんにはどの程度の威力なのかがわかっているはずだ。
「ええと——直径3メートルくらいにいる人間をまとめて木っ端微塵にできるみたいだ」
ヒョウコさんの目が丸くなる。すぐに戻ったけど。
「それって、チーム5人がもし固まって歩いている真ん中にでも投げ込むことができたら、まとめて吹っ飛ばせるかもしれないじゃない!!」
声が大きい。どうやら興奮しているようだ。
「多分——かなり近くに固まっていたら。それができるくらいの威力はあるみたい」
自信なさげに言うネギシくん。頭の中の情報だけで、実際に爆発させて威力を確認していないから、自分でも半信半疑なのだろう。そもそもまだ手榴弾を出してさえいないのだ。
「すごいじゃない!!」
「本当! すごーい!」
ヒョウコさんとノノは褒めそやす。
「本当にそんな威力があるんですか?」
セトくんはちょっと胡散臭く思っているとまではいかないが、懐疑的なようだった。
「そのはず——だけど」
セトくんが何事か考え込むように腕を組んだ。
「どうしたの?」
ノノは聞いた。
「ネギシくんの能力がそんな凄まじい破壊力を持っているなら、ほかの人たち——僕たちが戦うことになる20人の中にも何人か、同じくらい強力な能力を持っている人もいるんじゃないかって」
「あ」
セトくんの指摘はもっともだ。ネギシくんの能力だけ飛び抜けて強力というのは不自然だ。
「確かに」
ノノとはしゃいでいたヒョウコさんがすっと冷静になる。
「そもそも爆弾ってことは、消耗品でしょ?
まさか強力な代わりに一回こっきりしか使えないなんてことは——」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
ヒョウコさんが少し安堵したような顔になる。でもまた険しい顔になる。
「だけど? もしかして出せる個数に制限があるってこと?」
「うん。まあ、そういうことなんだ」
ヒョウコさんがため息をつく。
「超強力な分、制限があるってことね」
「でも、考えようによっては朗報では? ほかの人たちが所持している能力も無制限に強力なものはないと予想できますよ」
「そうね。エイチちゃんの言うことは一理あるわ。
で、ヨシユキちゃん。手榴弾はいくつ出せるの? まさか、一回しか使えないわけじゃないけど、二回、二個出せるだけなんてことはないでしょうね?」
「二個だけど」
ヒョウコさんが露骨にがっかりした顔になった。
「いやいや! 二個は二個だけど。一度に出せるのが二個までってだけで」
ネギシくんが慌てたように言った。
ネギシくんの話は要領を得なかったが。
それでもなんとか聞き出したところをまとめると。
1.手榴弾を一度に出せるのは二個まで。
2.手榴弾を使う——つまり爆発させてから1時間が経過すると、追加で一個出せる様になる。
まとめるほどのことでもなかったかな。
「つまり立て続けに手榴弾を使用したら、約一時間、ヨシユキちゃんは手榴弾を出せなくなるのね」
「能力がないのも同じだね。その間は何にもできないね」
ノノは軽い調子で言った。
ネギシくんがちょっとショックを受けた顔になる。
「そんなはっきり言わなくても」
「ヨシユキちゃん。確認しときたいんだけど。アナタの爆弾。アナタ以外の人が使っても同じように大爆発を起こすのね?」
「え? それは当然そうだけど」
ヒョウコさんの質問の意図がよくわからないようで、ネギシくんは戸惑いがちに答えた。
ノノも、何をわざわざ当たり前のことを聞くのだろうと思った。爆弾なんて誰が使っても同じ風に爆発するに決まっているじゃん。
ああ、違う違う。
普通のなんの変哲も無い爆弾なら誰が使っても同じだけど。ネギシくんの爆弾は超能力で出すものなのだ。
ノノのブーメランが、ノノが移動しようともノノの元に帰ってくるように。
イチズちゃんの大太刀が、イチズちゃん自身は重さを無視して振るえるように。
出した本人だけが発揮できる特別な効果の一環として、爆発が超強力になるというのも考えられるのだ。
そのことをヒョウコさんは確かめたかったのだ。
「ふーん。時間経過は必要だけど、消耗品を繰り返し出せるってところが、特別な効果の代わりってとこかしらね。誰にでも使えるのか」
「あ!」
ヒョウコさんの呟きに、ネギシくんは何かに気づいたかのような声を出す。
「まさか、俺の爆弾——取り上げるつもりじゃ無いだろうな」
ネギシくんがおそるおそる聞いた。
そっか。
誰にでも同じように使えるなら、必ずしもネギシくんが持つ必要も使う必要もないんだ。チームの誰かが投げてもいい。
「無理やり取り上げたりはしないわよ」
ヒョウコさんが優しげに微笑んだ。
「だけど、ほかの人が持つのも一つの手だと考えただけ。投げるのは別にヨシユキちゃんじゃなくてもいいんじゃないかって。でもまあ」
ヒョウコさんがチームの面々の顔を見回す。
「特に投げるのが得意って人はいなそうね。ヨシユキちゃん、アナタ、投擲っていうか投球っていうか、ボールでもなんでも投げるのに自信はあるの?」
「そりゃ坊主だから野球部なんじゃないの?」
ノノは第一印象での決めつけを口にする。
ネギシくんは苦笑いした。
「うん。まあ、そうなんだけど。確かに野球部なんだけどさ」
ノノ正解。
「ポジションは?」
セトくんが尋ねた。
「ピッチャー」
「ちょうどいいじゃない」
ヒョウコさんが言った。
「普通にヨシユキちゃんが自分で手榴弾を使うのか良さそうね」
ヒョウコさんの言葉にネギシくんは、自分の武器が取り上げられることはなさそうだとホッとしたようだった。
「ちなみに、ピッチングはどれくらい得意なの?」
「……まあまあっていうか。補欠——」
言いづらそうに言うネギシくん。
ため息をつくヒョウコさん。
「ノーコンっことはないでしょうね?」
ブルンブルンと首を振るネギシくん。
「普通くらい——普通以上には投げられる——はず」
だんだん声が小さくなっていく。
また、ため息をつくヒョウコさん。
「ちょっとその辺の石でも投げてみて」
と指示を出す。
言われた通りに手頃な石を投げるネギシくん。
野球のことはよくわからないけど、様にはなっている。
少なくともノノが投げるのとは比べものにならないほど速く遠くまで投げている。
ふむとヒョウコさん。
「コントロールも球速も問題なさそうね。いいわ。ヨシユキちゃんに任せても」
改めてホッとするネギシくん。
「任せてくれ」
「このチームの進退はヨシユキちゃん次第で大きく変わってくるわ。上手くいけば相手チームをまとめて吹っ飛ばせる。
そこまで行かなくても3人以上をふっとばすか、重傷を負わせることができれば、こっちが圧倒的に優位になる。
アタシたちの命運はヨシユキちゃんの投球にかかっているとも言える。責任重大よ」
「お、おう」
ヒョウコさんの言葉に自身なさげに返事をするネギシくん。
頼りない。大丈夫かな。
よしここは盛り立ててあげよう。
「大丈夫、大丈夫。さっき石を投げたようにやればいいんだよ。ネギシくんならできるって!」
返ってプレッシャーを与えていることにノノは気づかない。
セトくんはなんだか苦笑しているようだ。
イチズちゃんは何を考えているのか、相変わらず表情が変わらない。
「制限があるから実際に試してみられないのが難点ね。それに——」
ヒョウコさんはぶつぶつ呟きながら、何やら考え込んでいる。




