能力の教え合い(中編)
「次は僕が能力を話しましょう」
セトくんが申し出た。
「あらかじめ断っておきますけど、僕の能力は攻撃能力じゃありません」
セトくんの言葉にノノは首を傾ける。
「攻撃能力じゃない? これってバトルロイヤルってやつじゃないの? みんな攻撃のための能力をもらっているんじゃないの?」
「アタシはそうとは限らないと思っていたわ」
疑問を呈するノノに、ヒョウコさんが応える。
「この戦いがチームを組むのが前提なら、みんながみんな攻撃的なものではなくサポートに力を発揮するような能力を持たされてる人もいて不思議じゃない。
それにこの戦い——戦いっていうかサバイバル——まあ死んでいるから厳密には違うけども。とにかくさっき少し話したけども、戦わないで逃げて隠れて、漁夫の利を狙うって方法もある以上、そういう逃げたり隠れたりに向いた能力を貰っている人もいるかもしれない。まあ逃げ隠れ向き能力っていうのは、考えようによっては奇襲や不意打ちにも転用できるかもしれないけど」
「とにかく、攻撃に使えない能力も普通にあるってことだね」
「そうね。それでアナタの能力は?」
ヒョウコさんが話を促す。
「僕の能力は【探知】です」
「タンチ?」
ああ、探知か。
「ほかの子たちがいる場所がわかるってこと!?」
ヒョウコさんが食いついた。
「ええ。とはいえ距離は限られていますが」
言って、セトくんは目を瞑った。
「こうやって目を瞑っていても、みなさんの位置が把握できます。
レーダーといっていいのかなんなのか。気配を感じるというのも違いますが。
大まかな身長、体格くらいならわかります。男女の区別は難しいですね」
セトくんが目を開けた。
「言っときますけど、べつに目を閉じる必要はありません。意識するだけで使えます。
能力を使うという意識さえあれば、ほぼ常時発動したままにできるようです」
「全方向、三百六十度わかるのね? 能力の範囲内なら」
ヒョウコさんが確認する。
「そうですね」
ヒョウコさんの顔に笑みが浮かぶ。
「いい能力ね。当たりだわ。隠れている相手、待ち伏せしている相手を察知できるのは大きい」
「相手が僕の探知よりも離れた場所から攻撃できる能力を持っている場合はその限りじゃありませんが」
釘をさすように言うセトくん。
「ええ、それくらいわかっている。でもやっぱり使える能力だわ。このサバイバル、この廃墟の街のどこかにいる人たちを探し出して倒していくのを考えると、チームに索敵能力の持ち主がいるというのは断然有利になる。もちろん、ほかのチームにも何かしら索敵に向いた能力の持ち主はいてもおかしくないけど——」
「少なくとも【探知】と同一の能力はないはずですね。25人の能力は全部異なっているはずですから」
「ええ。だから【探知】という索敵に特化した能力を持つ子がほかのチームにいることはない」
ヒョウコさんは嬉しそうだった。
「評価してもらえてよかったです」
セトくんが少しホッとしたようだった。
「戦力にはならないので、がっかりされることもあるかと」
「バカね。こんな便利な能力を持っているのにがっかりする奴は頭が足りないわ」
ヒョウコさんは言った。
「で、残り2人だけど。どっちが先に話す?」
ヒョウコさんがネギシくんとイチズちゃんの顔を順に見る。
ネギシくんはためらっているし、イチズちゃんは無表情。
どっちが先に話すのか伺っている感じ。
「いいわ。ホウジョウちゃん、アナタから話して」
らちが明かないと思ったのが、ヒョウコさんが指名する。
イチズちゃんは特に嫌そうにするでもない。そもそも表情の変化がないけど。言われて素直に答える。
「オオタチ」
一瞬、なぜ某ゲームのモンスターの名前を言うのかノノは分からなかった。
それはべつにノノが悪いわけでもない。いきなりオオタチとだけ言われたら、大抵の人は戸惑うだろう。
せめてわたしの能力はオオタチです、みたいに言ってほしいものだ。
そういえばこの子は名乗る時も、「わたしは」とか先につけることなく、「ホウジョウイチズ」と姓名しか言わなかった。
「オオタチ——大きな太刀——刀ってこと?」
ヒョウコさんが眉をひそめながら確認する。
「刀と太刀は違う」
イチズちゃんが言った。抑揚のない言い方だけど、かなり強い調子で。何かこだわりがあるのだろうか。
「正確にはそうでしょうけど。刀剣っていうくくりでは同じでしょう」
「それもそう」
強い調子で主張した割に、あっさりと翻す。
よくわかんない子。マイペースというかちょっと変わっている。
「わたしがブーメランを出すみたいに、刀——じゃなくて大太刀を出せるってこと?」
ノノは確認する。
「そう」
イチズちゃんはこくんと頷いた。
そしてネギシくんの方を見た。次はあなたが話す番と言うように。
「見せてくれないの?」
不満を漏らすと、イチズちゃんの表情がわずかに変化した。ん? て感じに。
「見せるの?」
と聞き返してくる。
「そりゃ、一応味方の能力くらいこの目で確認しときたいからね」
ヒョウコさんが言う。
「そう」
イチズちゃんは無表情なままに右手を伸ばす。親指が上に来る形で。軽く開いて。
突然、むき出しの大きな刀——じゃなくて太刀が切先を上に向けてイチズちゃんの手元に出現した。柄が掌の位置になるように。
バッとイチズちゃんは大太刀を掴む。
「見せた」
「ええと、本当に大太刀というだけあって大きいけれども。重くないの? それ」
ヒョウコさんが尋ねる。
「重くない」
イチズちゃんが答える。
「そういう力」
「重さを感じないのが?」
「感じないというか影響を受けない。大太刀を出したボクだけは」
いま、ボクって言った? ボクっ娘ってやつ? 初めて会った。
イチズちゃんは軽く太刀を振るってみせた。
「ボクには大太刀が竹刀のように軽いけど、ほかの人にとっては違うらしい。見た目通りに重たい」
ちょっとわかりにくい。
「うーん、イチズちゃんが持つときだけ軽くなるっていうこと?」
「違うと思う。あくまでも太刀の重量は変わらない。だけど、ボクはその重量がないかのように振るえる」
うーん、やはりぴんとこない。
「とにかく、ホウジョウちゃんはその刀——太刀を何の問題もなく軽々と振るえるってことなのね」
ヒョウコさんが総括する。
重さがどうのこうの考えるよりも、ヒョウコさんが言い表したように、とにかくイチズちゃんは大太刀を振り回せるという理解でいいのだろう。
「そう」
ヒョウコさんは困ったような顔になる。
「それを振り回せるのはいいけど、それでアナタ戦えるの?」
火炎や遠距離攻撃のブーメランと違って、太刀だともっと直接的な戦闘になる。相手に斬りかからないと行けない。
「剣は少し嗜んでいる」
剣道をやっているということだろうか。
腕には覚えあり、ということなのか。
嗜むといえば、実はノノは薙刀を学んでいる。
これに関してノノははっきりと腕に自信がある。同年代の中でかなりのものだと自負している。
もっとも、薙刀は剣道ほどには一般的でないので、比較対象が少ないのだが。
というより、試合などには出たことない。
祖母から教わっただけである。
それでも有段者の祖母からお褒めに預かるほどの実力はある。
基本ノノに甘い祖母だが、薙刀に関しては相当に厳しいので、その評価に孫への欲目は入っていないだろう。
それを考えると、ブーメランよりも、薙刀を出す能力の方がが良かったかもしれない。
本物の刃がついた薙刀。
イチズちゃんのように重さを気にせず振るえる?
いや、それよりも持ち手がぐーんと伸びるとかそういうのがいいかもしれない。
なんて妄想をしても、実際にノノに与えられたのはブーメランなのだから意味がない。
「まあ、ある意味バランスがいいのかもね」
ヒョウコさんが自分を納得させるようにつぶやく。
遠距離攻撃のノノのブーメラン、中距離攻撃のヒョウコさんの火炎、近距離攻撃のイチズちゃんの大太刀。
確かに遠近中距離と揃ってバランスは取れているかも。
まあ、中距離というにはヒョウコさんの炎の射程は短いようだけど。
「まあ、一方的に相手を攻撃できるような能力ばかりでも困るものね」
「相手側に遠距離攻撃の能力の持ち主が揃っていたら対処に困るということですね」
セトくんが確認する。
「ええ。控えめに考えても、モモセちゃくんくらいの射程、もしくはそれより少し長いくらいの距離から攻撃できる能力の持ち主は各チーム最低1人くらいはいると考えておいたほうがいいかもね。
先制を取られたら厄介よ。その辺はエイチちゃんの【探知】に期待したいわね」
「あまり、期待されても。僕の探知の外から攻撃してこれる人もいるかもしれませんし」
「まあね。その辺りには注意しないといけないわ。
この戦い、基本的に標的を先に見つけて先制攻撃を仕掛けられた側が圧倒的に有利になるわ。
だけど【探知】があるなら、たとえ敵に先に見つかっていても、敵の能力が【探知】の範囲よりも短ければ、奇襲を受けるのを回避できる。
さらに言うと、モモセちゃんのブーメランの射程が大体【探知】と同じ程度だから、むしろこちらが、逆に先んじて攻撃できうる。相手の意表をつきうる」
「そう上手くいくといいんですか」
弱気な発言のセトくん。
「しゃんとしなさい!」
ヒョウコさんがピシャリと言う。
「アナタの探知が重要なんだから」
「善処します」
「で、最後に残ったネギシちゃん。アナタの能力は?」
ネギシくんに話を振るヒョウコさん。
「ええと。見せた方がいいんだよな?」
おずおずと聞くネギシくん。
「そりゃ見ておきたいわよ。エイチちゃんのように見せられるものじゃないならともかく」
「——そうだよな」
「なになに、へんな能力なの?」
ノノは好奇心たっぷりに聞く。人に見せたくないような能力って、どんなのだろう?
「いや、変っていうわけじゃないけど」
「はっきりしないわね」とヒョウコさん。
「物を出す能力なんだけど」
「わたしやイチズちゃんと同じだね」
「そうだけど。基本出し入れはできないみたいで」
エイチくんが眉をひそめる。
「そうなんですか? 物を出す能力はみんな出し入れ自由かと思っていたんですが」
ノノのブーメランとイチズちゃんの大太刀がそうだからそう考えたのだろう。
確かに同様に武器を出す能力で、どちらも消すこともできるという特徴を持っているのだから、ほかの武器を出す能力もそうだろうと言う風に考えることができる。こういうのをなんて言うんだったかな? 似たような複数の例から推測を立てること。ああ、そうだ、類推だ。
でもまあ、類推するのに例が二つしかないのでは、そりゃ的確な推測はできない。セトくんの考えが当たらないのも当然か。
「出したがらないのは、持ち運びに不便なものだからですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。ポケットに入るくらいの大きさのはず」
「煮え切らないわね」
ヒョウコさんがイラついたように言う。
「結局なんなのアナタの能力は? しょぼいから言いたくないの? べつにしょぼいからって今更仲間はずれにはしないわよ」
「いや、しょぼいっていうか——むしろ強力なんだよ」
「じゃあ、言いなさいよ」
ネギシくんはためらいがちにいった。
「オレの能力は——爆弾を出すこと」




