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第2話 三つのお知らせ

 不思議な響きの声だった。

 女の人か男の人かもわからない。

 なんか、人間っぽくない気もする。

 人間じゃないとしたらなんだろう?

 合成音声をもう少し自然にした感じ? ロボットが喋っている感じ?

 それよりも、この声はなぜ空から聞こえてくるんだろう?

 雲の中に飛行船か何か浮かんでいるんだろうか? そこから誰かがスピーカーか何かで語りかけてきている?

 声は、ここにいる25人にお知らせがあると言う。

 25人? 5人じゃなくて?

 一瞬そう思ったけど、流石に25人と5人を聞き間違えないか。

 この灰色の街のどこかに、あと20人がいるのだろう。

 お知らせがあるなら、25人まとめて集めて、空からじゃなくて直接姿を見せて話してくれればいいのに。

 それとも散らばっているから、みんなに聞こえるように空から語りかけているのか?

 そもそもこの声は何者?

 声によれば、お知らせは三つ。

 たいへん残念なお知らせ。

 たいへん嬉しいお知らせ。

 少し残念なお知らせ。

 とても残念なものと、とても嬉しいもので相殺されるなら、少し残念なお知らせが残る。残念の割合が多いということになるのかな? そんな単純な話ではないかな?

 それにしても何だろう。

 ギャル女子の顔がこわばっているのに気づいた。

 まあ、とても残念なお知らせがあると聞いたら、そうもなるかな?

 

 ここにいる中学三年生25名は亡くなってしまっている。

 それが一つ目のたいへん残念な知らせだった。

 マジで? 

 うっそー!

 最初はそう思ったけれど、それならノノの疑問に説明がつく。事故が起こったのに無傷な理由。

 ここにいるノノは魂だけの存在で、幽霊みたいなものなら、生きている時についた傷、死んでしまった原因の傷がなくても不思議はない。

 あ、でも、服はどうなっているのかな?

 なんで生前と同じ服を着ているんだろう? 

 日本の伝統的というか、典型的な幽霊だと、白い服を着ているけれど。

 あれは死装束だからか。そのイメージで幽霊を描くときに着せられているだけかな? あまりこの場においては関係ないか。

 本当に自分は死んだのか?

 根本的な疑問が思い浮かぶ。

 ギャル女子とメガネ少年は、その可能性にすでに行き当たっていたようだ。驚いている感じではなくて、自分の嫌な想像が当たっていたというリアクションだ。

 野球少年はむちゃくちゃ動揺している。

 おかっぱの子は、無表情に顔色ひとつ変えずに空を見つめている。声の出所をなんとか突き止めようとしているように見えなくもない。

 あんまり、感情が顔に出ない子なのかな? あるいは死ぬこと自体、あの子にとっては驚くに値しないことなのか? 不思議ちゃんというやつだろうか?

 おかっぱの子の心境より、死んだという話が事実なのかを気にしよう。

 証拠はない。

 でも、直感は本当だと告げている。

 なんでだろう。苦痛の記憶、それにこの場所の非実在感、この世のものと思えない感じがそう思わせるのか。

 声の言うことが真実なら、ここはこの世とは思えない場所ではなくて、この世ではない場所そのものになるのだが。

 あとなんか体の感じ?

 別にいつもと違わないような気もするけれども、何かが違うような。

 あ。

 メガネ君が自分の手首を触っている。脈を取っているのだ。

 なるほど。死んでいて幽霊みたいなものなら脈はない。

 ノノも試してみる。——よくわからない。脈を測る場所が違うのか。脈がないのか。

 

 二つ目のお知らせ、たいへん嬉しいお知らせというのは、なんとなんと、びっくり仰天。生き返らせてもらえるチャンスをくれるというものだった。

 ええーー⁉︎ 本当に?

 いいの? ラッキー!!

 確信が持てていなかったはずなのに、生き返らせてもらえると聞いたら、自分は死んでいると受け入れてしまっていた。生き返らせるということは死んでいるからこそだという理屈がノノの中で通っていた。

 本当にこれは嬉しいお知らせだ。

 ほかの4人の顔を見回す。

 野球少年は混乱しているというかお知らせを飲み込めてないようだ。

 だけど、彼を除いた3人がまるで嬉しそうではないのが不思議だ。

 おかっぱの子は変わらず無表情だが。

 空からの声の響きをロボットが発しているみたいと思いもしたけど、この子もロボットというかアンドロイドっぽさがある。

 それはそれとして。

 なんで、喜ばないんだろう?

 みんな嬉しくないのかな?

 生き返らせてもらえるのに。

 ああ。

 そういえばノノもさっき、たいへん残念なお知らせとたいへん嬉しいお知らせで相殺されるなら、プラスマイナスゼロではないかという風に考えたんだった。

 生き返る前に死んじゃっているのだ。

 死んで生き返ったところで、死ななかったのと変わらない。だから、喜ばないのか。

 納得しかけてそうじゃないと気づいた。

 死んじゃったけど生き返られる。たいへん残念なお知らせとたいへん嬉しい知らせで差し引きゼロになっても、少し残念なお知らせが残っている。だから合わせれば残念の方が多いとも考えたのだ。

 それにあくまでも生き返るチャンスをもらえるという話なのだ。

 

 生き返ることができるのは、25人のうち5人だけ。

 それが少し残念なお知らせだった。 

 

 ノノは少しばかり唖然とした。

 野球少年は思い切り唖然としている。

 生き返ることができるのは、25人いるうちの5人だけ。

 5人しか生き返られないの?

 それって少し残念なお知らせ?

 だいぶ残念じゃないかな?

 でも、まあ生き返らせてもらえるチャンスがあるだけいいのかな?

 チャンスがもらえるだけで特別な話だ。

 全員ではなくても、生き返ることができる人がいるだけで御の字だ。

 御の字って、こういう使い方で合っているんだっけ。

 だめだなあ。受験生なのに。日本語くらいもっとよく知っておかないと。

 御の字が入試に出そうな言葉かといえば、そうでもないかもしれないけれど。

 まあ、もし出ても、漠然といい感じの状況に使う言葉くらいの理解でも大丈夫だよね。

 あ、受験の心配よりもまずは、生き返ることができるかどうかの心配をしなくちゃ。

 生き返れないのなら、受験のことを気にしたって意味ないもの。

 でも、5人しか生き返られないなら、25人の中から誰が生き返るのか決めなちゃいけない。

 どうやって決めるの?

 くじ引き?

 うーん。くじ運はまあまあいい方だと思うけど。

 25分の5の確率。

 確率、20%かあ。

 引き当てられるかな。

 まだどうやって生き返る人を選ぶのかわかっていないのに、くじだったらという前提で心配しても仕方がないか。

 そもそも本当に生き返らせてもらえるの?

 空からの声の言うことの真偽を確かめられるもんじゃないし、疑うだけ無駄か。

 空からの声は、生き返ることになる5人を決める方法ではなく、5人だけ生き返らせる理由を話し出した。

 ノノは生き返られるチャンスがあるだけラッキーと思っていたので、どうしてチャンスが与えられるのか、なぜ5人だけなのかは気にしていなかった。

 ノノ以外の4人はそうでもなかったみたいで、空からの声の話に熱心に耳を傾けている様子だ。

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