第19話 2人きり
「ここにいても仕方がないので移動しましょう」
セトくんはそう提案した。
川辺はちょっと見通しが良すぎて、誰かに見つかってしまう恐れがある。
もう少し障害物となる建物が多い場所に移動することにした。
ただ、あんまり狭い場所だとノノのブーメランが使いにくい。だから、それなりに幅の広い道を通ることになる。
「これから、どうしようか?」
セトくんに今度ははっきりと声に出して尋ねる。
「僕たち2人きりでは流石にどうしようも。僕は戦えませんし。モモセさんのブーメランだけじゃ。さっきは相手が1人だったから何とか退けることができたようなもので。
——ああ、そうだ」
セトくんが何かを思い出したような声を上げた。
セトくんはノノに向き直る。
「先程はありがとうございました。モモセさんの奮戦がなければどうなっていたことか」
かしこまってお礼を言われた。どうやら思い出したのはノノに感謝を述べていなかったことらしい。
こんなに丁寧にお礼を言われると少し照れる。
ノノは両手を胸の前でパタパタと振りながら言った。
「いいよ。そんなにかしこまらなくても。わたしたちチームなんだし」
「チーム——」
ノノの言葉にセトくんは呟きを返した。
そっか。もうノノとセトくん2人だけなんだ。これじゃチームとはいえない。何人からチームというかなんて決まりがあるのかは知らないけど、最低でも3人は必要というのがノノの見解だ。
「カサイさんが言っていたように仲間になってくれる人を探しましょう」
セトくんは重々しく言った。
「僕たちが2人になってしまったことで、相手が1人である必要はなくなりました」
「そうだよね。3人以下で行動している人たちでいいんだ」
都合よく1人きりで行動している人を見つけだすよりは大幅に難易度が下がる。
「相手が3人とか2人とかの場合、仲間になってもらうというよりは仲間にしてもらう形になるかもしれませんが——」
セトくんが口を噤んでしまつた。
「どうしたの?」
「いえ、たとえ3人以下のところでも仲間に加えてもらえるかどうか、仲間になってくれるかどうか。話しかけたら戦いになるかもしれません」
「でも、どうせなら人数が多い方が有利だよね?」
「それはそうです。だけど先程まさに1人でいる人に襲われたわけですし」
そうだ。その通りだ。そのことはノノも漠然と気になっていた。
「わたしたち4人だったんだから、仲間に入れて欲しいっていえばよかったんじゃないの? あの人」
そう。それが最善のはず。仕掛けていた罠にヒョウコさんが引っかかったからといって、罠を発動させる必要なんてなかったはず。
セトくんは困ったような悩ましげなような表情を浮かべた。
「あのロープの人は仲間を作る気がないんじゃないでしょうか?」
「どうして?」
1人で戦おうなんて無茶な話だ。仲間と逸れたとか失って1人になったならわかるけど。
初めチームを作ることを思いつかず性急に動き出したのだとしても、ノノたちを見ればその発想に思い至らないはずがない。
だからあのロープの男の子が、ノノたちの仲間にしてもらう気がなかったことは確かだ。
「他人を信用できないのか、それともほかになにか理由あってのことなのか」
本当のところはわかりませんと首を振るセトくん。
「とにかく今わたしたちがやるべきことは仲間になってくれる人を探すことだね」
「ええ。ただし向こうが襲ってくることも考えられる。それだけは念頭に置いて下さい」
「わかった」
セトくんの念押しに対してノノは頷いた。
「ああ、べつに仲間を探すことに固執する必要もないんだ。隠れるという手もあります。厳密には隠れて逃げて隠れて逃げての繰り返しになるでしょうけど。僕の【探知】なら、隠れていても人が来ればわかりますし」
なるほど。それも一つの手だ。無理して仲間を探すよりも、どこかに潜んで危なそうな時は逃げればいい。
でもそれをやるなら、セトくんにしてみれば1人の方が都合がいいんじゃないだろうか?
ノノと一緒よりも1人の方が潜みやすいし、こっそり逃げる時も見つかりにくいんじゃないか?
セトくんがノノといるメリットはあるのだろうか?
一度チームを組んだ身としての情けだろうか。
それとも、いざという時、見つかってしまった時はノノに戦ってもらう算段なのだろうか? ロープの男の子の時みたいに。
セトくんがそのつもりなら、ノノとしても遠慮することはない。ギブアンドテイクだ。
しかし、気がかりなことがある。川の底に沈んでしまったヒョウコさんがチームを組む際に話していた。隠れていても時間切れのリスクがある。
だから、ヒョウコさんは積極的に動く方針をとったのだろう。
ネギシくんの超強力な爆弾があったから強気になっていたというのもあると思うけど。
セトくんの探知を使って様子見をすることもできたはずだけど、それはしなかった。
性格もあるとは思うけども、やっぱり時間切れを1番恐れていたのではないか。
だから、ノノとしては隠れて逃げてというのは気が進まない。
仲間を募って、積極的に動いた方がいいのではないか?
でも、人を探し回るのにもリスクが伴う。
「じゃあ、折衷案」
折衷案なんて言葉、知ってはいてもこれまで使ったことがあったっけ、使い方合ってるんだろうかなんて思いいつ口にした。
「隠れながら仲間を探そう。隠れて、セトくんの探知に3人以下の人たちが引っかかったら様子を伺って、良さそうなら声をかける」
名案とまでは行かなくても、ノノの思いつきとしては良さそうな気がした。
頭の回るヒョウコさんは提案しなかった作戦だけど、 ヒョウコさんがいた時とは状況が違う。状況というよりは人数が。
ヒョウコさんが仲間探しを決めた時は4人だった。求める仲間は1人。したがって1人で行動している人を見つける必要があった。
1人の人は、ほかのチームの格好の的になる可能性と、ほかの4人以下のところに先に加わってしまう恐れがある。
だから、セトくんの探知を使って待つ作戦ではなくて、積極的に動き回ることを選んだのではないか。
もし、今ここにいるのがノノではなくてヒョウコさんだったら。ヒョウコさんとセトくんの2人になっていたら。ヒョウコさんもノノと同じ作戦を採択したんじゃないか。
なんだか、そう思ったらそう思えてきた。
ヒョウコさんがやりそうな作戦なら、まあまあいい感じだろう。
自信が出てきた。
セトくんも頷き、同意を示してくれた。
「そうですね。それがいいかもしれません。
ただ、相手が3人組だった場合、できることなら接触は避けたいですね。接触を決めるにしても慎重になった方がいい。相手がこちらと組む気がないとなったら、どうしようもなくなる可能性が高い」
「そっか。戦えるのわたしだけだもんね」
「できれば2人。それならモモセさんのブーメランで牽制してなんとか逃げられるかもしれませんし。相手も2人では心細いと仲間になってくれる公算も高いことが期待できます。
まあ、しのごの言っている場合でも、選んでいる場合でもないかもしれませんが」
「でも、ちょっとくらい慎重になるのも仕方ないんじゃない? ロープの人のこともあるし」
1人で行動する、仲間を作らない決めているわけじゃなくても、信用できると判断した人としか組みたくないという人たちはいるのかもしれない。
思い返してみれば、イチズちゃんがそうだったのだろう。
最初、黙ってそそくさとノノたちから離れようとしていたのは、ノノたちと組むのが気が進まなかったから。
それでも、チームに入ってはくれたけど。
ノノたちを置いていってしまった。
ネギシくんが返り討ちに遭って、ヒョウコさんが窮地に陥って、ノノたちに見切りをつけたのかもしれない。
イチズちゃんは1人になってどうするつもりなのだろうか。
もっと頼り甲斐がありそうで、信用できそうな人を探して手を取り合うのだろうか?
それとも単独行動を取り続けるのだろうか。1人で戦うのだろうか。あのロープの男の子みたいに。
何を考えているのかよくわからない子だったけど、結局どこまでいってもその真意は計りかねる。
確かなのは、ノノたちと行動を共にするのを内心では快く思っていなかったということ。
そうでなければ、あっさりとノノたちを見捨てるような真似はしない。
イチズちゃんのことはこれ以上考えても仕方がない。
またどこかで再会することはあるかもしれないけど。その時は敵同士だろう。
イチズちゃんも、ノノたちとまた手を取り合おうとは考えてないだろう。
ノノは別にそれで構わない。戦うことになったら戦える。
でも、イチズちゃんがすぐに逃げたのは、ロープの男の子に仲間がいることを警戒してのことだったのかも。それなら、ヒョウコさんが罠にかかった時点で形成不利と判断して逃走してもおかしくないんじゃないかな?
まあ、もしイチズちゃんがちゃんとノノたちを置いて逃げ出したことを謝罪した上で、また仲間に入れてと言うのなら許してあげよう。
セトくんはかなり温和だし、ネギシくんほどではないにしろ押しに強い方ではなそうだし、冷静に合理的に物事を考える傾向があると思うし、なし崩し的というか、その方がいいと判断して、普通にまたイチズちゃんと手を取り合うのではないか。
だけどもしかしたら、顔に出さないだけでむちゃくちゃ怒っているかもしれないから、今の時点でイチズちゃんをまた仲間に加える可能性に関しては話さないでおこう。
ノノはマイペースで空気をあまり読まないし、思ったことを率直に口に出す方だけど、それでも藪をつついて蛇を出すような真似はできれば避けたいとくらいは考える。




