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25分の1の——ノノ  作者: シンサク


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第17話 端へ

 

 向かう先は、エイチくんの提案が採用された。

「できるだけまっすぐ進んでみませんか? この廃墟の街の端がどうなっているのか確かめてみたいんです」

 メンバーを補充するにしても、どこか探す当てがあるわけでもないという、やや消極的理由ではあるがヒョウコさんは承知した。

 闇雲に歩き回っていても仕方がないし。同じように考えている子を見つけられるかもしれない。

 逆に見つけられる可能性だってあるのだが、そこは探知に加えて、皆で周辺警戒を怠らないようにするしかないとのこと。 

「でも、都合よく1人の人がいるのかな? 1人よりもチームを組んだ方がいいんだしさ」

 灰色の世界の端を目指して歩き始めてから、ノノは疑問を呈した。

「忘れていない? ヨシユキちゃんの爆弾でバラバラになったチームがあったことを」

 ヒョウコさんは空を見上げた。

 ノノもつられて空を見る。

 残り人数のカウントは19。ネギシくんが消えたときから変動していない。

「少なくとも、あのチームの1人は残っているわ。2人か3人かもしれないけど」

 バラバラになったチームのうち、2人の最後を確認している。うち1人はヒョウコさんが燃やしたのだ。

「残った仲間同士で、合流できたってことも考えられるんだけど。単独行動を取る羽目に陥っちゃったんだから、運良く難を逃れた1人以外は全滅したって可能性は低くないと思うのよね。まあ、そうだしても、その1人がほかのチームに入れてもらっていることもないとはいえないけども」

「そういえば、さっきのチームは4人だったよね? 1人はやられちゃったのかな? それとも仲間にならないで1人で行っちゃった人がいたってことかな? どっちだろう?」

「モモセちゃん、もう一つの可能性を忘れていない?」

「ほかになんかあるの?」

「始まってすぐに1人減ったことのアタシの見解を話したでしょう?」

 なんだっけ。

 ああ、思い出した。

「チームに入らない人はその場でリタイアしてもらった方がいいって考えて、そうした人がいるかもしれないって話?」

「そうよ。あのチームがそうって可能性はあるわ。

 いえ、どこのチームが最初のリタイア者を出した情け容赦のない冷徹な判断をできる子がいるのかは、今となってはわかりようがないわ」

「そっかぁ」

「まあ、最初に見つけた5人のところくらいかしら。その可能性がないのは。開始してそんな時間も経ってないのに、4人でスタートしたところに都合よく1人で行動を始めた人が加わるなんてことはそうそう起こらないでしょう」

「まあ、そうだよね。ん?」

「何よ?」

「うーん。ヒョウコさんさっき、あのバラバラになったチームの誰かを仲間にできたらみたいに言ってなかった?」

「もしもまだ1人でいるところを見つけられたならね」

「でもさ、わたしたちその誰かのことを一度襲っているわけじゃない? それなのに仲間にできるの?」

「実際に攻撃したのはヨシユキちゃんよ。ヨシユキちゃんの爆弾。そのヨシユキちゃんはもういない。

 アタシたちは向こうには顔を知られていないし。爆弾がない以上、自分たちを攻撃してきた相手とアタシたちを結びつけられない。疑惑を抱かれるようなことがあっても断定しようがない」

「黙っているってこと?」

「そうよ。アタシたちの仲間にしてあげることで、生き返られるんなら向こうだってお得なはずよ。嘘は嫌い? アタシも好きじゃない。でも嘘をつくんじゃなくて黙っているのよ。黙っているのなら嘘じゃない」

「うーん。いいんじゃないかな?」

 セトくんは気が進まない感じでもあるが、特に反対はしなかった。

 イチズちゃんも。何を考えているかはわからないけど、反対意見は言わない。

「ま、ほかにすんなりと仲間に入れられそうな子が見つかればいいんだけど」

 ヒョウコさんがそう言ったあとしばらくの間、ノノたちは黙々と進行した。この世界の端を目指して。

「本当に端があるのかな?」

 ノノはセトくんに対して素朴な疑問を述べた。

 セトくんは肩をすくめる。

「ないということはないと思いますが。時間制限があるのに果てしなく広かったら困ります」

「だよねえ。じゃあ、端はどうなってるんだろう? 断崖絶壁? もしかしたら見えない壁みたいなのがあってそれ以上進めなくなるとか?」

 思いつきで言ったのだが、ありそうだ。半透明だけど壁を出現させる能力があったのだ。戦いのフィールドを透明の壁でぐるりと囲まれていても不思議ではない。

「それらも可能性ではあるのですが」

「何かほかにあるの?」

「川があるんじゃないかと?」

「川?」

「空からの声が言っていたでしょう。川に落ちたら即リタイアだって」

「ああ、言ってたねえ」

 すっかり忘れていた。川なんてこれまで全然見かけなかったから。

「この場所はもしかしたら、とてつもなく大きな川の中にある浮島とか中洲のようなものなんじゃないかって」

「ふうん?」

「知りませんか? 生者の世界と死者の世界の間に流れる川。三途の川」

「ああ。死にかけた人が見るっていうやつ。川の向こうでおばあちゃんだかおじいちゃんだが手を振っているんだよね、こっちに来るなって」

「そういう話も聞きます。臨死体験というやつですね。僕らは臨死や瀕死どころか明確に死んでいるという話ですが。死者が生き返りをかけて戦う場所としてはふさわしいと思いません?」

「ううん? ま、そんな気もするかな」

「アナタたち、よくそんなに呑気に話していられるわね」

 ノノとセトくんの会話にそれまで黙っていたヒョウコさんが口を挟んできた。

「エイチちゃんの仮説は面白いわよ。でもここがどこかが重要? 

 言っとくけど端を目指しているのは、今のうちに確かめておいた方がいいと思ったからよ? モモセちゃんのいうような透明の壁とかがあったりして、あとでほかのチームから逃げている時にぶつかってパニックになるようなことを避けるためよ。端がどうなっていようと基本同じ」

「カサイさんの言っていることはわかりますが。僕としてはこの世界がどういう場所なのか気になるんですよね。知的好奇心が疼くっていうか」

「そんな場合じゃないでしょ。何かアナタもモモセちゃんも必死さに欠けるっていうか。生き返りにあんまり執着していないっていうか。どうしてそんな風でいられるの?」

「そんなことを言われても。すでに一度死んじゃっているわけですし」

「死生観、変わるよね」

 ヒョウコさんは呆れと怒りが入り混じっているような顔をしたが事実だ。口に出すまでそんなことを考えてはいなかったけど。

 死んでしまったのに生き返られるチャンスが貰えてラッキーくらいには考えていた。逆に言えば、それくらいしか考えていなかった。

 よくよく考えなおしてみれば、生き返るためにもっとがっついてもおかしくないのだ。ヒョウコさんみたいに。

 悲劇的な事故によってこんなことになっているのだから、もっと悲壮感を持っていてもおかしくない。

 これが、死んで生き返りの権利を貰う戦いではなくて、生きていて死なないために無理矢理戦わされているなら、ノノもセトくんももっと違うリアクションを見せていただろうヒョウコさんの言うように必死になっていた。

 それは、死への恐怖心を抱くがゆえの反応だろう。

 死への恐怖心——すでに死んでいるのに抱きようがない。死んだ後もこうして存在していられるのがわかったのだから、死をそう恐れる必要がなくなったというか。

 その考えをヒョウコさんに伝えた。

「そりゃアタシたち、こうして死後の世界の一端みたいなものを垣間見てはいるけどさ。ここでリタイアして生き返られなかったあと、どうなるかわかんないでしょ?」

 ヒョウコさんはちょっと緊張したように言った。

「この後——天国に行くんじゃないかな?」

 それが妥当だと思う。

「——そうとは限らないでしょ」

「地獄」

 ヒョウコさんの肩がビクっとした。

 ヒョウコさんもセトくんもノノも発言者の顔を見る。地獄と呟いたのは言うまでもなくイチズちゃんだった。

「ここでリタイアしたら、そのあと地獄に落とされるかもしれない。カサイさんはそう考えているの?  地獄が怖いの? だからそんなに一生懸命生き返りを目指すの? 地獄に落とされるような覚えがあるの?」

 無表情のままイチズちゃんは抑揚の乏しい喋り方で、ヒョウコさんを淡々と問い詰める。

 ノノは目を丸くする。

「え? そうなの? ヒョウコさん」

 ヒョウコさんは地獄に落とされるような悪い子ちゃんなのだろうか?

「まさかあ。そんなわけないでしょ」

 ヒョウコさんは目を逸らして言った。

 イチズちゃんもそれほど興味があったわけではないのか、「ふうん」と言ってから再び口を閉ざしてしまった。関心はまた空のカウントの方に戻った。

 あんまり積極的に動こうとはしないけど、残り人数をやたらに気にするのは、彼女自身の生き返りへの強い思いの表れだろうか。

 さっきの発言はふと思いついたから言ってみただけ程度のものかもしれない。

 地獄か。

 ノノは自分が地獄に落とされるような罪を犯した覚えはない。

 落ちるとしても、ちょっとしたいたずらをした程度の者が落ちる軽い罰を受けるような地獄なのではないか。

 ちょっとした処罰の後、天国に行かせてもらえんじゃないかな?

 それとも、生まれ変わるのだろうか?

 生まれ変わってもまた人間になれるのだろうか。

 たとえ人間に生まれ変われたとしても、ここでそのことについて気にしているノノという存在、人格は消えるわけで——

 あんまり深く考えたくない話だった。

 ええい。リタイア後どうなるかはそうなった時にわかることだ。今から気にしていても仕方がない。

 生き返りに強く執着しているわけではないけど、生き返らなくてもいいと思っているわけでもない。

 生き返れないことが決まったらその時はその時だが、今は生き返りを目指そう。

 そのためには、みんなで協力し合わないといけないし、色々考えてくれているヒョウコさんの指示に従うのが最善だろう。

 もしヒョウコさんの発案に問題点や納得できない点があったら、その時はズバズバ言えばいい。ヒョウコさんはノノよりずっと頭が切れるとはいえ、抜けているところもある。唯々諾々と従うだけは避けなくちゃ。

 そんなことを考えつつ、主にセトくんと話しながら歩いた果てに——

 川が見えた。

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