第14話 打ち合わせ
索敵の末。
次のターゲットたちが見つかった。
少し離れたところから身を隠して様子を伺う。
4人組。
男女2人ずつのチーム構成。
びっくりすることに、男の子の1人の腕が六本あった。
阿修羅?
教科書に載っていた阿修羅像を思い浮かべる。あれの腕は一本一本が細かったけど、男の子の腕は一本一本普通の太さだ。
あと、阿修羅は腕が六本あるだけじゃなく顔が三つある。遠目に見る限り頭は普通だ。顔は正面に一つあるだけ。だから阿修羅じゃない。
たとえ顔が三つあったとしても、阿修羅ご本人だか御本尊だかが、この戦いに参加しているわけないが。
空からの声のような、神様か仏様か天使らしき存在がいるのだから、阿修羅が実在していてもおかしくはないけど。実際にいたところで出会う機会があるとしたら、この戦いでリタイアしたあとだろう。
いるかいないかわからない阿修羅のことはどうでもいいか。
問題は、阿修羅でもないのに腕が六本あるあの男の子が何者なのか? ということだ。
「何あれ?」
「能力に決まっているでしょ」
ノノの率直な疑問に、ヒョウコさんは素っ気なく答えた。わざわざ聞くなと言うように。
「腕が六本になる能力? 変なの」
「変というか奇妙だけど。ま、殴り合いになったら強いでしょうね」
ヒョウコさんが評する。
「手数が三倍だもんね」
「あとは投石をされてもそこそこ厄介かもね。ヨシユキちゃんのように野球部じゃなくて、スピードや狙い自体は大したことがなくても。次から次へと投げられたら」
石が雨あられと飛んでくるのかぁ。それは怖いし、痛そうだ。
「まあ、ブーメランの方が確実に射程は長いでしょうけどね。
本当に重要なのは——あの子たちの歩き方、フォーメーションね」
フォーメーション。
4人のうち、六本腕の男の子1人がほかの3人から少し離れて先行している。
残る3人はというと。
まず、女の子2人が横並びで歩いている。
1人はすごく背が低い女の子。
もう1人は背が高めの女の子。この子は遠目で見てもすごく可愛いのがわかる。なんかオーラが違う気がする。美少女オーラを発しているような。
それぞれが左右を分担して警戒しているようだ。
そして最後尾に、飛び抜けて背の高い男の子。二メートル近くありそうだ。本当に中学生だろうか。
この3人は距離的にはかなり近い位置関係にある。
「しんがりが一番危険っていうものね。運動できそうね、あのノッポちゃん。後ろを警戒しつつ女の子2人を守るナイトの役目ってところかしらね。
問題は六本腕ちゃんが、1人離れていることね」
「ネギシくんの爆弾で4人まとめて吹っ飛ばせないね。
なんで1人だけあんな離れているのかな?」
「自分で言ったでしょ? 4人まとめて吹っ飛ばせないって」
ノノの素直な疑問に、ヒョウコさんが苦々しげに答えた。
「最初に爆弾を使った時の爆音が届いてたでしょうからね。大きな爆発を引き起こす能力の存在は簡単に想定できる。
そしたら、固まって歩いていたら一網打尽にされるかもって考えつく。
それで、ひとかたまりにならないようにして歩いている」
「でも、爆発でまとめてやられるのを警戒しているなら、あの3人はもう少し離れるんじゃない? 4人ともやられるのは防げても3人やられちゃう可能性あるでしょ」
「その辺は折衷案でしょうね。ひとかたまりは論外としても。連携とかそういうのの都合もあるでしょうから。
それに攻撃は爆破だけじゃないんだから。あんまり離れちゃうとノッポちゃんが女の子2人を庇えなくなるかもしれないってのがあるかも。ノッポちゃんがチーム内でそういう役割を担っていると仮定してだけどね」
「詳細不明の爆発の能力の所有者が来た場合、3人まとまっている方が狙われる可能性は高くなるけど、それ以外での攻撃に対応しやすいようにということですね」
セトくんがまとめる。
「そうね。それに一応、必要以上に近づき過ぎないよう気をつけてるみたい。あれくらい間隔を空けてれば充分と考えているのかも。アタシたちは爆発の規模を把握しているけど、向こうは知らないわけだし。
いえ、もしかしたら爆発跡に出向いて把握しているかも。
でも、それならもっと離れるかしらね。確実に2人以上を爆発でやられないようにしたいなら。
まあ、あれくらいでも、爆発を起こす攻撃の命中精度、爆発が起きる位置によるにしろ、2人以上まとめて吹っ飛ばされる可能性は低いと判断しているのかもね。
だとしたら、その判断は実際正しいと言えるわね。あの子達をまとめて吹っ飛ばすには、目算で3人が作っている三角形の中心近くに爆弾を投げ込まないといけないからね」
ヒョウコさんが長々と語ってから、ネギシくんに顔を向けた。
「つまり、ヨシユキちゃん。アナタの制球次第ってことよ」
「やっぱ、おれがやるの?」
できればやりたくないという言い方だ。
「そりゃそうよ」
ヒョウコさんはやらせないつもりはないらしい。
「3人まとめて吹っ飛ばせるチャンスがあるならやらない手はないわ。何のための超強力爆弾よ?」
ヒョウコさんの問いかけに、ノノは手を上げて声が大きくならないように気をつけて答える。
「はい! 複数人を一度に倒すための爆弾です!」
声は小さめだが元気なノノの回答に、ヒョウコさんはちょっとダルそうに、
「そうよ」
と頷いた。
「理想は3人まとめて。できれば2人。最低でも今度こそ1人は倒してちょうだい」
目標設定をするヒョウコさん。
「1人だけにしたって、せめてもう1人負傷を負わせてほしいんだけど。だからやっぱり2人には被害を与えてほしい。もちろん3人ともなら言うことなしよ」
ヒョウコさんはノノの方を見る。
「爆撃後の行動は事前に決めた通り、アタシが判断して指示を出す。逃げるか交戦か。
なんにしてもモモセちゃんに動いてもらうことになる可能性は高いから、覚悟しといて」
「わたし? ようやくわたしの出番?」
「そう。3人まとめて吹っ飛ばせた場合、残った六本腕ちゃんを攻撃してもらいたいの」
3人倒して、残っている腕六本の男の子にブーメランを命中させられたら、ノノたちのチームの完全勝利はほとんど決まったようなものだろう。
ブーメランだけで戦闘不能に追い込むのは難しくても、ダメージさえ与えられればいい。後ろにはヒョウコさんもイチズちゃんも控えているのだから。
腕が六本あっても、攻撃可能距離は拳の届く範囲であるのに変わりない。
火炎や大太刀の方が遠くの間合いから攻撃できる。
ヒョウコさんが言ったように、投石の乱れ打ちには気をつけるべきかもしれない。けど、ブーメランで負わせたダメージ次第では、さして脅威にならないはず。
要は、ノノがブーメランを命中させられるかどうかだ。責任重大だ。
「任せて」
ノノは力強く請け負った。普段はのんびりしていても、重要な役割を任された時は張り切るタチなのだ。
「まあ、3人ともは吹っ飛ばせなかった場合、そっちの方を狙ってもらうけど」
ヒョウコさんが付け加える。
「詳細はともかく能力が判明している六本腕ちゃんはそこまで警戒しなくていい。
残った子の中に遠距離攻撃持ちがいる可能性を考えると、反撃される前に一撃入れておきたい」
ブーメランで仕留めるまではいかなくても、ダメージは与えておきたいということか。
「その場合、六本腕ちゃんはアタシとホウジョウちゃんでなんとかするわ。あとヨシユキちゃんにも石を投げてもらって。いえ、後じゃなくて先かしらね。石を投げても接近してくるなら、その時はアタシとホウジョウちゃんで。
いいえ、モモセちゃんのブーメランが外れる場合だって、攻撃を受けても反撃してくることだってありえるんだわ」
攻撃を受けても反撃してくる。その可能性もあったんだ。先制でブーメランを当てさえすればいいと思っていた。
串刺しにされてなお力尽きる前に一矢報いようとした髪の長い女の子の例もある。
ブーメランを直撃させられたからといって、反撃が来ないとは限らないのだ。
「モモセちゃんは一度ブーメランを投げたら、一時的に無防備になっちゃう。それは原則二回続けての爆弾投擲を禁じているヨシユキちゃんにも言えるけど。
そもそも、まずヨシユキちゃんが飛び出して仕掛けるんだから、反撃を受ける可能性が一番高いのはヨシユキちゃんなのよね」
「え? そんな大切なこと見落としてたの?」
ショックを受けた様子のネギシくん。
「じゃあ、おれ、前の時に反撃されててもおかしくなかったの? あの赤い光線とかで」
今更ながらに気づき、震えるネギシくん。
「見落としていたのはヨシユキちゃんだって同じでしょ」
つっけんどんに言うヒョウコさん。
リーダー、指揮官ポジションとしてはかなり大きめの落ち度だと思うけど、本人はその非を認めたくないらしい。
「自分の身の安全に関することなんだから、自分で気づきなさいよ」
手厳しい言い方だ。自分も失念していたことを責任転嫁しているようにも思える。
まあ、ヒョウコさんの言い分はわかる。チームを組んでいるとはいえ、いざという時は自分の身は自分で守らなくちゃいけない。自分の身を守るためには自分でどういう行動を取るべきか考えないといけない。
ネギシくんは考えることをほぼほぼ人任せにしていたので、反撃を受けかねない危険なポジションに自分が立たされていた単純な事実に気づかなかったのだ。
ノノも反撃の可能性は失念していたことは棚上げする。
とはいえ、ノノはアドリブにはまあまあ強い方だから、思わぬ反撃が来たところで華麗にとはいかないが、回避することはどうにかできるんじゃないかと楽観的に考える。
だけど、ネギシくんはアドリブで行動するのは不得意そうだ。いきなり反撃が来たら固まって、避けられるような攻撃も避けられなそう。
反撃の可能性があると教えられたわけだし、心構えをしておくことで対応できるんならいいんだけど。
事前にそういう可能性を頭に入れていても、とっさに反応とかできなさそうな気がする。
野球やってるのにそんなのでいいのかな? スポーツなんて思わぬ事態の連続、とっさの判断と行動の連続だろうに。
だから補欠なのかもしれない。
「反撃が怖いなら、爆弾で3人とも吹っ飛ばしちゃえばいいのよ」
ヒョウコさんの言うことはもっともだ。遠距離攻撃持ちが爆撃のターゲットになる3人の中にいても、一発で倒してしまえば反撃される心配はない。
投石の心配はあっても残るは近距離攻撃メインであろう六本腕の男の子だけ。そちらはヒョウコさんとイチズちゃんで請け負うと言ってくれているのだ。
結局、ネギシくんかやることやれば、それが彼自身の安全につながるのだ。
ネギシくん次第。ネギシくんの投球、投擲次第なのだ。
「う、うん。そうだよな」
ネギシくんも言い返すことはできず、納得を口にした。
「狙いを外した時のことを考えて、ヨシユキちゃんは3人の方を警戒してなさい。反撃が来ても回避できるように。六本腕ちゃんの方は気にしなくていいわ。
モモセちゃんは3人の方か六本腕ちゃん、アタシの指示に従って、どっちでも攻撃できるように心構えをしておいて。
アタシは爆発後の判断をしなくちゃいけないから、3人の方に注意を払わなくちゃいけない。
エイチちゃんとホウジョウちゃんは、六本腕ちゃんを警戒」
作戦会議が長めになってしまったけど、最終的にはテキパキ指示を下すヒョウコさん。なんだかんだ、リーダーとしてはこの中では一番適任だ。
「1人も倒せてないようなら即時撤退を言い渡すわ。倒せたのが1人だけの場合、残った2人の状態次第で交戦か撤退か判断する。
さあ、みんな! 心の準備はいい?」
隊長!! 作戦の要のネギシ隊員の心の準備が不十分なようです!!
なんてことは、いくら空気を読まないところのあるノノでも、これ以上ネギシくんにプレッシャーをかけないためにも口には出さなかった。




