第13話 索敵中
一定時間が経過して、ネギシくんの手榴弾の手持ちが二つに戻った。
戦闘の準備は万端に整ったと言える。
「次は外さないでよ?」
とヒョウコさんが念を押す。
「前の時はバラバラに逃げてくれたから良かったようなものの。今度襲撃した相手たちが無傷だったら、反撃してくるかもしれないんだから。
まあ、もしヨシユキちゃんがまた狙いを外したら、その時は即時撤退するんだけど。
でも、相手の対応が早くて長距離攻撃持ちもいるかもと考えると怖いものがあるわ。
だから、チームを襲う時は確実に1人は倒してほしい。できれば2人と言いたいところだけど。
まあ、1人でも味方がやられたら動揺が走るでしょうから。そこをつければ優位に交戦を進められるはず。
でもね。アタシ達は5人チームとはいえ、エイチちゃんは攻撃能力持ちじゃない。戦力には数えられない。
ヨシユキちゃんの爆弾も立て続けに2発は使いたくない。だから前にも言ったけど投石でもなんでもしてもらいたい。牽制くらいにはなるはず。
相手のチームが5人いて、そのうち4人が攻撃能力持ちで1人はサポートというアタシ達と同じ組み合わせだったとしても、爆発でやった1人がサポート能力持ちだったら? 攻撃能力持ちが4人残っていることになる。
戦闘に参加できる人数が同じなら、相手が動揺していてもアタシ達が圧倒的に有利だとは言い難い。
それを踏まえると相手が5人いた場合、やっぱり爆弾で最低2人はやってもらいたいところね」
ヒョウコさんが長々と語る。
「あと、爆弾で誰も倒せずただ逃げられたら、相手方に能力がばれちゃうって問題もあるのよ。
爆音が聞こえているだろうから、大爆発を起こすような能力があることくらい、みんな承知済みでしょうけど。
爆発の範囲とか、手で投げないといけないとか具体的なことまで知られると、対策とか練られちゃうかもしれないからね。
だから1人も倒せないっていうのは、爆弾を1発無駄遣いしただけの話じゃなくて、敵に情報を与えたことになって、アタシ達の有利な点を潰すことになりかねない。
だから、使うからには確実に絶対に1人はリタイアさせること!」
延々とネギシくんにプレッシャーをかけるようなことを言うヒョウコさん。
いいのかな? ネギシくん、プレッシャーに弱そうなのに。
ヒョウコさんとしては、発破をかけているつもりなのだろうけど。
かといって、どうすればネギシくんにうまく爆弾を投げさせることができるかなんて、ノノにはわからない。
まあ、気楽にやれというしかない。
ノノは気楽にそう考えた。
生き死にがかかっているのに、気楽になどなれるものでないのが普通かもしれないが、ノノは気楽なものだった。
ノノの中でどこか死んじゃったものは仕方がない。生き返りのチャンスが貰えただけでもラッキー! という思いがあるのかもしれなかった。
たとえ勝ち残れなくても死ぬわけではない。すでに死んでいるのだから。別に損をするわけでも被害を受けるわけではない。
厳密にはリタイアする事態になれば、痛い思いをする可能性が極めて高いのだから被害はある。
5人まで残って生き返ることができるのなら、それが理想だ。
それが無理なら、なるべくスムーズに、痛くない苦しくない形でリタイアしたいものだ。
火炎噴射や爆弾みたいに一撃必殺、相手を瞬殺できる能力ばかりじゃないようだし。
チーム外でノノが現在確認している能力は、非攻撃的な物体をすり抜ける能力と、地面から生える黒いトゲの能力、それと目から出るビーム? くらいのものだが。
できれば、あの黒いトゲで貫かれたくはない。
刺された女の子は、光になるまで十数秒くらいはかかっていたし。なんか反撃を試みていたから意識があったようだし。その間、苦痛を味わっていたことは想像に難くない。
体を大きなトゲが貫通する痛み。想像したくない。
針がちょっと指に刺さるのだって痛いのに。貫通って。刺さったところから反対側まで通るって。それもあの太いトゲが。
本当に願わくば、やられる時が来るならば、あの黒いトゲ以外でお願いしたい。
あれ以外でも、痛い思いをさせられる能力はいくつもあるんだろうけど。
ビームはどうなのかな。あれ目から照射されたあとどうなったのか見えなかったが。
直後に減ったカウントがビームの子自身の分だけだったことから考えて、狙いが逸れたか、避けられたのか。
威力的に当たったらどうなるのだろうか。
やっぱり体を貫通するのだろうか。
それでもトゲよりはよほど痛くなさそうではあるが。
だけど攻撃範囲が狭いから、急所に当たらないと瞬殺とはならないだろう。いや、それは大抵の能力がそうなのかな。
貫通力があるのなら、頭——脳みそが貫かれれば、一瞬で意識が飛んで痛くはないかな?
ビームの子がリタイアしている以上、もうあの攻撃を受ける可能性はないから考えても意味ないけど。
ま、やられる時のことばかり考えても仕方がない。
前向きに行こう。
ヒョウコさんの作戦がうまくいけば、無傷で勝ち残ることだってできるはず。
ノノは遠距離攻撃持ちだし、相手にあまり近づくなくていい分、攻撃を食らうリスクは低くなる。
ヒョウコさんも言っていたけど、ノノのブーメランよりも離れたところから攻撃できる能力があるかもしれないから油断は禁物だけど。
あのビームもどれくらいの距離まで届くのかわからないし。
あれは直線的かつ攻撃範囲が狭いから、当たりにくそうではあるが。
逆にノノの能力は大きなブーメランがくるくる回りながら飛んでいくから、攻撃範囲は広めと言える。
狙いさえ逸れなければ避け切るのは結構難しいのではないか?
その代わり、当たっても相手を一撃リタイアに追い込むことは難しいだろうけど。
頭に当たればどうだろう。頭蓋骨を砕くくらいできるだろうか。昏倒くらいさせられるかな。
まあ、ヒョウコさんはそれでも充分というか、それなら十分だと考えているのだろう。
相手がまともに動けなければ、とどめはヒョウコさんやイチズちゃんで刺せるし。
そういえば、今の所イチズちゃんは何もしていない。
自分もまだこれといって何もしていないことを棚に上げてノノはそう思った。
イチズちゃんの方を見る。
相変わらず空ばかり気にしている。
まあ、チームの基本戦術的にこの子の出番はない方がむしろいいかもしれない。
離れたところからの攻撃だけで、決着がつくならそれに越したことはない。
もっというとネギシくんの爆弾でことごとく相手を吹っ飛ばせれば、それがベストだ。
楽に決着できるならそれが一番。
戦う気がないわけではないけど、戦わずに済むならばノノとしてはそっちの方がいい。
やられる側にしたって、強大な爆発で何が起きたのかわからないうちに吹っ飛んだ方がいいだろう。
というわけで、結局ネギシくんには頑張ってもらわないといけないわけだ。
ヒョウコさんがネギシくんにプレッシャーをかけるようなことを言うのも、もっともな話だ。
というわけで、ノノも激励しておく。
「大丈夫、大丈夫。ネギシくんならやれるって」
軽く明るく言う。
「そうよ。石の時はちゃんとしっかり投げられていたんだから。爆弾だからって力み過ぎない。そりゃ重さとか持った感じとか全然違うんでしょうけど。
ボールを投げるのと変わらないつもりでいけばいいのよ。野球部なんだから」
「補欠だけどね」
余計な一言を付け加えてしまったので、ヒョウコさんに睨まれてしまった。
ぽっちゃりの子がリタイアしてから、残り人数に変化はない。
「ほかの人たち、どう言う風にしているんだろうね」
ノノがふと疑問を口にする。
「チームを組んだ人たちは僕たちと同じようなものだと思います」
セトくんが答えてくれた。
「倒すべき相手を探し回っている。自分たちが見つからないように気をつけながら、先になんとか相手を見つけて有利を取りたい。そのために周囲を警戒しつつ移動する。
最初に見つけたチームは、その辺ちょっと弱かったようですが。まあこんな状況に突然放り込まれて、適切な行動を取れるものでもないでしょうから」
「せっかく壁をすり抜けられる子がいたんだから、偵察に使えばよかったのに」
ヒョウコさんが言った。
「エイチちゃんじゃなくて、あのお団子ちゃんがうちのチームにいたら、アタシならそうしていたわ」
「ああ——なるほど。そういう使い方もあるんだ」
ヒョウコさんの発想にノノは感心した。物理的攻撃を無効にする以外は逃げる時くらいにしか使えなさそうなちょっと残念な能力だと思っていたが、そうでもないんだ。
「あとは囮とか。1人でいると見せかけて、相手をおびき出してからさっと壁の向こうに逃げるとかね」
「はぁ、色々思いつくね、ヒョウコさん」
感心するあまり、ため息が出た。
「これくらい少し頭をひねれば出てくるわよ。
ま、あんまりそういうのに向いてる子っていう印象は受けなかったけどね。気弱そうっていうか。囮とか偵察役とかをやるには度胸が足りなさそう。
ま、うちは偵察や囮を使うよりは、先に相手を発見、先制攻撃する方が適しているから。あえてやることじゃないけど」
まあ、探知があるのだから偵察をわざわざ出す必要もない。
囮は——あえてやらないとは言ったけれども、場合によってはやるのかな?
その場合、誰がやらされるのだろうか?
セトくんとネギシくんの能力はチームの要だし、そういう危険なことをヒョウコさんはやらせないと思う。
実質リーダーのヒョウコさんが囮役を買って出るとは思えないし。指揮する立場の人が囮をするのもどうかと思う。
あれ?
となると、ノノかイチズちゃんがやらされる?
囮作戦をとるような事態にならないことを祈っておこう。




