第12話 先回り
うまいこと、ぽっちゃりした子はセトくんの探知に引っかかった。
あの子が逃げ出してから、もたもたせずにすぐに行動に移ったのがよかったのだろう。
あの子の脚があんまり速くないというのもある。
加えて先のネギシくんの爆弾の爆発から逃げ出した時の疲れが抜けきっていないのもあるだろう。必死で逃げているようでいても、そこまでスピードは出ていない。その辺はすでにヒョウコさんが指摘していたことだ。
壁や障害物をすり抜けながらの直線的な逃亡なので、曲がったりくねったりで、余計な時間のロスは生じないから、単純に黒いトゲの能力を持った何者かから遠く逃げるのには最短ルートを取れてはいる。
しかし、追う側としては追いやすい。
こちらは建物などがあれば迂回せざるをえないけど。
そんな大きな建物があったり、複雑に道が入り組んでいるということはない。まっすぐ逃げている想定で追いかければ、ぽっちゃりの子の進行方向は見失わない。
ノノなら方向というか方角がわからなくなるかもしれなかったけれど、ヒョウコさんは大丈夫なようだった。
そして、セト君の探知。
それがあるので、探知範囲内に入れば、たとえ見えなくてもあの子の位置を捕捉できる。
「向こうの方にいます」
セトくんが指を指す。
指し示す先に見えるのは建物の壁ではあるが、その向こう側にはあのぽっちゃりの女の子がいるのだ。
「走るペースは相当遅いですよ」
「そう。なら先回りできそうね」
ヒョウコさんが言った。
ノノたちは走った。
足音が向こうに聞こえる事を懸念して、やや距離をあけるようにして。
そうして、一つの廃屋の前でノノたちは待ち構えることとなった。
ヒョウコさんが前に出て、ノノたち4人は後方に控える。
「来ます」
セト君が言った。
「そう」
ヒョウコさんは短く答えると、息を思いっきり吸い込んだ。
ヒョウコさんの解説によれば、火炎の強さは吐き出す息の量と勢いに比例するのだとか。その最高火力は、人一人軽く黒焦げにできるのだとか……
全力——最大級の火力で一気に勝負を決めるつもりだ。
その方があの子も苦しい思いをしなくて済むよね?
生き返るためには他者を蹴落とさなくちゃいけないにしたって、あんまり苦しい思いをして欲しくない。
そういう点で、ヒョウコさんの言ったように、ノノのブーメランでは威力不足、決定力不足なのだ。よほど相手の当たりどころが悪くない限りは一撃で倒すことは無理だ。
使わなくちゃいけない時は、使うつもりだけど。ヒョウコさんの火炎や、ネギシくんの爆弾で瞬殺できるのなら、それに越したことはない。
やられる相手にとっても。どうせやられるならば、なるべく苦痛を味わない方がいいに決まっている。
「三、二、一」
セトくんがぽっちゃりの子が壁をすり抜けてくるだろうタイミングをヒョウコさんに知らせる。
ゼロ、と言うまでなく、髪をお団子ヘアにしたぽっちゃりの子が壁から現れた。
怯えた表情で汗まみれの顔に驚きが浮かぶ。
顔の造りからして普段はきっと柔和な表情を浮かべているんだろうな、とノノは状況に似つかわしくないことをふと思った。
ヒョウコさんが息を——火炎を吹き出した。
試しに見せてもらった時の比ではない火力だ。
ぽっちゃりの女の子の全身をそっくりそのまま飲み込んでしまうほどの巨大な炎。
口をすぼめて火を噴くヒョウコさんの顔は、ひょっとこのお面を思わせた。
またも場違いなことを考えるノノ。
そういえば、ひょっとこって火男って漢字で書くんだっけ。
ひょっとこヒョウコさん。いや、ひょっとこヒョウコちゃんの方が語感がいいかな。
などとくだらないことを考えているうちに、火炎は収まった。
火炎が消えた後にあったのは黒い人型。
黒焦げになったぽっちゃりの女の子だ。
それが見えたのはほんの数瞬だけ。
すぐに光となって消えたから。
「20」
イチズちゃんが呟いた。
ノノたちも空を見上げて確認する。確認するまでもないといえばないのだが。それでも見てしまう。
「五つしかない生き返りの権利の争奪戦。早くも25分の5のリタイア者が出たわけね」
ヒョウコさんがカッコつけた感じで言った。
「脱落するのは20人なのだから、20分の5のリタイア者と言った方がいいのでは?」
セトくんが指摘する。
「細かいわね。どっちでもいいでしょう」
ムッとしたようにヒョウコさんは言った。
「ま、なんにせよ」
気を取り直したように言う。
「ヨシユキちゃんが爆弾を外した時はどうなるかと思ったけれど」
ネギシくんがちょっと縮こまる。
「まあ、なんだかんだ労せず4人がリタイアする運びになってくれたから良かったけどね」
「お団子の子のバラバラになった仲間たちが個別に撃破されたんでしょうか?」
セトくんがヒョウコさんの考えを聞く。
「さあ、それはわからないけど。
ただまあ、あの子達じゃないならないで、ラッキーよ。ほかのチームに欠員が出ているかもしれないんだから」
そっか。そういう考え方もあるのか。
「5人チームがいくつできたかはわからない。
でも、早々にリタイアした1人がいる以上、最大でも4人でしかチームを組めていないところはある。
そして、バラバラになった、結果的にヨシシユキちゃんがバラバラにした5人チームは2名リタイア。たとえ合流できたとしても3人組み。
それでそのほかのチームからリタイア者が出たのだとしたら?」
「5人チームは僕たちのところだけか、もう一つ残っているだけかもしれないということになりますね」
「そういうこと。アタシたちが人数的には優位になっているかもしれない。
まあ、誰かわからないリタイア者2人が両方ともばらけたチームの子だったとしたら、5人チームはまだ後二つ残っているかもしれないんだけど。
4人チームからリタイア者が2人出た可能性や、単独行動を選んだ子がってこともあるかもだけど。
ま、やむを得ず単独行動になっちゃったばらけたチームの子達のうち、1人か2人って可能性も低くない気はするけど」
「もしそうだったら、おれの手柄ってこと?」
ネギシくんが期待を込めた感じで聞く。
「間接的にはそうとも言えるけど。
調子に乗らないでよ、ヨシユキちゃん!
アナタがちゃんと爆弾を投げてたら、余計な手間をかけることなく、すでに19人以下になっていたはずなんだから!」
ヒョウコさんの厳しい言い方に、ネギシくんはがっくりと肩を落とした。
「まあ、何が起こるか、起こったかなんてわからないけどね。能力なんて不確定確要素があるんだし。
まあ、油断は禁物ってことよ」
ヒョウコさんはざっくりとまとめた。
「さ、行くわよ」




