第10話 襲撃〜追跡
ノノたちは隠れて様子を伺う。
5人組だ。ノノたち以外にも無事5人チームを作れたところがあったのだ。
セトくんが言っていたほどに慎重に動いているようには見えなかった。
まあ一応、辺りを警戒しながら進んではいるようだが、会話などしながら歩いているようだ。会話しながらはノノたちも同じだけど。
「いい感じに近いわね」
ヒョウコさんが言った。
5人の距離のこと。かなり固まって歩いている。
つまり、ネギシくんの爆弾を使う絶好のチャンスということ。
「うまくいけば一網打尽よ。頼んだわよ。ネギシちゃん」
ヒョウコさんがネギシくんを焚きつける。
「お、おう」
ネギシくんが答える。自信なさげだ。
爆弾はすでに出してある。出せる二発とも。
使う時に出せば良さそうなものだけど。ネギシくんが言うには、もし敵から仕掛けられた時に慌てないためだとか。
頭が真っ白になって、とっさに爆弾を出せないと困るということなのか。
パッと出せるものなのに。
頼りないなぁ。
人にはのんびり屋と言われがちなノノだって、敵襲があったらパッとブーメランを出すくらいできると思う。
ノノたちは待機して、ネギシくんだけで5人組に近づく。
全員で行こうものなら、気づかれる可能性が高くなるからというのがヒョウコさんの弁。
どちらかというと、不必要に敵に近づきたくないというのが本音かもしれない。
それに爆発の大きさは聞いていても、実際には目にしていないから怖いのかもしれない。
ノノもちょっとビクビクしている。
ネギシくんは5人組に近づき——爆弾のピンを抜き、振りかぶり投げた。
「あ」
ノノから見てもわかる。暴投だ。
5人組の中心あたりどころか、かけ離れたところに爆弾は落ち、爆発した。
大音響。轟音。
地面が揺れるほどの衝撃。
モウモウと煙が上がる。
悲鳴が重なり合う。
謎の大爆発と爆音にパニックになって、女の子が1人、また1人、男の子が1人と走り出す。出遅れた女の子の1人が逃げ出した女の子のうちの1人を追いかけて走り出す。
残った男の子も走って逃げ出す。
せっかく作った5人チーム。あえなくバラバラになっちゃったわけだ。
倒さなくちゃいけない敵だけど、ノノはちょっぴり同情した。
「何やってるの!? ネギシちゃん!」
ヒョウコさんが怒鳴る。
「絶好のチャンス、無駄にしちゃって!」
ネギシくんはビクっと肩を震わせる。
「ご、ごめん。いざ投げるとなると緊張しちゃって。だってさ、あんな爆発を起こすものを人に投げるんだぜ」
「——ヨシユキちゃんの言い分もわからないではないけど」
たしかに事前に聞いていても、ものすごい爆発にノノだってビックリ仰天した。
ネギシくんは脳内知識であらかじめその威力のほどを把握していたはず。だからこそ、投げる際にためらいを覚えるのも無理ないかもしれない。
「この場にとどまってぐちゃぐちゃ話していても仕方がないわ。お説教は移動しながら。逃げた子を追跡しましょう」
「誰を? というかどの方向に行くの?」
元5人チームはほとんどバラバラな方に逃げてしまった。
ヒョウコさんはちょっと迷ってから言った。
「女の子2人が走った方に行きましょう」
追跡といっても走って行くわけではない。
今から走っても、追いつけるかわからない、というかチームの足の速さがバラバラで、一番遅い人に合わせたら追いつけないだろう。やたらに走って体力を消耗することはない。
とはいえ、早足気味に進む。
「向こうはいつまでも全力疾走でいられるわけじゃない。どこかで止まる。どれくらいの距離まで走って逃げ続けるか。これくらいまでくれば大丈夫と思ったところで止まるか、息の続く限り走り続けるか。
それでもそんなに長い間走り続けられるものじゃないでしょう」
「でも」
と言ったのはセトくん。
「逃げた理由が理由ですからね。危機感というか生存本能というか。僕ら死んでますけど。体育の授業で走る時なんかよりずっと長く速く走り続けられるかも」
「それは言えてる」
ヒョウコさんはセトくんの意見を否定しなかった。
「でも、結局長く速く走り続けるほど、体への負担は大きくなる。アタシらの今の体は、生きている時とそんな変わらないみたいだしね。
体力を使いきったら、その後の移動はゆっくりになる。
あるいはどこかに隠れて身を休めることを考えるか。仲間と逸れて女の子2人きりなら、そうする公算は高い。そうしたらしめたもの」
「ああ、なるほど」
セトくんが何やら納得している。
「何がなるほどなの?」
ノノは意味がわからなかったので聞いた。わからないことがあったら素直に聞いておくに越したことはない。
「隠れている人相手なら僕の探知がこれ以上なく有効活用できます」
「ああ、なるほど」
ノノはセトくんと同じ言い方で納得を口にした。
「そりゃそうだよね。探知能力は隠れている相手に対して一番役にたつよね」
全方位、障害物も関係なく他者の存在を感知できる能力は、移動している相手を探すのよりも、隠れ潜んでいる相手を見つけ出すのにより力を発揮する。
「あの2人が合流できてるのかもわからないけどね。できてないならそれでいいんだけど。その方が確実に潰せる」
そう言って、ヒョウコさんはホウジョウさんに顔を向ける。
「そうそう。相手が屋内に隠れているなら、アナタに活躍してもらうことになると思うわ」
「ブーメランは狭いところじゃ使いにくいものね」
ノノは言った。
まあ、いざという時は鈍器として活用できないわけでもないが。
振り回すのに向いた形状でもないし。屋内ならばイチズちゃんの太刀の方が有用だろう。
「——キミの火炎でもよくない?」
イチズちゃんが言った。
「その辺はケースバイケースね。2人で行くのが良さそうなら行くし。外から火炎噴射であぶり出したところをって、手もあるし」
火あぶりかぁ。怖いなぁ。
「地形とか建物の構造とかにもよるわよね。その辺は出たとこ勝負ってわけじゃないけど。周囲を見て確認していく必要がある」
追跡劇というほどものでもなく。女の子2人の逃げて行った方にとりあえず進んでいる。
「基本的には万全を期したいから。仕掛けるなら、ヨシユキちゃんが爆弾を二発とも出せる状態にしときたいわよね」
進みながらも今後の作戦会議だ。
「相手が2人か1人きりならチャンスを逃すこともないけど。3人以上なら万全の状態で挑みたい。だから、ヨシユキちゃんがまた狙いを外して——」
少しトゲのある言い方だ。
ネギシくんが萎縮している。
「相手が逃げるんじゃなくて、迎え撃つ構えならば、一旦アタシたちの方が逃げましょう」
「戦略的撤退ということですね」
とセトくん。
「そう。相手が爆発の被害を受けず、無傷なようなら即撤退。
その後、ヨシユキちゃんの爆弾の所持数が2発に戻るまでの間、交戦を避ける。さっきも言ったように、たまたま運良く2人以下の相手を見つけたらその限りじゃないけど。
その時は、ヨシユキちゃんには石でも投げてもらいましょうか」
ヒョウコさんが思いつきを言う。
「投石って結構、攻撃力高いらしいですからね。合戦で投石による死者ってかなりの数がいたとか」
セトくんがうんちくを披露する。
「でも、人に向かって石を投げるっていうのは——」
ネギシくんが歯切れ悪くいう。
「アナタねぇ。もっと比べ物にならないくらい危ないものをすでに一度投げてるでしょ」
ヒョウコさんが呆れ顔になる。
「それはその——爆弾って現実感がないっていうか」
「爆弾で、ドッカーンと違って、石を投げるのは生々しいイメージが浮かぶってことだね」
ノノは言った。
「現実感がないって言うなら、この世界と能力の存在自体がそうでしょ!!」
ヒョウコさんが強めの調子でいう。
「アタシらもう死んじゃっているんだから、現世での倫理観に捉われても仕方がないでしょ! 天の声もここでのあれこれは罪にならないって言ってたでしょ!
生き返りたいならやるしかないの!」
「う、うん」
ヒョウコさんの勢いに圧倒されて頷くネギシくん。
ちなみにヒョウコさんは強い調子で言っているが、声のトーンは落としている。あんまり大声を出すと敵に気づかれてしまうからだ。多少興奮しているやうでもその辺りは冷静だ。
「でも、セトは?」
とネギシくんが言った。
「セトだって石投げるくらいはできるだろう?」
「僕は、攻撃には参加しないつもりです」
セトくんがきっぱりと言った。
「向いてませんよ。そういうの。性格的にも、腕力的にも」
「ま、仕方がないわね」
「ええー? ずるくないか?」
「エイチちゃんには周辺に気を配るって役割があるの! 交戦中にほかのチームがやってくることだってあるんだから! そいつらが攻撃してくることだって!
エイチちゃんに攻撃に参加してもらって、探知がおろそかになったら困るのよ」
ヒョウコさんが語気を強めて言う。
「不意打ち、奇襲が一番怖いんだから。
ネギシちゃんの爆弾の使用後に戦闘に突入したら、爆音の正体を確かめに誰かしら来る可能性は低くんないんだから。
あれだけの爆音、どこにいても聞こえてもおかしくない。
この世界の広さはわからないけど、無限に広がっているなんてことはないと思うし」
「戦いのフィールドの広さが限られているとしたら、端の方はどうなっているのでしょうか?」
セトくんが言った。
「それは気にならないこともないけど——今は後回しよ」




