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第16章

 氷の洞窟を出ると、夕暮れの草原が広がっていた。


 見渡す限りの緑の絨毯に、オレンジ色の夕日が美しく降り注いでいる。

 そよ風が草を揺らし、まるで緑の波がうねっているような幻想的な光景だった。

 遠くでは鳥たちがねぐらに帰る影が見え、虫の声がどこからともなく聞こえてくる。


 俺たち四人は草の上にどっと座り込んだ。


 戦いの疲れが一気に押し寄せてきて、しばらく誰も口を利かなかった。

 ただ夕日を眺めながら、穏やかな風に吹かれている。


 アルフレッドの金髪は汗で少し乱れており、シャツには氷の破片が当たった跡がついている。

 それでも彼の碧い瞳は満足そうに輝いていた。


 エリーナの銀髪も戦闘で少し崩れているが、いつもの知的な美しさは失われていない。

 魔導書を膝の上に置き、安堵の表情を浮かべている。


 ルナは獣人特有の回復力で、既にほとんど元気を取り戻していた。

 赤い尻尾をパタパタと振りながら、楽しそうに草を摘んでいる。


「蒼真、さっきすごかったな」


 アルフレッドが最初に口を開いた。


「レイヴェンの幻術を破るなんて、俺にはできなかった」


 エリーナも感心している。

 

「幻術に惑わされずに、自分の心を信じ抜くなんて。精神力の強さを証明したわね」

「お兄ちゃん、かっこよかった!」


 ルナが俺の方に身体を向けて、キラキラと目を輝かせる。


「氷の壁をバーンって砕いて、みんなを助けてくれて!」


 俺は照れながら頭を掻いた。


「それは、みんながいてくれたから」


 本当にそうだった。

 もし一人だったら、きっとレイヴェンの幻術に負けていただろう。

 仲間たちの声があったから、俺は自分を信じることができた。


「でも決断したのは君だ」


 アルフレッドが真剣な表情で言った。


「俺たちを信じてくれて、ありがとう」


 彼の声には、深い感謝の気持ちが込められていた。


「あの幻術の中で、俺たちの本心を疑わずにいてくれた。それがどれだけ嬉しかったか……」

「私も同じ気持ち」


 エリーナが柔らかく微笑む。


「あなたの信頼に応えられるよう、私ももっと強くなりたい。もっと頼りになる仲間になりたいの」

「俺も、もっと強くなるよ。蒼真が俺たちを信じてくれるように、俺も蒼真をもっと信頼したい」

「私たち、最強だね!」


 ルナが無邪気に笑いながら言った。


「お兄ちゃんとアルフレッドとエリーナと私! この四人がいれば、どんな敵だって怖くない!」


 俺は三人を見回した。

 みんな戦いで傷だらけになっているのに、笑顔を浮かべている。

 疲れているのに、希望に満ちた表情をしている。


 あの時、現実世界で死のうと思っていた俺に、こんな仲間ができるなんて思いもしなかった。


「俺は幸せだ」


 俺の口から、自然とその言葉が出た。


「君たちと出会えて、仲間になれて……本当に幸せだ」

「俺もだよ」


 アルフレッドが力強く頷く。


「今まで本当の友達なんていなかった。でも蒼真に出会って、本当の友情を知ることができた」

「私もよ」


 エリーナも同意する。


「知識ばかり追い求めてきた私に、人との繋がりの大切さを教えてくれた。あなたたちといると、心が本当に温かくなる」

「私も私も!」


 ルナが元気よく手を上げる。


「孤児院にいた時も楽しかったけど、お兄ちゃんたちと一緒にいる今が一番幸せ!」


 四人は自然と手を重ね合わせた。

 

 アルフレッドの大きくて温かい手。

 エリーナの繊細で優しい手。

 ルナの小さくて愛らしい手。

 そして俺の手。


 四つの手が重なった瞬間、何か特別な力が生まれたような気がした。


「最後まで一緒に戦おう」


 俺が言うと、三人の顔が真剣になった。


「魔王を倒すまで、ずっと一緒に」

 

「もちろんだ」アルフレッドが即答する。

「当然よ」エリーナも頷く。

「絶対!」ルナも力強く宣言する。


「何があっても、俺たちは離れない。困った時は支え合い、嬉しい時は一緒に喜び、悲しい時は慰め合う」


「俺たちは家族だからな」アルフレッドが微笑む。

「ずっと家族よ」エリーナも温かい笑顔を浮かべる。

「永遠に家族だよ!」ルナが嬉しそうに飛び跳ねる。


 草原に四人の笑い声が響いた。


 美しい夕日が俺たちを照らし、まるで神様が俺たちの絆を祝福してくれているようだった。

 風は心地よく、草の匂いが鼻をくすぐる。

 遠くから聞こえる鳥の鳴き声も、今日の勝利を讃えているかのようだ。


 俺は思い出したように言った。


 「そうだ、みんなに言いたいことがある」


 三人が俺の方を向く。


「俺、この世界に来る前は死のうと思ってた」


 三人の表情が少し暗くなる。


「でも今は違う。生きていてよかったって、心の底から思える」


 俺は一人一人の顔を見つめた。


「それは君たちのおかげだ。アルフレッド、君は俺に友情を教えてくれた。エリーナ、君は俺に学ぶ喜びを教えてくれた。ルナ、君は俺に家族愛を教えてくれた」


 三人の目に涙が浮かんでいる。


「だから俺は、君たちのために戦いたい。この世界のために、そして俺たちの絆のために」

「蒼真……」


 エリーナが感動したような声で呟く。


「俺たちも同じ気持ちだ。お前のために、俺たちも戦う」

「そうよ。私たちは運命共同体なの」

「お兄ちゃんのためなら、私も強くなる!」


 夕日がより一層美しく輝いて見えた。

 空には一番星が輝き始めており、夜の帳が静かに降りてきている。

 虫の声がより大きくなり、草原は夜の静寂に包まれ始めていた。


「さあ、街に戻ろうか」


 アルフレッドが立ち上がった。


「今夜は美味しいものを食べて、ゆっくり休もう」

「賛成!」


 ルナが元気よく答える。

 エリーナも微笑む。

 

「そうね。明日からまた冒険が始まるもの」


 俺たちは肩を並べて草原を歩き始めた。


 遠くに街の明かりが見えており、温かい光が俺たちを迎えてくれている。

 今夜は宿屋で美味しい食事をして、みんなで今日の冒険を振り返るのだろう。


 俺の心は満ち足りていた。

 これほど完璧な仲間たちと、これほど強い絆で結ばれているなんて、夢のようだった。


「俺たちなら、きっと魔王も倒せる」


 俺が呟くと、三人が振り返った。


「当然だろ」アルフレッドが笑う。

「私たちの力を合わせれば、不可能なことなんてないわ」エリーナも自信に満ちた表情を見せる。

「みんなで一緒なら、何でもできるよ!」ルナも元気いっぱいだ。


 夜風が俺たちを包んでいく。


 星空の下、四人の冒険者が街に向かって歩いている。

 彼らの絆は今、最強の状態に達していた。

 

 何も恐れるものはない。

 どんな困難も、きっと乗り越えられる。

 そう信じて疑わない、幸せな時間だった。


 星明りの下で、俺たちは希望に満ちた笑顔で歩き続けていた。

 

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