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ただ、そこにある暮らし
「……ここが、わたしの家」
ミアはぽつりと呟くように言い、古びた木の扉に手をかけた。
軋む音を立てて、そっと開け放つ。その仕草には、どこか遠慮が滲んでいた。
一歩、敷居をまたいでから、彼女はふと振り返った。
その瞳に浮かぶのは、わずかな緊張と、どこか胸の奥を探るような迷い。
「おばあちゃん、いま寝てるの。最近は、特に……あまりよくなくて」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける声が、少しだけかすれる。
「さっきも言ったけど……だから、森に薬草を採りに行ってたの」
最後の言葉は、風にさらわれそうなほど小さくなっていた。
まるで、自分の行動を確かめるように。あるいは、ほんの少しだけ、誰かに赦してほしいかのように。