神の目を待つ者
「……すごい、すごいよ……」
か細く、けれど震えるほどに真剣な声が、静寂の中に滲んだ。
振り返ると、少女が立ち上がっていた。
足元はおぼつかなく、何度もふらつきながらも、それでもまっすぐこちらへと歩いてくる。
泥と血で汚れた白いドレス。
膝は擦りむけ、乾いた土にまみれている。
それでも彼女は、一歩ずつ確かに距離を詰めてきた。
そして、目の前まで来ると、小さく息を呑んで俺を見上げた。
その瞳には、迷いがなかった。
大きく見開かれた瞳が、俺の目をじっと覗き込む。まるで“何か”を確かめるように。
「……あなた、視の神の使いなの?」
「は?」
咄嗟に間の抜けた声が漏れた。
神? 使い? 何を言っているんだ、この子は。
こっちはいま、ようやく現実が呑み込めそうになってきたところだというのに──
だが少女は、俺の混乱など意に介することなく、まるで答え合わせをするかのように目を輝かせた。
「間違いないよ。あのノイズの形……“視の術”と同じだったもん! あんなすごい槍、村の術士たちでも使えない!」
“視の術”。
さっき、ノイズが収束し、形を成し、放たれたあの現象。
この世界ではそれが、“魔法”として認識されている──。
そういうことか。