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病はチカラ
風が、止まった。
ついさっきまで葉を揺らし、草を撫でていた微かな流れが、嘘のようにぴたりと消えた。
風に乗ってざわめいていた草木の音も、まるで世界そのものが息を潜めたかのように、凍りついた静寂の中へと沈んでいく。
空気が固まったような沈黙の中──少女は、まだそこにいた。
崩れ落ちた魔獣の傍で、呆然と立ち尽くしている。
その視線はまっすぐに、俺を見ていた。
恐怖とも安堵ともつかない、混ざり合った瞳の奥に映っているのは、紛れもなく“俺”だった。
そして、俺自身もまだ理解できずにいる。
あの一瞬。赤く濁った瞳の魔獣を貫いた、まばゆい“光の槍”。
あれが──あの異形の光が、自分の視界に漂っていたノイズから生まれたという事実が。
信じられなかった。
けれど、否定できなかった。
俺の目は、ただ壊れていたわけじゃない。
あのノイズは、忌むべき病なんかじゃなかった。
──この世界では。
いや、“この世界だからこそ”。
俺の“ノイズ”は、力として、目を覚まし始めていた。