俺の目が、世界を撃ち抜いた
反射的に顔を向ける。
草原の先──木々が密に連なる森の縁で、何かが荒々しくうごめいた。
足が、無意識にそちらへ向かっていた。
ざらつく視界の向こうに、それはいた。
岩のようにゴツゴツとした黒い皮膚、剥き出しの牙。獣のような怪物が、今まさに小さな少女を追い詰めていた。
少女は怯え、尻餅をついたまま後ずさる。
逃げ場はもうない。獣の赤く濁った眼が、ゆっくりと彼女を捉えている。
「……俺には関係ない」
そう呟いて、俺は目を閉じた。
だが──暗闇は静けさをくれなかった。
瞼の裏にさえ、無数のノイズがざわざわと渦巻いている。
白と黒の粒子が、神経を刺激するように不規則に蠢いていた。
そして、次の瞬間。
ノイズが──形を変えた。
意志を持つかのように収束し、鋭く尖っていく。
感情と連動するように、怒りと衝動が波紋のように広がったそのとき──
ズガンッ!
視界の外から放たれた一条の“光”が、まるで心を読んだかのように、一直線に怪物を貫いた。
黒い血が飛び散り、獣が呻き声を上げて崩れ落ちる。
少女は呆然と立ち尽くし、俺のほうを見ていた。
驚愕と恐怖と、それでも助けられたという安堵が入り混じったまなざしで。
俺の視界は──依然としてザラついている。
相変わらず、細かな粒子が世界の輪郭を歪めていた。
けれど──
その“ノイズ”は、もうただの病ではなかった。
視界を濁らせるだけの厄介な粒子だったはずのそれが、
今はまるで、意思を持った生き物のようにうごめいていた。
黒と白の粒子が渦を巻き、幾重にも折り重なりながら形を変える。
刃のように尖り、弓のようにしなり、まるで俺の感情に呼応するように、震えていた。
ザラつきは不快ではなかった。むしろ、それが“力”として自分の中で脈打っているのを、はっきりと感じていた。
あれほど忌み嫌い、恐れてきた視界のノイズが──
この世界では、“武器”として目を覚まし始めていた。