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第六章 そんなこと、神様は命令してない

こんにちは。「中2の夏に、白石くんが神様になった」を読んでいただきありがとうございます。


舞台は、2026年の大阪・羽曳野。自由研究に熱中する中学生たちが、応神天皇陵の石室である〈存在〉と出会い、世界の成り立ちを垣間見ていきます。


もしよければ、青春の謎と発見の旅を一緒に楽しんでください。

§6 そんなこと、神様は命令してない


(1)


9月15日 月曜日 午前11時。皇学館大学 宗教文化研究室。


——矢納さん、大変です! あのメールがまた来ました。

——白石くんのパソコンで少し見てみたんですが、全然理解できません。

——アドレスを送りますから矢納さんも見てもらえますか。


==================================

差出人:

件 名:

本 文:あなたは最深階層3へのアクセスが可能です。

    ftp://eganomofushioka_3.va

    PN:moifsdiu

==================================


 結からのメールを見て、矢納は考え込んでいた。


(このメールは誰から送られてくるのだろう?)


 AOBか? それが一番可能性が高いだろう、あのデータベースはAOBのものなのだから。しかし、彼女の動きに合わせるようなタイミングで、メールを送れる人間は……、彼女の母親? 彼女の母親は宮内庁の女官だ。しかしAOBと宮内庁とは接点がないように見えるが……。


(とにかく見せてもらおうか、最深階層3とやらを……)



「もしもし、矢納さんですか? 結です。通話かけちゃいました。昼休みなんです、今、通話大丈夫ですか?」


 わたしは、待ちきれずに矢納さんに直電かけてるとこ。だって、土曜日にメール送ったのにぜんぜん返信来ないから、どうしちゃったのか、気になってしょうがなかったの。


「維さんかい? 2時間前にメール見て、今までデータを見てたとこだ。」


「えー、土曜日にメール出したのに、矢納さん、もう興味無くなっちゃったんですか?」


「いや、結さん、パソコンのメールアドレスに送っただろ、研究室は土日は入れないんだよ。興味はあるよ、とってもある。

 でもさ、結さんが思念体とチャネリングして、〈世界の真実〉を知ってしまったから、これ以上の考察対象はないかなと思ってた。この夏のことをレポートにしようと、ボチボチ書き始めていたところなんだよ」


「そっか、忙しかったんですね、すみませんでした。でも、今回のこれ、見ましたか? どう思いましたか?」


「そうだな、人類滅亡の危機ってことだが、まるで、都市伝説に出てくる予言と、同じ類だと最初は思ったよ。具体的であればあるほど、胡散臭く思えてくる。

 だが、日本語のファイルを3つ読んでみて、信憑性の高いことが、いくつかあると思った。」


「わたし、ひとつ目のファイルしか読んでないんだ、180年後に人類が滅びるってやつ」


「そう、それなんだ、あの思念体は未来のこともわかるってことなのかな。アカシックレコード的なことなのかと考えたが……」


「神様なんだから、わかるんじゃないかな」


「180年後に神様が、例えば隕石を地球に落とすってことなら理解できるが、隕石が、地球に落ちることがわかっているってのは、少し違うからな。どっちにしろ、我々の理解の及ばない領域の話ってことだ」


「で、信憑性の高いことって?」


「こちら側の話だ、我々人類側のな」


「うんうん」


「国にはおそらく、日本人だけでも、世界に先駆けて思考の融合を果たし、高次元の存在にシフトして、人類滅亡の危機から逃れようという計画がある。そのための組織も作られている。」


「えっ、ちょっとそれ! 日本人だけって……ずるくないですか」


「戦争ばかりして、一向に仲良くなれない世界の国々を待ってたら、間に合わないってことだろうな。しかし肉体を捨てて、高次元の存在になることがいいことなのか、日本人だけズルいってことになるのかは疑問だな」


「そうね、わたしもそう思う」


「あとひとつは、これは結さんに言うと、どう感じるか……」


「どういうことですか?


「その組織は、おそらく宮内庁内部にある」


「…! えっ、それどういう……」


 昼休み終了の予鈴が鳴り、通話越しに矢納にも聞こえた。


「ほれ、学生は勉、勉強。次に結さんが、こっちに来る時に、ゆっくり話そう」




(2)


 今日の昼休みに、矢納さんにかけた通話が中途半端だったから、ずっとモヤモヤした気持ちのまま。

 わたしはいろいろと考えたくて、少し遠回りして、駅の方から、ゆっくり歩いて帰っていたの。いつもの帰り道と違って、駅の周りには大勢の人が歩いてる。


(この人たちも、肉体を捨てて、次元上昇したいって思うのかな、どうしてそんな風になりたいのかな)


 あの日、神様みたいな思念体が答えてくれたこと、わたし全部覚えてる。

 神様は言ってた。


「人間が、肉体を持ったまま、いろんな違いを超えて、ひとつになれるかどうか……。それを、ぼくは、ずっと観察しているんだ。」


 宇宙全体に広がる思念体が持つ思考は、肉体に宿ったわたしたち人間の思考とは、違うんだろうな。


 だって、肉体は行動するから。

 思考回路を辿って、情報を伝えるんじゃなくて、人間は会いに行って気持ちを伝えるから。

 そして、会ったら感情が生まれるから。


 その感情によって、理論的じゃない行動をすることもあるだろうけど……。

 でも、そういうところが面白くて、神様は人類を観察しているのだと言ってた。

 きっと、一番最初に人間に入り込んだ時に、すごく楽しかったんだろうなあ。


 人生を終えた人間の思考を取り込んで、自分の中に住まわせているとも言ってた。

 そしてその魂みたいになった思考を、新しく生まれてくる、赤ちゃんに入り込ませているとも言ってた。

 でも、何十億人分の思考を、神様と人間とで循環させてはいても、神様自身は、何も変わらなかったんじゃないかな。

 いくら、たくさんの人の人生の情報が、自分の中にあっても、いつでもそれを見ることができても、それはただ物語という情報を、記憶しているだけってこと。

 その情報を読み取るだけじゃ、神様に感情は生まれてこないからだ。

 思考と感情はちがうものなんだ、きっと。

 そして、感情が生まれない理由は、神様が肉体を持っていないからなんじゃないかな。


 そこまで考えてたら、けっこうな距離を歩いていたみたい。うちのマンションまではもうちょっとだ。



 パパの今夜の献立は、肉じゃがと、きのこの炊き込みご飯。

 パパは米国国際開発庁を辞めてから、自宅にいて、パソコンとネットでできるお仕事をしているみたいで、だいたい毎日家にいる。

 おかげで美味しいご飯を作ってもらえて、ママもわたしもパパのことが大好きだけど、今はなんのお仕事してるんだろう、パパ。

 食後もなんとなくリビングに残って、ソファに寝っ転がってると、向かいのソファにはパパがいて、パパったら、いつになくノートパソコンでなにかしてるもんだから


「パパ何してるの?」


 と聞いてみた。


「ああ、ごめんね結、リビングで仕事しちゃって。残業だよ、残業、ははは」


「へえ、忙しいんだ」


「いや、夜にならないとできない事なんでね。アメリカにいる人とチャットしてるんだ」


「ああ、時差があるから向こうに合わせてるってわけね」


「そういうこと」


 そう言いながら、タイピングする指も軽やかに、カチャカチャとキーボードを鳴らしてる。

 キッチンでお皿を洗ってるママが、チラッとこちらを見てた。



 お風呂に入って、まだリビングにいたパパとママに「おやすみなさい」って言ってから、わたしの部屋に入った。

 なんとなく気になって、パソコンの画面を見たけど、新しいメールは来ていなかった。


(ああ、見れなかった、他のファイルも見てみたいなあ)


 あの日、夕方になっちゃったので、ひとつのファイルしか見られなかったんだよね。でも、あれから白石くんの家で、パソコン使わせてもらうのが、なんとなく気まずくて言い出せないでいる。学校で顔は合わせるんだけど、会話は何もできてない。

 ベッドに横になった。

 肉体を捨てて、思考だけになったわたしと白石くんが、テレパシーを使って、無言で会話しているところを想像してみた。


「きみたちが、肉体を得て自由に動き回り、悩んだり、悲しんだり、笑いながら話なんかしてるのを見ているのが、ぼくは好きなんだ。」


 あの日、神様がそういった時の顔と声は、白石くんだった。

 だから、神様の言葉をわたしは全部覚えているんだ。



(3)


 9月16日

 朝から雨。台風が接近してるから、その影響だってニュースで言ってる。

 今日は5時間授業だから、3時には授業が終わる。白石くんの家で、パソコン使わせてもらうチャンスだなと思ってるんだけど、白石くんに話しかけるられるかなあ。

 なんか一連の〈この世の真実〉関係の話を白石くんにするのは躊躇しちゃう。もっと普通のお話をしたい……なあ。


 180年後に人類存亡の危機が来るっていう。そのときに備えての動きに、宮内庁が絡んでいると、矢納さんが言ってた。ひょっとするとママが、なにか知ってるかも知れないという気もしている。


 いろんな情報が入ってくるけど、わたしの生きていない未来の全体像は見えてこない。

 180年後かぁ……。

 なんにしても、あのサイトの〈最深階層3〉のデータを全部見てみないとわからない。

 知りたい。……でも、怖い。



「しーらーいーしーくん!」


 よし、明るくアプローチしてみようと決めて、わたしは白石くんに声をかけた。

 ビクッとして白石くんが振り向いた。HRが終わってみんな教室から出ていく喧騒の中。


「結ちゃん……、どうしたの?」


「どうしたのって、ほらこの間は、中途半端に終わっちゃったからさ、また白石くんのうちでパソコン使わせてほしいなって」


「なんだ、そんなことか。いいよ」


「いいの! やった。」


「じゃ、3時半くらいかな、直接来ちゃっていいよ」


「わかった、ありがとう白石くん」


……ふぅ。よかったぁ、白石くん、普通に反応してくれて。


 わたしがゲタ箱まで走っていって振り向くと、白石くんはまだこっち見てた。小さく手を振って、傘を開いた。



 淡い水色のスカートと、小さいフリルの付いたブラウスに着替えて、雨は全然やんでないけど、急いで白石くんの家に行く。

 パパには、お友達の家で宿題やってくる、と言ってきたんだけど、パパはまたパソコンでチャットしているみたいだった。


 白石くんの家に着いて、玄関の呼び鈴を鳴らすと、すぐにドアを開けてくれた。


「いらっしゃい、さあ、上がって」


「おじゃましまーす」


 白石くんのお母さんはお仕事をしているので、今日も白石くんひとりらしい。

 この間ほど、緊張はしてないけど、やっぱり少しドキドキする。この間と同じく、リビングに案内された。


「僕の部屋散らかっててさ、ふたり座れないから、ここでやろうか。パソコン出しといたよ」


「うん、ありがとう」


 あー、そうだった。それが目的だった。気を取り直していこう。


「じゃ、始めるね」


 ブラウザにアドレス打ち込んでると、今回も、すぐ後ろで白石くんが画面を見てる。近いです……。


 でも、無事ログイン。以前と同じ画面が表示されると、わたしの意識はそっちに移っていく。意を決して日本語のファイルのうちで2番目のものを開いた。


===================================

●米国との共同組織の設置


高次元への移行のための、民衆意識の統一を啓蒙することを目的とした組織を日本国宮内庁に設置する。

名称はProject Execution Organization(PEO)とし、存在は非公開、行動は秘匿性を優先する。

責任者と構成員は以下の通り。


    ・

    ・

    ・

    ・

    ・


日本国民衆に共通する自己認識、総体認識を啓蒙することを目的とし、その手段と、実行する枠組みを、国内に多数存在する神社仏閣などに設け、これを有効に利用する。

同時に国民が皇室に対して持つ好感情も、有効に利用するために、神社庁、宮内庁との連携を親密に保持する。

活動により得た情報は、米国とこれを共有する。

===================================



……、うーん。よくわからない。

スクショを保存して、3番目のファイルに進む。



===================================

●思念体との接触方法に関する米国との協力契約


高次元の思念体からの情報を、安全に得る方法を有する、米国国際開発庁との協力契約の失効及び破棄について、日本国の対応と公式意見は次のとおり。

・米国国際開発庁(USAID)の解体により、当該契約は失効したものとし、契約不履行による不利益に関して両者はこれを訴訟しない。

・旧USAIDが担っていた国際的役割分担の一部(総体認識推進に対しての資金援助等)は、AODおよびPEOがこれを継承することとする。

・宮内庁、PEO、旧USAIDにおける窓口のエージェントは、各組織に数名配属され、存在は非公開とし、個人情報は秘匿性を優先する。

    ・

    ・

    ・

    ・

    ・


民間に伝えられている降霊術、チャネリング等の虚偽の情報は、TV、インターネット等でこれを広く流布し、真の接触方法に関する情報を撹乱していく方法を適時実行していく。

各地上波報道、有力インフルエンサー等は、これを懐柔し、当計画に有利に利用する。

===================================


……。


……?


 なんだこれは? わたしの知りたい情報とは随分違う気がする。


 わたしが神様と話してわかったことは、全部私の心にしっくりくるものだった。

 〈万物の正体〉は宇宙と同じ大きさをもつ“思考”だった。要するに神様みたいなものかな。

 そして、神様は、ただ人間を観察していいるだけで、干渉や命令をしたりするわけじゃない。

 それが、私の知った世界の真実。


 それは、誰が知っても問題ないし、隠したり、人を欺いたりするものじゃない。

 今まで通り、一所懸命生きていけばいいっていう、間違ってないよっていう、そんな答え合わせができたから、うれしかったんだ、わたしは。


「おー、すごい! 陰謀論だ、陰謀論。やっぱり結ちゃんこういうの好きなんだ」


すぐ後ろまで、顔を近づけていた白石くんが、声を上げた。


(好きじゃない、好きじゃないよこんな情報! なんだこれ、知りたくなかった!)




(つづく)7月14日投稿予定

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