プロローグ〜第一章 夏休みのはじまり、自由研究は未定
こんにちは。「中2の夏に、白石くんが神様になった」を読んでいただきありがとうございます。
舞台は、2026年の大阪・羽曳野。自由研究に熱中する中学生たちが、応神天皇陵の石室である〈存在〉と出会い、世界の成り立ちを垣間見ていきます。
もしよければ、青春の謎と発見の旅を一緒に楽しんでください。
§0 プロローグ
僕は思うんだけど、この世界って、あまりにも大きすぎて、
みんなはそれが迷路だって気づいていないんじゃないかなって。
それどころか、楽しそうにかくれんぼなんかしてさ。
誰かを見つけて、つかまえることが人生の目的みたいに思ってる。
でもさ、本当の目的を忘れていないかい?
誰か迷路の出口を探している人はいるのかな。
……まあ、そんなことを思う僕も、ずっと傍観してきたんだけどね。
けどさ、最近になってちょっとだけ、気が変わってきたんだ。
理由はね——まあ、よくわからない。
ずっと水面みたいに静かだった心の中に、誰かが小石を投げ込んで、
波紋が広がっていくみたいな感覚。
はじめは錯覚だと思ったんだよ。
それはどうやら、ある一人の人間の存在が原因らしい。
そう、“彼女”のことだ。
彼女はまるで、迷路の壁に耳を当てて、かすかな音を聞き分けようとしているみたいに、
じっと世界の仕組みを探っている。
ほかのみんなとは違って、この世界そのものに「なぜ?」って問いかけてる。
だから僕は、少しだけやりかたを変えることにした。
“干渉”はしない。でも“観察”はすることにしたんだ。
もしかしたら、彼女がこの迷路に穴をあけるかもしれない。
もしかしたら、忘れられていた“目的”をみんなが思い出すかもしれない。
そんな希望みたいな想いが、今の僕の心のなかにあるんだ。
彼女の名前は、まだ言えない。
でも、これから君が読むのは、彼女の話だ。
いや、正確には——
彼女を見つめる僕の話でもある、かな。
§01 夏休みのはじまり、自由研究は未定
(1)
まず、わたしのママのことから話すね。
わたしのママが働いている仕事場は、宮内庁書陵部 古市陵墓監区事務所っていう、堅苦しい名前。でも、平屋建て住宅風な造りで、一見すると誰かの家みたい。自然の多いこの場所に、馴染むように配慮しているってママが言ってた。大阪府市の、応神天皇陵の入口にあるんだ。
応神天皇陵っていうのは、日本で二番目に大きい前方後円墳、知ってる? 大きすぎて地上からだと、樹木が鬱蒼と茂った丘にしか見えないんだ。
敷地のすぐ隣には一般住宅が立ち並んでいるし、敷地内には、出土品の展示施設やテニスコートなんかもある。八幡神社もあるし、気軽に観光にこれる場所。昔の天皇のお墓っていう、特別なイメージはあんまり感じないかな。
とにかくママは、毎日スーツを着てここに通っているんだ。
わたしたち家族は、この古市陵墓監区事務所から2キロくらい離れたマンションで暮らしているんだけど、まだ住み始めて2年目で、その前は和歌山県のかつらぎ町にいて、わたしが中学に進学するタイミングで引っ越してきたの。
小学生まで暮らしていた和歌山県は、山また山という感じだったけど、ここ大阪の羽曳野一帯の平野部は、前方後円墳だらけって感じ。なんと、大阪に300基、奈良に200基もあるらしいよ。
まぁ、そんなことは置いといて、わたしの話をしよっか。
自分で言うのもなんだけど、ちょっと変わってるねって、友達にはよく言われる。そんなことないと思うんだけどなあ。
羽曳野第一中学校に通ってる2年生で、部活? やってない。
家族はパパとママとわたしの3人で、パパはアメリカ人なの。私はハーフってことになるんだけど、見た目では全然日本人。髪も瞳も黒いし、身長も149cmでクラスでも小さいほうかな。
大人になったときには、160cmくらいあったらいいなぁと思ってるんだけど、どうかな、まだ背ぇ伸びるかな。
さて、今日は7月20日で、夏休み2日目。
やることがないわたしは、朝からママの仕事場までくっついてきた。ここはまるで森林公園みたいだし、わたしはあちこち散歩するつもりで水筒持参で遊びに来ちゃった。
駐車場でママの運転する車を降りて、
「じゃあね、ばいばい」
って言ったら
「お昼は一緒に食べましょ。LINEするからスマホ時々見てね」
ママったら、なぜか張り切って、わたしとふたり分のお弁当を作ってきたみたい。
わたしは被ってた麦わら帽子を振ってこたえた。
まだ9時前なのに、今日も暑くなりそう。
まるでエンジン全開のバイクみたいに、セミたちが全力で叫んでるよ。
(2)
事務所の駐車場を出て、お濠と参道を越えると、すぐ遊歩道みたいなのがあるんだけど、入って20メートルもいかないうちに、道は木々に埋もれてなくなっちゃってる。
(なにこれっ、行き止まりってこと?)
かろうじて樹木の密度の少ないところがあって、ぎりぎり道と言えなくもないところを進んでみた。
わたしの胸の高さくらいある草が、木々の隙間を埋め尽くしている。
(薄暗いな)
葉陰が濃くて湿っぽいし、おまけに地面や石に苔がびっしり生えている。
わたしは虫が苦手じゃなくて、こんな場所でもわりと平気で進んでいける。蚊もあまり翔んでないし。
(タマムシいないかなぁ)
って考えながら歩いた。シイノキやクスノキが多い。タマムシはこういう樹木に卵を産むからね。虹色の光彩を放つ甲虫……。なんかいいよねタマムシ。
古代エジプトのスカラベみたいに、古墳にタマムシ。やっぱ、変わってるのかなぁわたし。
あんまりこういうことはクラスメイトには、言ったりはしないようにしてるんだけどね。
だって中学で引っ越してきて、こっちで新しくできた友達ばかりだからさ。なるべくは普通の子って思われたいし、悪目立ちはしたくないじゃない。
*
不意に木のない空き地に出た。15メートル四方くらいに土がむき出している。わたしはちょっとびっくりして、立ち止まったまま固まっちゃってた。
(なんだろう、ここ)
木杭にロープを張って、囲っていたらしき跡がある。その木杭は朽ちちゃってるし、黄色と黒のしましまロープも土に埋もれてて、ところどころしか地表に見えていない。
朽ちた木杭のそばに立て看板らしきものも落ちていた。風雨にさらされて、書いてある文字もかなり薄れていたけど、なんとか読むことができた。
〈恵我藻伏岡陵 前方部頂上発見石材調査〉
ボロボロの看板には、そう記されていた。なにか特別な言葉みたいで、胸の奥が、少しざわついた。
〈エガノモフシノオカノミササギ〉
なぜか読むことができたけど、これってなんだ?
わたしは何分間か立ったまま、偶然見つけたその空き地、と朽ちた看板をボーっと眺めていた……と思う。
だんだんドキドキしてきた。
やかましかったセミの鳴き声も、フェードアウトした。視界が狭くなって、見えるものの彩度が薄まってモノクロになっていく。
去年、体育の授業中に初めて貧血になって危うく倒れるとこだったことがあるんだけど、そんな感じ。
*
はっと、我に返った。大丈夫、意識ははっきりしてる。3メートル先の草がなぎ倒されているのが見える。そこは地面が崩れていて、灰色の大きい岩のようなものが見えている。
その岩は一部が砕けたみたいに口を開けているのがわかって、わたしは思わず息を呑んだ。
(なにかが……ある…)
またちょっとドキドキしてきた。
そうだママに聞いてみよう。ここはママの職場なのだからママに聞いてみたらわかるはず。
ここに来る車の中で
「古墳全部が立入禁止ってわけじゃなくて、公園みたいに一般の人も入っていいんだけど、ところどころダメって場所があるから気をつけてね」
と、ママは言ってたっけ。
ここがそのダメな場所なのかな。でも、ちょっとだけあの穴の中を見てみたいな。なんか遺跡の中の秘密の通路を発見したインディアナ・ジョーンズかララ・クロフトになったみたいで面白そうじゃない?
(3)
わたしはママに聞いてみようと、肩にかけたサコッシュからスマホを出したんだけど、ふとさっきの〈エガノモフシノオカノミササギ〉を検索してみようと思いついた。だって、仕事中はあまりスマホで呼ばないでって、ママに言われてたし。
[エガノモフシノオカノミササギ]
検索すると、すぐにこう出てきた。
[応神天皇陵]
そりゃそうか、この古墳の正式名称ってわけね。
他の検索結果にも、この古墳のことがいろいろとリストアップされていたんだけど、その中に気になるのがあった。
——宮内庁が応神天皇陵として管理する大阪府羽曳野市の前方後円墳・誉田御廟山古墳(5世紀前半、全長425メートル)で室戸台風(1934年)の翌年、前方部から巨大な竪穴式石室が見つかり、旧宮内省が調査していたことが「恵我藻伏岡陵 前方部頂上発見石材調査報告書」からわかった。同時代の竪穴式石室で最大級とみられるが、石室の内部は確認せず埋め戻した。(山陰日報)
92年前!! そんな前に埋め戻したものが、今また露出しちゃってるってわけなの…?
そんなに放ったらかしにしておいたのかなぁ。あまりに敷地が広大すぎてママたちの部署も手が回りきらないこともあるのかしら。危ないよー、子どもが落ちちゃうんじゃない。
——天皇陵墓の発掘、調査は戦後のGHQマッカーサー元帥による仁徳天皇陵と、この「恵我藻伏岡陵 前方部頂上発見石材調査」のみで、宮内庁による調査は初。
マッカーサー…か。なんとなく聞いたことはある名前だけど、誰だっけ? 歴史の授業ではまだやってないなぁ。でも、パパから聞いたことがあるかも。
検索結果が表示されたスマホを持ったまま、わたしはしゃがんで考え込んだ。
今知った情報が、目の前の穴とどう関係するのかわからないけど、胸の中がどうも気持ち悪い。
ジグソーパズルの何も置かれていないボードの上に、てんでバラバラの位置にポツンポツンとピースを置かれた感じ。わかるかなあ。
肝心の部分が映ったピースはまだなくて、断片的で混沌としてるんだけど、わたしには、全体像が霧みたいにもやもやとして思い浮かんでるの。
好奇心が抑えきれないくらい、わたしは、あの穴の中が気になってる。
ふいに樹木の向こうから気配がした。けっこう遠くだ。木々の隙間から見え隠れに人影が小さく見えた。スーツ着た男の人がふたり。多分ママの仕事仲間なんだろうって思った。
だって、一般の人だったら天皇陵のなかを散歩するにしても、スーツなんて着ないもんね。
(巡回する仕事中なのかな? ってことはあっちにも道があるってことか)
やがて人影は遠ざかり、見えなくなった。なんとなく後ろめたくて、木の陰に身を潜めていたわたしはホーっと息を吐いた。
(どうしよう、やっぱり少しだけでいいから、穴の中を見てみよう!)
意を決してわたしは、穴に向かって近づいていった。
(ママにはそのあとで連絡したっていいんだし)
土から露出している石には、表面に細い溝が何本かあって、かがみ込んで穴をのぞき込むと、天井部分の石が割れた破片だろう、それが床に落ちている。
穴から差し込む光で床のその部分だけが見えている。
(……)
床も壁も岩でできた直方体の部屋のように思えるんだけど、奥の方は暗くて何も見えないな。
ちょっとためらったあと、スマホのライトで照らしてみた。それでも暗いけど、奥の方も岩の壁なことがわかった、天井にあたる、ここまでの高さは4メートルくらい。
(落ちたら、足挫く)
「……調査しなかったなんて、ほんとかな」
わたしは声に出してつぶやいていた。
・天皇陵は国有地で墳墓内部は誰も入れない
・宮内庁は調査を許可しない
・マッカーサーはGHQの権限で仁徳天皇陵を発掘調査し、発掘物を持ち帰り、それがなにかは明かされていない
・戦争責任により死刑の準備が進められていた昭和天皇は、仁徳天皇陵発掘後、マッカーサーの権限で助命され、象徴天皇として日本の君主であり続けた
ネット検索で得た、断片的な情報を頭の中で思い出しながら、しばらく石室の内部を見下ろしていた。
カビ臭いような、土の匂いのような、すえた空気が石室から立ち上ってくる。ちょっと吸い込めない。
酸素があんまり含まれていないのかもしれない。
入口も出口もなく、密閉されて埋め込まれた竪穴式石室……。なんのための部屋?
怖いって感情がだんだん膨らんでくる。
(やっぱり中に入るのはダメだ、ママに連絡してみよう)
そう考えた時、地面にしゃがみ込んでいる、わたしの後ろから声をかけられた。
「何をしている」
スーツを着た男の人ふたりが、わたしを見下ろしている。
消えていたセミの鳴き声が再び轟き出した。
(4)
背後からかけられた声に、わたしはびくっとして振り返った。
さっきのスーツ姿の男の人ふたりは、ママと同じ宮内庁のIDカードを、ジャケットの胸ポケットにつけている。
「あ……あの、す、すみません」
わたしは反射的に立ち上がって、むぎわら帽子をとって頭を下げた。
怒られるかなと思ったけど、ふたりのうち、年配のほうの男性はあまり表情を変えず、わたしの顔をじっと見つめてから、静かに言った。
「ここは立ち入り禁止区域です。危険ですので、安全な場所まで案内します。保護者の方はどこにいますか、ご連絡しますね」
(……ママに連絡される。これは確実にお説教だ)
そのままわたしは、ふたりに挟まれるようにして監区事務所へ連れ戻された。
10分後、監区事務所の応接室みたいな部屋で、わたしは麦茶を出されてソファにちょこんと座っていた。ほどなくしてママが現れた。男の人に、わたしのママは、この管区事務所の女官だと告げたからだ。
「……何してたの? 怪我は?」
思ったよりも静かな口調だった。ちょっと拍子抜けした。
男の人たちとママが小声で話している。
「お子さんだとは知らずに……。はい、怪我はしていません。ただ……崩れた石室の近くにいたそうで」
「石室? あの石室?」
ママの顔が少し曇って、チラッとわたしを見て言った。
「まさか、入ったりしてないよね?」
「してない! 覗きこんだだけ……」
それは本当だった。ママは大きくため息をついて、男の人が部屋から出ていった。
「帰ったら話すわ。とにかく、お昼にしましょう」
その言葉に、わたしは少しホッとして、ママと一緒に、職員用の休憩スペースでお弁当を広げた。メインのおかずは、私の好きなスコッチエッグで、見るからに力作なお弁当を食べながら
「ママ、ごめん……。こんなおいしいお弁当作ってくれたのに」
「作ったのはパパよ。美味しいわね」
*
午後には、若くてきれいな女官のひとが、資料室と小さな展示室を案内してくれた。出土品である埴輪のレプリカ、古墳の断面図、そして応神天皇陵に関するパネル展示なんかが並んでいる。
若い女官の人はニコニコと説明してくれるけど、わたしはきっと、ずっとボーっとした顔してたと思う。
わたしの頭の中は、あの“穴”のことでいっぱい。
(5)
ママの運転する車で家に帰って、パパが作った夕飯をみんなで食べた。
わが家の食事は、パパが作ることが多い。カレイの煮つけと茶碗蒸しを出して「どうだ」とばかりニコニコしてる。
ママは「帰ったら話すわ」といってたけど、石室の穴の話は何もしなかったし、怒っているわけでもないみたいだ。
だけどとても疲れた顔をしてて、パパと英語でしばらく何かを喋ったあと、「お風呂に入るわ」とリビングを出ていった。
(……パパなら何か知ってるかも)
そう思いついて、リビングでコーヒーを飲んでいるパパの隣に座った。
「ねえパパ、マッカーサーって人、知ってる?」
パパはちょっと驚いたような顔をして、笑った。
「もちろんさ。第二次世界大戦のあと、日本を統治したアメリカの将軍だよ。どうして?」
「なんか、古墳の調査をしたとか……」
パパはちょっとだけ、真剣な顔になった。
「ママから何か聞いたのかい?」
「……ううん。ネットでちょっとだけ見たんだ」
パパはゆっくりと頷いてから、語り始めた。
「マッカーサーは、敗戦後の日本の統治を任された重要な人物だった。彼は日本の文化や精神性にも関心を持っていたらしい。特に、天皇制についてはね……」
パパの話によると、ヨーロッパの戦勝国諸国は、昭和天皇に戦争責任があるとして死刑にする方針だったが、マッカーサーは、日本を安定させるために〈象徴としての天皇〉が必要だと訴え、元帥の権限を持って、これを助命したってことらしい。
「でも、なぜ彼が考えを変えたのか、その理由は明かされていない。仁徳天皇陵で何かを発掘したからだ、という噂もあるけどね」
「なにを……?」
パパは首をすくめて、笑って誤魔化した。
「さあね。歴史っていうのは、時々真実が闇の中に消えることもあるからね」
(6)
その夜、わたしの部屋のベッドで腰掛けて考え込んでいると、枕元のノートパソコンの通知音が鳴った。画面にはメール着信のポップアップが点滅してる。
(……?)
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差出人:
件 名:
本 文:今日のことについて、口外しないこと。
でも、あなたの好奇心を満たす情報は、提供してさしあげます。
ftp://eganomofushioka_2.va
PN:moifsdiu
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送信者と件名は空欄。本文は、ただ数行だけのテキスト。瞬間、頭がカーッとなった。今度は貧血じゃなくて、血圧上昇って感じ。
(なんだこれ、誰かが今日のこと知ってる?)
怖いと思ったんだけど、わたしはリンクをクリックしちゃっていた。
ブラウザが立ち上がり、ポップアップウインドウでアラートが表示される。
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あなたのアカウントは年齢制限により
このサイトにアクセスすることができません
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「うっそー……」
声が出た。
わたしのパソコンとアカウントは、パパとママの方針でペアレンタルコントロールの制限がかかっているの。わたしはお預けを喰らった悔しさを抱えたまま、パソコンを閉じてベッドに寝っ転がった。
(何かこの謎の全体像が見えてくる気がする。でも、まだ情報が足りない。)
モヤモヤの形がいっこうに見えてくない。
目を閉じると、とたんに眠気が襲ってきた。
(……お風呂に入らないと)
そう思いながら、わたしはそのまま寝落ちしていた。
(7)
あのメールが届いてから1日たって、また夜が来た。わたしの気持ちはぜんぜん落ち着かない。モヤモヤ、ザワザワしっぱなしなの。
何度かあのアドレスにアクセスしても、ペアレンタルコントロールのアラートが表示されるだけで、イライラしちゃう。
こんなのあんまり健康な精神状態ではないよね。
(いくら親だって、世界から子どもを締め出すってどうなの……)
そんなことを思うけど、ママには言えないし、パパにももちろん言えない。
あの穴のことを話すのが怖い。とんでもない秘密ができちゃったみたい。
誰にも公開しない日記ブログを書き終えて、パソコンをパタッと閉じ、ベッドに背中から倒れ込む。
……。
「あっ!」
ひらめいて、声が出た。
(あそこなら)
そう、あそこだ。
皇學館大学。
——わたしね、小学校のときに「全国児童知能検査」ていうのを、学校全体で受けさせられたんだ。
そのあと文科省から学校に連絡が来て、「児童才能開発プロジェクト」っていうのに、わたしが選ばれたって告げられた。
「いいんじゃないの」ってママも同意したのは、ちょっと意外だったけど、それからわたしは毎月一回、皇学館大学が行っている特別な研究に協力することになった。
ちょっと変わってる(らしい)子どもたちを全国から集めてるんだって。
でも、行ってみると子どもはわたしだけ。まわりは大人ばっかりで、居心地が悪かったけど、今ではいつも話し相手になってくれる、研究員の矢納さんと仲良くなったので、通うのはイヤじゃない。
むしろ、時々聞ける神道や、日本神話の話がおもしろいなって思ってるんだ。
(……あそこの研究室のパソコンなら、アクセスできるかもしれない)
明日だ、皇学館大学へ行く日は明日なんだ。
〈つづく〉(7月9日投稿予定)