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【第一章:赤い目の少年】

まだ陽も昇らず空には星が瞬いている時間に目を覚ました。

カイルはベッドから体を起こすと眠い目をこすりながら外着に着替えて外に出た。

昨日痛めた足は案外軽かったらしく、違和感程度になっていた。

剣とタオルを持つと明日また会おうと約束した場所へ向かう。

約束した時間よりちょっと早いけど、リグが来るまでの間、暇だったら剣の素振りでもしてればいい。そう考えて早く家を出た。


小高い丘はまだ月明りに照らされているだけでまだ暗かった。早く来過ぎたとも思ったけど、リグが言っていた「陽はまだ出てない?」という言葉から、リグは明るすぎる環境が苦手なのだろうと考えていた。なのでもしかしたら早く来るかもしれないと。

とりあえずリグと話した大地の裂け目近くまで来た。すると暗がりでも人影が見えた。あの背格好はきっとリグだ。僕は早足で彼の元へ行った。


「リグ!」


そう呼ぶと、月明かりの中に浮かび上がった彼の姿が、ゆっくりと振り向いた。

赤い瞳がわずかに光を返し、まるで星明かりのように静かに輝いていた。


「カイル、本当に来たんだ・・・。」


リグは少し意外そうに聞いてきた。


「本当にって・・・。約束したじゃんか。」

「うん、そうだね。でも気味悪がってるようにも見えたから。」

「そんなことないよ。ただ見慣れないからビックリしただけだよ。」

「それは気味悪いって思ったってことじゃないの?」

「違うってば。」


そう言って二人はクスっと笑う。なんだ、話に聞いていた事と違って僕らと変わらないじゃないか。カイルはリグや地底世界への好奇心を抑えられなかった。


「リグは地底世界の住民なの?」


ほとんど解り切っていたけど、確認せずにはいられなかった。


「そうだよ。カイルが落ちてきた門のさらに奥に僕の村があるんだ。」

「あのぶつかった硬いのって門だったんだ。暗くてわからなかった。」


ふと疑問が出てくる。長老たちの話だと封印されているって言っていた。

でもこうしてリグは地上世界に出れているわけで。


「僕の村の話だと門は封印されていて開かないって聞いていたんだ。でもリグはあの門を普通に開けて出てきたんだよね?」

「?。封印は聞いたことないよ。僕は地上世界がどんな所か気になって何度か門をくぐっていたし、開かないなんてことはなかったけど・・・。」


カイルは驚愕した。村で聞いていた話と全然違うからだ。門の封印が解ければ地底世界の住民が地上へ襲い掛かってくると言われていたのに、封印はされてないし、少なくともリグはそんな恐ろしい種族とは思えなかった。

カイルは思い切って地上で伝わる地底人の話をした。


「僕の村では地底世界は恐ろしい所って言われていたんだ。地底世界の住民は悪魔と呼ばれていて、僕たちの地上世界を壊そうとしてるって。」


リグは表情を変えずに僕の話を聞いていた。そして落ち着いた口調で地底世界での言い伝えを教えてくれた。


「僕らの地底世界でも同じようなことが言われているよ。地上世界に行ったら殺されてしまうから行ってはいけないって。僕たちの世界では地上は危険だって教えられているんだ。」

「・・・結局どっちが本当なのだろう?」


そうつぶやくとリグはカイルの顔を見て言った。


「どっちも嘘だったのかもね。」


どっちも嘘。じゃあ僕が今まで教えられてきたことはなんだったのか。

でも実際にリグに会って地底人=悪魔という構図に疑問を持ち始めたのは間違いない。

ただ僕の中ではリグが地底人とか悪魔とかどうでもよくなっていた。

そんなことを考えているとリグはすくっと立ち上がった。


「いけない。もうすぐ夜明けがきそうだから帰らないと。」

「昨日も日の出を気にしていたけど太陽が苦手なの?」

「うん。地底は暗いから眩しいのは辛いし、あまり陽の光に当たると肌が火傷しちゃうんだ。」

「そっか。じゃあまた明日だね。」

「うん、またね。」


そう言ってリグは大地の裂け目に消えていった。僕も村に帰らないと。

・・・あ、剣の練習するの忘れてた。


あれからカイルとリグは陽が昇るまでの間、二人で過ごすことが習慣となっていた。

リグは地底での暮らしを色々教えてくれた。

食事は木の根とか虫を食べてること。

蛍石を灯りとして使ってること。

地下水を掘り当てて井戸を作って生活水として使ってること。

美味しい虫とか教えられても食べる気はしないけど・・・。


カイルもまた地上の生活をリグに教えるのだった。

興味津々に地上の色々なことを聞いてきた。

朝昼夜という一日のこととか天気とか。

地上にとっては当たり前のことでもリグにとっては新鮮なことのようだ。

話せば話すほど地底と地上の違いを痛感した。

肌の色や目の色以外同じような姿だとしても、生きている環境は全然違うのだと。


二人はいつしか種族を超えた親友として互いを感じるようになっていたそんなある日、いつものように二人で喋っていた時にカイルの両親が早朝に家からいなくなっていた息子を探して、丘で談笑する二人を見つけたときにそれは起きてしまった。


「カイル!こんな早い時間になにをして・・・」


母の声が途中で止まった次の瞬間、父がリグを見て叫んだ。


「あ・・悪魔だ!悪魔がここでなにをしている!」


その声にリグはハッとして両親を見た。

二人は明らかに敵意をリグに向けている。


「・・!違うんだ!リグは悪魔なんかじゃ・・・」


そうカイルは言うものの両親の耳には届かない。

父は持っていた棒を振り上げリグに襲い掛かる勢いでまくし立てた。


「息子に何をした!悪魔!ここから去らねば痛い目をみるぞ!」


父の威圧的な姿に怯えた目をしたリグは一目散に大地の裂け目へと走り出した。


「やめてよ父さん!リグは・・・、リグは悪魔なんかじゃ・・・」


父を止めようと前に立ちはだかろうとするが、母に抱き寄せられ父の前から引き剥がされた。


リグは追いかけてくる父から逃げるように裂け目へと消えていった。

カイルは父を止められなかったことでリグとの友情が壊れてしまうのではという不安から涙するのだった。母はそんなカイルの姿をみて恐怖に怯えていたと勘違いしてさらに強く抱きしめる。


「封印が解けてしまったのか?悪魔が地上に出てくるなんて・・・」


父はそう言うと母とカイルに「とりあえず村に戻ろう」と促すのだった。


その夜、カイルの村では村長の家で大人達が会議を行なっていた。

悪魔が現れたことで門の封印が解かれた可能性を危惧していた。


「いつ悪魔が攻めてくるかもしれねえ。そうなる前に攻めるべきだ。」

「まだ実害が出たわけじゃない。もう少し様子をみるべきだ。」


会議は意見がまとまらないまま時間だけが過ぎていた。

そんな時封印の門を調べに行った大人が帰ってきた。


「おぉご苦労じゃった。それでどうだった?」


長老が労いながら状況を聞く。


「門は相変わらず開かなかったよ。色々試したがうんともすんともいわない。」


この報告に村人は意見がまた飛び交う。


「もっと人数を増やして調べた方がいいんじゃないか。」

「今は特に問題がないのにあまり刺激して何か発生したらどうする。」


意見の食い違いがさらに論争をヒートアップさせる。

長老は大きい咳払いをして皆を黙らせると静かに語った。


「とにかく悪魔が目撃されている以上村として何もせんわけにはいかんじゃろう。皆には申し訳ないが交代で門を見張り万が一に備えるしかあるまい。」

「しかし長老、事が起きてからでは遅いのですよ。」


長老の意見に食い下がる者もいたが長老は冷静に続けた。


「心配は最もじゃ。しかしここで事を荒立ててはより問題を大きくする可能性だってある。何か実害が今まであったわけでもあるまい。ここは様子をみる。これは決定事項じゃ。」


長老の言葉に不満をみせる村民もいたが、周囲になだめられつつ会議は解散をした。


それからあの小高い丘では24時間見張りがついてしまった。

カイルはリグに会うこともできないまま月日は流れた。


あれから十年。カイルはすっかり立派な青年となり、村では働き者の若者として重宝されていた。封印の門の見張りもずっと変化がないのでつい先日取りやめとなった。

ある日カイルはまだ陽も昇らない時間に目が覚めた。普段なら二度寝を決め込むところだが目が冴えてしまってとても眠れる状態ではなかった。

カイルは体を動かそうと剣とタオルを持ち村の外へ出た。その時ふと昔のことが蘇ってきた。あの小高い丘でリグと語り合った日々。普段は村の外で体を動かしていたが、小高い丘へと足を延ばすのだった。

子供の頃からちっとも変わらない丘。ただそこにいつもいた友人の姿はない。

カイルは過去を振り払うように素振りを始めた。


「999・・・1000・・!」


ちょうど切りの良い回数で手を止め汗を拭おうとタオルを取ろうとした。しかし突然の風にタオルは飛ばされてしまう。


「あ、くそっ」


タオルを追いかけて踏み止めようとした時、暗がりで誰かがタオルを拾ってくれた。


「これ、君のタオル?」


差し出してくれたタオルを受け取りながら礼を言おうとすると、そこに立っていたのは、かつてのあどけなさが消え、背丈も声も大人びた――それでも、どこかあの頃の面影を残す青年だった。

「あ、ありがと・・・えっ・・もしかしてリグ?」

「・・!カイル?カイルなのか?」


すっかり立派になったリグがそこにいた。

少年時代に止まってしまった時が再び動き出すのだった。


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