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①灯猫いくみん

 僕には半津川(なかつがわ)菜花(なばな)という幼馴染がいる。

 彼女は活発でノリも良く、よく言えばクラスの人気者。ちなみに悪く言えばお淑やかさとかいう概念の対極に位置する人物。

 そして生まれてこの方十五年、ずっとこの僕、稲荷沢(いなりざわ)一生(いっせい)のお隣さんである。


「はー、受験嫌だー……」

「嫌だねぇ……」

 今日も学校が終わり、僕らは一緒に帰っている。

 どっちも部活はとうに引退、受験勉強以外にもはややることはない。

 だから何となく足取りも遅くなる。

「そーいや菜花、お前判定どんななの?」

「市立がBだねぇ。一生は?」

「……C」

「え、十一月だよ今。大丈夫?」

「うっさいな。僕はコレから本気出すんだよ」

「あー、馬鹿のセリフだー」

「んだとこの野郎。そういうお前はどれだけ勉強してんだよ」

「えっと……三時間くらい?」

「嘘だろお前」

「うちは別にいいんですぅー! 小学校時代からの貯金で今のところどーにかなってるんですぅー!」

「躓く奴のセリフだぞソレ」

「うるせぇ! 実際私より判定悪い奴に何を言われようが微塵も響きませんよーだ!」

「お前それは禁句だろ流石に!」


 一部クラスメイトからの冷やかしは軽やかに躱し、二人のときはこんな風にカスみたいな会話を賑やかに交わす。

 そんな日々が、たまらなく愛おしい――

 なーんて感傷に浸るほど、僕はまだ大人にはなっておらず、強いて言えば菜花と同じ学校に行ければいいかなーって程度の事しか考えていなかった。

 そして感傷に浸れるほど大人になる前に、その平穏は、壊れた。


 ふと、ポケットの中が震えた。

「ん?」

「どしたの一生。電話?」

「うん……母さんからだ。なんでわざわざ……」

 着信ボタンを押す。

「もしもし? 一生だけど……」

『アンタ今どこ!?』

 思いもよらぬ大声で、電話越しの母が言うもんだから、僕はすっかり驚愕した。

「何だよいきなり。普通に帰り道だけど?」

『今すぐ! 今すぐに来なさい! すぐに!』

「分かった分かった! じゃあ急ぐよ」

 そう言うと、プツンと電話は切れた。

「……なんか、やけに焦ってたな」

「おばちゃんどうしたんだろ」

「さあ? ま、早めに帰るか」

「そーね。焦ってるおばさん気になるし」

「野次馬がよぉ……」


 野次馬を引き連れ進む家路は、いつもよりも人通りが多かった。

 そもそもが世間一般で言うところの閑静な住宅街、そりゃ人なんざ滅多にいないわけだが――今日は、ご近所同士で噂話をしている主婦及び主夫が割とみられる。

「母さんの電話もそうだし……何があったんだろ」

「気になるねぇ……もうちょい急ぐ?」

「うん。ま、どーせその内着くだろ」

 思えば、僕は気付いておくべきだった。

 彼らの奇異の、あるいは恐怖の目線が、菜花に注がれていたことに。


 というわけで菜花を連れて家に戻ると、警察がたくさんと。

「な……菜花ちゃん? なん、で」

 さっきの電話口での威勢がどこかへと消え失せた母と。

「……え、母さん? アレ、一体……」

 僕の家の玄関の前、背中からナイフを生やし、倒れている人影があった。

 ……どういう事?

 僕はとりあえず冷静さを保っていそうなお巡りさんに話を聞こうと近付いて――気付いた。

「……なあ菜花、コレって」

 菜花も、僕の後についてきていたので、当然気付いただろう。

 そこに倒れていたのは、辺りを血に染め恐らくはもう息絶えているその人は、その人の顔は、どこからどう見ても。

「……私?」

 菜花はそうぽつりと呟いて、気を失った。


 翌日、DNA検査の結果が、警察から伝えられた。

 遺体は少なくとも科学的には、百パーセント……半津川菜花のものだった。

どもども。第4弾のトップバッターに気合で滑り込みし灯猫いくみんです。

ちなみに各キャラの名前の由来は生と死が入る四字熟語です。

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