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第9話 第二次世界大戦 逮捕、敗戦、また逮捕

9話目です。よろしくお願いします。

第9話 第二次世界大戦 逮捕、敗戦、また逮捕



 ダスラー一家は故郷に戻って来たルドルフに対して、安堵と不安を覚える。

 無事なのはいいが、明らかに帰国を命じられたからではなく、逃亡して戻って来たからだ。

 ルドルフだけでなく、家族にも類が及ぶのかの不安。


 1945年4月初旬。

 SD(親衛隊保安部、Sicherheitsdienst)から、逃亡兵ルドルフ・ダスラーの出頭命令が下る。


「ルディ、出頭すべきだ。このままでは会社が潰され兼ねない」


「会社だと!? そんなにお前は武器を造りたいのか!」


「戦争はもう終わる。負けだ。出頭したら拘留はされるだろうが、何とか西側連合軍から助けて貰うんだ」


 しかし、ルドルフは出頭に応じず、程無くヘルツォーゲンアウラハに、秘密国家警察ことゲシュタポ(Geheime Staatspolizei)がやって来て、ルドルフを逮捕した。


 ルドルフはニュルンベルクのベーレンシャンツェ地区にある、ゲシュタポの刑務所に収監される。

 更にダッハウ強制収容所への移送が決定される。


 1945年4月29日。

 ダッハウ強制収容所はアメリカ軍に降伏し、囚人たちは保護解放される。


 そのアメリカ軍の進軍途上、ダッハウ強制収容所への移送中のルドルフたちはアメリカ軍に保護された。

 アドルフの言った通り、ルドルフは西側連合軍に救出された。

 

 翌30日。ベルリンの総統地下壕にて、アドルフ・ヒトラーが自殺し、5月2日にベルリンのドイツ軍はソ連軍に降伏し、ベルリンは陥落する。



 1945年5月8日。

 カール・デーニッツ海軍元帥(Karl Dönitz、1890年生まれ)を首班とする、フレンスブルク政府はこの日に連合軍に対して無条件降伏をした。


 尚、これはロンドン時間だと8日の午後11時過ぎ、モスクワ時間だと翌9日の午前2時過ぎなので、ロシアを初めとする旧ソビエト連邦の国々では、対ナチス・ドイツ戦勝記念日は、通常9日に行われる。

 だが、2022年からウクライナでは、西側諸国に合わせて8日に変更している。


 ここにヨーロッパの戦いは事実上終わった。(ベーメン・レーメン保護領(現在のチェコ共和国の大部分)でのプラハの戦いが11日まで行なわれていた)


 ドイツを初め、多くのヨーロッパの都市や村落が、空襲と地上戦と焦土戦術で破壊され、殊に独ソ戦の戦場となった東ヨーロッパ地域は、人類史上未曾有の惨禍を被った。


 戦争が終わり、ナチス体制が崩壊したので、ルドルフ・ダスラーは問題なく故郷のヘルツォーゲンアウラハに戻る事が出来たが、程無く今度はアメリカ軍に逮捕されてしまう。


 非ナチ化の過程に伴い、ナチス党員で武装親衛隊に所属していた彼は、戦争犯罪者か否かの対象となってしまったのだ。


 ルドルフが収容される場所だったダッハウ強制収容所を初め、ソ連軍やアメリカ軍やイギリス軍はドイツへの侵攻途上で、次々に強制収容所を解放して行った。

 アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所が有名であるが、この頃からその恐るべき実態が、世界中に知れ渡り始める。


 そのためこの拘留は長く、1946年7月31日まで、バイエルン州北部のハンメルブルク戦犯収容所にて、アメリカ軍から取り調べをルドルフは1年程受ける。


 同じナチス党員のアドルフとて例外ではない。

 ダスラー兄弟靴工場。

 いや、パンツァーシュレックの部品製作工場は、進駐したアメリカ軍に接収される。



 ドイツ敗戦後。

 バイエルン州はアメリカ軍の占領地域だった。

 他にアメリカ軍の占領地域だと、ヘッセン州などで、例えば当地のライン川沿いのドイツ国防軍の療養施設として使われていた、聖ヒルデガルト女子修道院が接収されていた。


 このような療養施設は直ぐに解放されたが、ダスラー兄弟靴工場は武器製作の工場である。

 進駐したアメリカ兵たちは、この工場の爆破を主張する。

 経営者に至ってはナチス党員だ。


 アドルフは愕然とする。これをされたらもう大好きなスポーツシューズの製作が出来ない。

 だが、ナチス党員である彼には弁解が思い付かない。


 あるアメリカ兵が工場に掲げられた文字を読んで、何かを思い出したようだ。


「……『ダスラー兄弟靴工場』。ひょっとしてここは、あのジェシー・オーエンスがベルリンオリンピックで4冠を達成したシューズを製作したところか?」


「……」


 アドルフは工場の爆破、と聞いてから悄然として声が出ない。

 処が、ここでアドルフの妻のケーテが、必死に説明を始めた。



「そうです! ここはジェシー・オーエンス氏のシューズを造っていた工場です!」


 アメリカ兵たちはケーテに注目する。

 ケーテはアドルフがベルリンオリンピックでの、ジェシー・オーエンスとの遣り取りをしっかりと聞いて覚えていたのだ。


「私たちは残念なことに、対戦車用の武器の部品を造っていました。ですが、本来ここはスポーツシューズを造る工場なのです! オーエンス氏のような素晴らしいアスリート。何より世界中の人々がスポーツを楽しむためのシューズを造るのが、私たちの喜びで生きがいなのです!」


 一気に捲し立てるケーテに、アメリカ兵たちは気圧されたようだ。


 工場の爆破は取りやめとなり、見事に本来のスポーツシューズの工場として、元に戻る事が許された。


 アドルフがベルリンオリンピックで、アメリカ人選手のジェシー・オーエンスに自社のシューズを勧め、彼がそれを履いて4冠を達成したのは、まさに「分水嶺」だった、としか言いようがない。


第9話 第二次世界大戦 逮捕、敗戦、また逮捕 了

次回は閑話ということで、登場人物で没年を記していない人物の簡易なまとめ回となります。


突然出て来た「聖ヒルデガルト女子修道院」って何?

それは私の去年の秋の歴史を読めば分かります。(また宣伝)



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【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
[一言] オーエンスの活躍に分水嶺を持ってくるんだぁ。ってビックリしました。 軍需工場として扱うか、民生品工場として扱うかで、その工場をどうするか線引きしているのに、判断する人が、恣意的にどちらにす…
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