第5話 第二次世界大戦 スターリングラード攻防戦
5話目です。よろしくお願いします。
第5話 第二次世界大戦 スターリングラード攻防戦
1
戦争が本格的に始まると、ダスラー兄弟靴工場は、スポーツシューズの作成を止められ、軍用の靴の製作を命じられる。
元々アドルフを初め皆腕のいい技術者たちだが、それはスポーツシューズの作成に関してのみ。
試作した軍用の靴は、当局から不合格、と却下をされてしまう。
ダスラー兄弟靴工場は、一旦閉鎖されてしまった。
1943年初頭。
優秀な技術者たちが揃うダスラー兄弟靴工場に、軍からある命令が届く。
それは対戦車擲弾発射器。つまり歩兵が使うバズーカの部品の製作だ。
パンツァーシュレック(Panzerschreck「戦車への恐怖」の意)の部品製作である。
似たような対戦車擲弾発射器でパンツァーファウスト(Panzerfaust「戦車への拳」の意)があるが、こちらは1人で使用する代わりに、使い捨ての個人用武器だ。(回収すればまた使えた)
一方、パンツァーシュレックは基本的に射手と装填手の2人で使用する。重量もあるので移動が大変だが、使い捨てでないのが特徴だ。
「ルディ、それ以外の命は来なかったのか?」
「靴は無理だ。それ以外はない」
「……そうか」
アドルフは従業員たちの生活を考慮して、それを承諾する。
長兄フリッツのレーダーホーゼの工房も革の弾薬入れの製作をしていると聞いていた。
こうして、アドルフは戦争が終わるまで、工場でこのパンツァーシュレックの部品作りに関わる。
そして、技術者ではない営業マンのルドルフはというと……。
2
独ソ戦が始まり、早期にドイツの勝利が確定するかと思われた、1941年の10月ごろ。
秋は直ぐに過ぎ去り冬将軍の到来が、ソ連軍を一息つかせた。
大まかに春と夏はドイツが攻勢に出て、秋と冬はソ連が攻勢に出る状態となる。
1941年12月8日。
日本が真珠湾攻撃後に、アメリカ合衆国とイギリスに宣戦布告すると、既にイギリスと戦争状態のドイツとイタリアも11日にアメリカに宣戦布告する。
また、国民政府(中華民国の蔣介石政権)も9日に日本、ドイツ、イタリアに宣戦布告する。(それ以前からの1937年7月7日から始まっていた日中戦争は武力衝突(紛争)とされ、双方宣戦布告をしていなかった)
ここに第二次世界大戦の主要な交戦国。連合国と枢軸国の戦いの図となった。
その前にアメリカでは、1941年3月11日にレンドリース法(Lend-Lease Act)が可決承認されている。
これは「合衆国の防衛のため」の援助政策で、具体的に言えば、武器や食料や燃料などを侵略されている国々に貸与する事である。(アメリカは同種の援助を、2022年から23年までウクライナに対して行っていた。可決承認日2022年5月9日)
独ソ戦が始まると、ソ連もこのアメリカの援助政策の対象となり、ソ連は多くの物資を受ける。
主なルートは北極海ルート、イラン経由(ペルシア回廊)、そしてアメリカ西海岸からの太平洋ルートで、輸送船団がウラジオストクに寄港し、そこからシベリア鉄道で物資を運ぶ。
さて、ドイツ軍の強さとは、電撃戦(Blitzkrieg)と呼ばれる戦闘教義とされる。
単純に記してしまうと、先ず急降下爆撃機(Stuka)を初めとする航空戦力が敵軍を叩きのめし、次に戦車部隊が突撃をし、最後に機械化された歩兵が制圧する、というものである。
機械化された歩兵とは、歩行せず、移動を軍用トラックや装甲車両に乗って行う兵であり、要するに攻撃、移動、占領、補給を全て機械化されたもの(航空機、戦車、軍用車両)で済ませる事だ。
当然、情報も全て通信でタイムラグなく共有させる。
少し考えれば、これがいかに難しいかが分かるだろう。
戦場が整備された地でなく、雨や雪が多く、空は荒れ、大地が泥濘と化した戦場では?
そう、ドイツ軍の進撃の遅滞は、後方の軍用車両の多くがトラブルに見舞われたからだ。
更に、大量な物資輸送が可能な鉄道に関しては、ドイツとソ連では線路の軌間が異なっていた。(中央ヨーロッパは標準軌、ソ連は広軌)
尚、またも余談だが、旧ソ連のウクライナは、2022年のロシアの軍事侵攻から、欧州標準軌への段階的な改軌を決定している。
改軌は現在でも全土で実施するには、国土の広さと路線の規模にもよるが、膨大な予算を必要とし、何十年とかかる事業だ。(主要な個別路線でさえ数年はかかる)
ソ連は、同じく広大な領土を有するアメリカの頑強な軍用トラックを大量に貸与されたので、補給物資の移送トラブルは起こりにくかった。
幾つかある独ソ戦のソ連の勝因の一つに挙げていいだろう。
3
1942年6月28日からスターリングラード攻防戦(現在のヴォルゴグラード)が始まる。
南方軍集団をA軍集団とB軍集団と2つに分け、A軍集団はコーカサスの油田地帯の占領。B軍集団はこれを護るように北部に位置し、B軍集団の第6軍がスターリングラードの攻略に乗り出す。
スターリングラードとは、バクー(現在のアゼルバイジャン共和国の首都)を初めとするコーカサスの石油を、カスピ海からヴォルガ川を遡上するタンカー輸送路の一大拠点である工業都市だ。
ここを抑えることは、ソビエト連邦全土の石油供給を大いに断つ事を意味する。
ドイツ空軍による、激しい空襲が開始され、人口60万のこのソ連指導者の名を冠した、ヴォルガ川の南西に位置したこの工業都市は灰燼と帰す。
皮肉なことに、この壊滅が、ソ連軍が潜み、市内に突入したドイツ軍を大いに苦しめる。
両国指導者から指令が飛ぶ。
「一歩も下がるな!」
スターリンは自身の名の都市の陥落をどれ程の犠牲が出ようとも阻止を厳命。
「ヴォルガ川から下がる事は許さん!」
ヒトラーはスターリンの名の都市の完全破壊を厳命。
建物一つ。いや部屋一つを巡る文字通りの接近戦。
地下道や下水道から現れるソ連軍。更に瓦礫と化した建物に潜むソ連の狙撃兵が、ドイツの将校を射ち殺す。
またも冬の到来となり、市内の第6軍は次第にソ連軍の援軍に攻囲され孤立し、悪天候により空軍の補給物資も滞る。
第6軍を指揮するフリードリヒ・パウルス大将(Friedrich Wilhelm Ernst Paulus、1890年生まれ)は、撤退を度々求めたが、ヒトラーはそれを許さず、上級大将、元帥と彼を昇進させて行く。
「ドイツの元帥で降伏した者は居ない。任務を全うし、出来なければ死を選べ」
言外にそう含めた、異常な昇進人事であった。
1943年1月31日。
パウルス元帥は旗下の約9万の将兵と共に、ソ連軍に降伏する。
この第6軍を援けるためにエーリヒ・フォン・マンシュタイン元帥(Fritz Erich von Lewinski genannt von Manstein、1887年生まれ)がドン軍集団を率いるも、救出に失敗する。
だが、パウルス元帥降伏後に、B軍集団の残存兵を吸収し、一気に反転攻勢に出たソ連軍を鮮やかに撃退する。
マンシュタイン元帥は、ロンメルやハインツ・グデーリアン(Heinz Wilhelm Guderian、1888年生まれ)が活躍した、1940年の対フランス戦役時に作戦案を纏めた、ドイツ軍でも随一の戦略家である。(当時は中将)
一方、コーカサスの油田占領を目指したA軍集団は、既にソ連に因って、途上の油田施設が破壊されており、最大目的地である山脈を越えてのバクー油田には到達できず、総撤退している。
スターリングラード攻防戦における、ドイツ軍を初めとする枢軸軍(ルーマニア軍、ハンガリー軍、イタリア軍、クロアチア軍)の死傷者は約80万。
勝利したソ連軍の死傷者は約110万。
更にスターリングラード市内外で、戦闘に巻き込まれた民間人から約20万人の死者が出た。
こうして、独ソ戦はドイツ軍の大敗が起こり、クルスク突出部に対する大規模な戦車戦を迎える。
第5話 第二次世界大戦 スターリングラード攻防戦 了
この悲惨さは……。
「同志少女よ、敵を撃て」やジュード・ロウさん主演の映画でも有名ですね。
狙撃兵だけでなく、ソ連軍は多くの女性兵士がいました。
有名なのは女性だけで編制された航空連隊です。
特に第588夜間爆撃連隊は、その名の通りドイツ軍陣地への夜間爆撃をしていました。
Po-2という練習機で出撃して、投下時は機体をアイドリングしてます。
その滑空時の音が魔女の箒のようなので、ドイツ兵たちは彼女たちを>>Nachthexen<<(夜の魔女たち)と恐れていました。
って、サバトンにはこれをテーマにした曲があるのか。
興味のある方は「sabaton night witches」でようつべ検索!
個人的にはこのアニメバージョンがおすすめ。
https://www.youtube.com/watch?v=FEWnnUga5tA
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