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ルドルフとアドルフ  作者: 大野 錦


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第12話 アルミンとホルスト その1

12話目です。よろしくお願いします。

第12話 アルミンとホルスト その1


はじめに


 さてこうして西ドイツがWM(Weltmeisterschaft、ワールドカップ)で優勝しました。

 めでたし、めでたし、と終わらせてもいいのですが、プーマとアディダスの闘争が本格的に始まります。

 主役はルドルフの息子アルミンとアドルフの息子ホルストです。

 2人に関しては、第3話でちらっと書きましたが、成長し父親の会社に入った従兄弟同士のバトルです。



 1954年の「ベルンの奇蹟」はアディダスの知名度を一気に高めた。

 周知のようにサッカーワールドカップと夏季オリンピックは2年おきに来る。(UEFA欧州選手権は1960年から)


 1956年。メルボルンオリンピックに、ルドルフは長男のアルミンを、アドルフは長男のホルストを送った。

 あのベルリンオリンピックでアドルフがジェシー・オーエンスに対して行った成功を、父親たちは息子たちに託したのだ。


 ホルストは当時20歳だったが、これを見事にやってのける。

 多くのアスリートとの約束を取り付け、無償でシューズを提供し、アディダスシューズ履いたアスリートたちは勝利を収める。


 ホルストは分かっていた。

 無償で提供しても、選手が勝利すれば、それが宣伝になる事。

 そして、アスリートはそのうち引退する。

 彼らは大抵後進の指導や、場合に因ってはスポーツ関係の役員になる。

 彼らとの繋がりを維持して、更なる市場の拡大だ。


 アルミンは7歳下の従弟の成功に焦る。

 彼は遂に禁断の手段を使い始める。

 それは賄賂だ。

 選手に自社のシューズを履いてもらうために金銭を渡す。


 こうして自社のシューズを使用してもらう対価として、選手に金銭を渡すのが常態化して行く。



 ホルストは次第に両親のアドルフとケーテとの仲が悪くなっていった。

 原因は、彼の恋人で後の結婚相手のモニカ・シェーファー(Monika Schäfer)である。

 彼女はケーテのようなビジネスに関する知識もなく、どこか気難しい性格の女性であった。


 両親の彼女との結婚の反対を無視して、モニカと結婚したホルストは、アディダスの工場があるフランスのエルザス(Elsass、アルザス)に移り、アディダスのフランス責任者として両親の干渉から離れる。


 一方、アルミンの妻のイレーネ・ブラウン(Irene Braun)は、アルミンの良きビジネスパートナーだった。


 イレーネはアルミンの2番目の妻なのだが、アルミンが最初の妻と離婚し彼女と結婚するまで、彼女はプーマの輸出部門で働いていた。

 それ故、イレーネは各国に独自の人脈を持っていた。

 

 父親世代では、ケーテがビジネスパートナーとして、夫を助けていたが、息子世代では、イレーネがビジネスパートナーとしてアルミンを助けていたのだ。


 この頃から、プーマもアディダスもシューズだけの会社ではない。

 アドルフはシューズの製作にしか興味がない技術者で、彼がシューズ以外で製作したのはシューズを初めとする用具入れ。スポーツバッグだ。


 だが、両社とも各種ボール、ユニフォーム、スポーツウェア等々、シューズ以外の製品を次々に開発し販売していく。

 それらを主導し、それぞれの会社の規模を大きくしたのは、アルミンとホルストである。



 1960年。ローマオリンピック。(8月25日~9月11日)

 ドイツは「東西統一ドイツ選手団」として、1964年の東京オリンピックまで、東西の選手たちが一時期共に参加していた。(国歌はベートーヴェンの「歓喜の歌」を使用)


 ドイツの短距離走者にアルミン・ハリー(Armin Erich Hary、1937年~)という、当時もっとも速く、100mで9秒台が狙える選手がいたが(自己ベストが10秒ジャスト)、彼の履いていたシューズはアディダスだ。


 同じ名のアルミン・ダスラーは、彼をプーマに引き入れるために口説き落とす。


「どうです? ボーナス(・・・・)はこの中に入っていますが」


 アルミンは手にしたシューズの入った箱を渡す。中にはシューズと封筒に入った札束がある。


「分かりました。競技ではそっちを履いて出ましょう」


 アルミン・ハリーはこう言って、プーマで100mの金メダルを獲得した。

 因みにタイムは10秒2で、ジェシー・オーエンスのベルリンでのタイムは10秒3だ。


 表彰式。

 ローマまでオリンピックの観戦に訪れていたアドルフは仰天する。


 何とアルミン・ハリーは競技をプーマで、表彰式をアディダスを履いて現れたのだ。

 両社から金銭を得たかったのは言うまでもない。

 激怒したアドルフは、アルミン・ハリーをアディダスから締め出した。


 尚、このオリンピック閉会直後。

 秋の9月18日から25日に、同じローマで行われたのが、障害のある人たちの国際スポーツ大会。

 国際パラリンピック委員会は、これを第1回目のパラリンピックとしている。



 1966年。FIFAワールドカップ・イングランド大会。

 優勝は地元イングランド。準優勝は西ドイツ。

 だが、大会で一番華々しい活躍をしたのは、ポルトガルのエウゼビオ(Eusébio da Silva Ferreira、1942年~2014年没)であろう。


 ポルトガルは3位だったが、エウゼビオは9得点で得点王に輝いた。

 彼の履いていたスパイクはプーマなので、プーマはサッカーの世界で本格的にアディダスと双璧をなす存在となる。


 クラブでは、エウゼビオは1961年からSLベンフィカに加入しているが、このベンフィカは当時最強のクラブチームの一つであり、ヨーロピアン・チャンピオン・クラブズ・カップ(現在のUEFAチャンピオンズリーグ)で、60-61年と61-62年で2連覇をしている。


 初優勝時の決勝の対戦相手は、スペインの名門FCバルセロナ。

 当時のバルサには、コチシュ・シャーンドルとチボル・ゾルターンが所属していた。

 連覇時の決勝の対戦相手も、スペインの名門レアル・マドリード。

 当時のマドリーには、プスカシュ・フェレンツが所属していた。


 1956年に起こった「ハンガリー動乱」から、彼らはスペインに亡命していたのである。


 アルミンとホルストの争いは、もはや父親たち以上の状態となる。


 1968年のメキシコシティーオリンピックでは、ホルストは策を弄する。

 オリンピック関係者との深い交流を利用して、アディダス以外でメキシコで使用するシューズを納入するには、一足10ドルの関税を設定させた。


「くそっ! ホルストめ! 荷には次のように書いとけ!」


 アルミンはこの従弟の策の抜け道として、プーマのシューズの荷に「AD、メキシコ」と記載する。

 一見すると、アディダスシューズの様だが、これはアルミン・ダスラーの頭文字だ。

 

 だが、これは徹底した検査を命じたホルストの手により、全て税関職員に押収されてしまう。


 ここで各国とのパイプを持つイレーネが、何とか税関倉庫からプーマシューズを持ち出せる賄賂相手を見つける。


「私はホテルからドルの入った封筒をハンドバッグに入れ、税関倉庫に行ったのだけど、50足出すだけで、何千ドルもかかったのよ」


 イレーネは夫のアルミンにこう報告する。


 こうして、メキシコのそれぞれのホテルで宿泊するアルミンとホルストの部屋の前に選手たちが集まり、シューズと金銭を得るための列をなした。


 1970年のFIFAワールドカップ・メキシコ大会の数カ月前。

 アルミンとホルストの間で。

 そして、直接には会わないが、どうしてもビジネス上の話をしないといけない場合、双方の家を行き来する共に信頼出来る人物を介して、ルドルフとアドルフの間で、次のような協定が結ばれた。


「ペレ選手に対して、両社は一切の接触やスパイクの提供をしない」


 俗に言う「ペレ協定」である。


第12話 アルミンとホルスト その1 了

「その1」とあるように、「その2」がありますが、「その2」は数話たってからとなっています。

また、次回も閑話となります。



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【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

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― 新着の感想 ―
アルミン・ハリーさん、両者から、お金を貰いたかったら、右足プーマ、左足アディダスが、正解だと思います。 アルミンさんとホルストさん、ペレ選手に「両社は一切の接触やスパイクの提供をしない」ではなく、右…
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