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第13話 席替え

 クラスの一部から、「席替えをしたい」という要望が出た。ただ、その一部がいわゆるノイジー・マイノリティだったために、担任はあっさりとそれを認めた。

 代表格の男が、ニマニマとして話しかけてきた。


「どうよ、この阿良々城 孝志サマの発言力は」

「恐れ入ったよ。まさか、自分が教室の角に居て、周囲に女子が少ないっていう理由だけで席替えを強行するとは」

「いやぁ、そんなに褒められると照れちゃうぜ」


 褒めたつもりはない。


「目指すは両手に花――いや、「両手で花が咲く」毎日だぜ」


 ギラギラと目を光らせる孝志の視線の先には、当然と言うべきか、花と咲の二人が居る。口に出すか出さないかの違いはあれど、同じように考えている男子、あるいは女子は少なくないだろう。


「気になってたんだけどさ」

「おん?」

「可士和と早良――どっちにしても、本気なのか?」

「馬鹿野郎、俺は女子に対してはいつでも本気の本気だっつーの。あのふたりとどっちかとお付き合い出来たら、バラ色の青春が待ってるよな~」


 呆れたもんだ。例のモデルの子に対しても好いた惚れたと発言する割に、エルフの二人に対しても恋心を口にする。


「つまり、誰でもいいってことだな」

「身もふたもないこというな。俺はお前と違って彼女が欲しいんだよ」

「別に、俺だって欲しくないわけじゃ――」


 視界の端で、細長い耳がピクンと動いたのが見えた気がした。


「いや、彼女って、そういうもんじゃないだろ。彼女が欲しい、じゃなくて、この人を彼女にしたいっていうのが、あるべき形だと俺は思う。孝志なら、その本命が例の真鈴ちゃんとやらだと思ってたが、違うんだな」

「あ、それは言わないお約束……」

「始めるぞー」


 始業の挨拶のあと、ほどなくくじ引きタイムが始まった。学級委員長が黒板に座席を書き出していき、その中に番号を振っていく。

 出来るなら、後ろの席のままでいたいもんだ。

 さらに可能なら、廊下側がいい。

 これから夏になって行って、日差しがきつくなると、いくらエアコンがあっても腕が焼けてしまう。


 そうこうしている内に、半分くらいの席が決まっていた。そして、恐ろしいシチュエーションが出来上がっていた。

 教室の中央に、ぽっかりと空間が生まれている。その両サイドに、花と咲が居る中で、だ。

 まさか何かの魔法じゃないだろうな――と背中に冷たいものを感じながらも、俺ははたと、二人と親しくなれる場所は悪くないんじゃないかという気がした。

 いちクラスメイトとして始めて欲しい、とは確かに言った。だが、ふたりに惹かれている自分が居るのは確かだ。婚約者候補だから、ということではなく、自然な流れで彼女達と話が出来るようになったら、それは嬉しいことだ。

 次の人、次の人、次の人――どんどん席が決まっていくが、玉座のような中央座席は残ったままだ。出席番号的に引くのがラストになる俺は、詰まるところ、残った座席になる。

 残すは5つ。どの席も悪くないが、ここまできたら、どうせなら――……


「俺と替われ」


 全員のくじ引きが終わり、次いで始まったガチャガチャの喧騒の中で、孝志が泣きそうな顔で訴えてきた。本気の訴えに、思わず笑ってしまう。


「無茶言うな」

「だーっ、なんでお前がそんなに恵まれた席なんだよ! 納得いかん!」

「日頃の行いだな」

「くっそ~、これでお前があの二人とどんどん仲良くなりなんかしたら、ホントに呪ってやるからな」

「はいはい。次の席替えではちょっとくらいは動けたらいいな」


 すごすごと元の位置に戻った旧友を尻目に、俺も新たに決まった場所へと机を動かした。

 右には花が、左には咲が居た。

 ふたりとも澄ました顔で、なんでもないというふうに装っているが、耳がピコピコとせわしなく動いている。失礼な喩えかもしれないが、犬の尻尾を連想してしまった。


「よろしくね、月見里クン」


 咲が明るい笑顔を向けてくれる。だいぶ見慣れてきたと思っていたが、制服姿の美しいダークエルフを間近に見ると、あらためてドキドキしてしまう。


「よろしく、早良さん」

「ねぇ、座席が隣になったってことで、お互いに呼び捨てにしない? その方が気楽でしょ」


 にやりと咲が笑い、俺も釣られた。これで、学校の中と外で呼称を変えるなどという面倒はなくなる、というわけだ。


「こちらもよろしくお願いします、透さん」


 忙しく反対側を見て、花にもよろしくと伝える。


「あれ~、花は「さん」付けのままでいいの~? これを機に『いちクラスメイト』から『友達』にランクアップ出来るのに」

「わっ、私はこのままでいいんです! 親しき中にも礼儀あり、ですから」


 咲の言う通り、この座席で二人と話せるようになれば、少なくとも友達として関わって行けるだろう。その先に婚約があるかどうかはまだ実感がないが、エルフと関われるのはやっぱり嬉しい。

 それにしても、両サイドにこのふたりがいる状況は、俺という存在が見事にかすむな。ある意味、一番後ろの座席に位置するよりもずっと目立たなくなるかもしれない。


「みんな机の移動は落ち着いたな。それじゃ、次の話に移るぞー」


 担任が仕切り直した。

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