2 夢からさめたら
カネコリサマがあれやこれやで、なんやかんやてんやわんやで、ノワキと付き合うことになった僕は――
「さざれも好きかもしれない」
「別れましょう、スグル」
僕の新しい彼女はいつもクールだ。
「やっぱりおっぱいなの? わたしじゃ満足させてあげられない?」
「エルもいるからそんなことはないんだけどね」
「参考までに、どこらへんが気になってるの?」
「なんというか……気づいたら目で追っててさ」
「おっぱいを?」
「優しくつつみ込んでくれそうだし……」
「おっぱいで?」
「歩くたびに、ばるるんって音が鳴るし」
「おっぱいから!」
「いや、おっぱいからそんな面白い音は鳴らないよ……?」
どこからかエルが現れた。
「まあ、ノワキにはないから分からないか♡」
「どうしてあなたがここにいるのよ」
「もちろん彼女だからだけど」
僕らはミニストップのイートインスペースで休憩中だった。
「……いい? スグル。あの子の親友として忠告しておくけど」
「やっぱり脈なさそうか?」
「ユキは押せばヤれるわ」
だからこそダメってことみたいだ。
「優くんは顔刺し成功率100%、まどろっこしいテクいらずの最強ナンパ師だもんね」
「それほどでもないよ」
「ギリギリ貶したんだけどなー」
ノワキがずっと眉間にしわを寄せている。
「あれあれ、三股かけたがり優くんに不満アリ? なら別れちゃお! 電光石火で別れちゃお!」
「も、もちろんノワキとエル優先だよ? 二人が嫌がるなら僕は……」
「……別にいいけど、一つだけ約束して」
「なんでも言って!」
「ユキのおっぱいおさわり禁止」
「わかっ……、………………………………考えさせて」
「4秒だからえっと……1km360m先に落ちたよ!」
「ち〇ち〇取られちゃえばいいのに」
「ちゃんと隠れてるから大丈夫だろ」
「え、スグル……その下ネタはさすがにドン引きなんだけど……」
「優くんはズボンとパンツでってつもりだったと思うよ?」
彼女歴が長いだけのことはある。
「ノワキ、それ以外で頼めないか?」
「いっそプラトニックラブでもいいのよ」
「それじゃなんのために付き合うんだよ!」
「だからわたしも譲歩してあげてるの」
「カネコリサマの一件で、僕は他者と向き合うことの大切さを知ったんだ。だからさざれとも!」
「あれはヤ〇チンになれって意味じゃないのよ」
「あくまでノワキ優先にするから! さざれとは月1くらいにするからさ!」
「……わたしの許可取るのは絶対よ」
「そりゃもう!」
「その都度レポを提出してもらうわ」
「喜んで!」
「ならいいわ」
「やった!」
「そんな具体的な契約が本人不在の状態で締結されることあるんだあ」
自分のことを正妻だと思っているエルは終始笑顔で余裕そうだった。
☽
「っていう夢を昨日見たんだけどさ」
「海馬と海綿体が入れ替わっちゃったの?」
ノワキが渋面を作ってしまう。
「一回くらい釘で刺しといた方がいいのかしら」
かなり物理的な気配がする。
「ごっすんごっすんごすんくぎ~、優くんなにしてるの?」
「どうしてあなたがここにいるのよ」
「彼女だからだけど?」
正夢だ……!
「優くんなんだか嬉しそう」
「認知バイアスよ」
「でたでた、バカが好きな言葉だ~」
「今日も暑いものね、凍らされたいならいつでも言っていいのよ」
「デートを邪魔されたからって、そんなに怒らないでよー」
「どこへ行ってもあなたが途中で嗅ぎつけてくるからでしょ!」
「くんくん」
エルが僕の首元に鼻を近づけてきた。
「もんもん」
「スグル、こんなところで発情顔晒すようなビッチなんて放っておいて、場所変えましょう」
「私お腹空いたからランチがいいな~、モール行こっか!」
「最近のエルはツツジのこと馬鹿にできないよね」
こんな感じで途中から三人でのデートになるのも、今日が初めてのことではなかった。
「そうだノワキ、夢の話で一つ確認しておきたいことがあるんだけど」
「大丈夫よ、わたし別れる気なんかないわ」
「さざれが押せばヤれるって本当?」
「ねえエーデルワイス、あなたかき氷は好き?」
「大好き!」
しまった、エルが味方してくれないとは旗色が悪い。
逃げるか。
「シロップの味がどうたらこうたら」
「アイスクリーム現象!」
「ブルーハワイの味に決まりはないの」
「えっと、えっと……あ! 優くんいない!」
「わたしたちがかき氷あるあるネタ対決してる間に……」
☽
別に僕だっておっぱいだけでさざれに惹かれてるわけじゃないんだけどな。
そりゃおっぱいは大きいに越したことはないけど、他のところだって――
「あら? こんなところで奇遇ですわね」
「おっぱい! ――僕が悪かったから銃を突きつけるのはやめてほしいな」
「……はぁ」
それで許してしまうから相手はつけあがるんじゃないのか?
「更科さん、今日はリノとデートじゃありませんでしたの?」
「あいつなら運悪くカラスの糞を浴びて帰ったよ」
「調子に乗って怒らせて逃げてきたんですのね。源さんも一緒ですの?」
「ははは」
ちょっと見透かされすぎじゃないかな。
「あなたはお世辞にも甲斐性があるとは言えない男性なのですから、せめて目の前の女性を愛することには全力でいてくださいまし」
「口説かれてる?」
「あまり迂闊なことを言うと、リノの親友としてしかるべき手段に出ますわよ」
「そんな機会はいくらでもあったと思うよ?」
僕らは基本的に個人主義だった。
「さざれ、これから用事か?」
「更科さん?」
「冗談じゃなくてさ」
「……はぁ」
溜息が似合う女の子だ。
「今からワンパチの神社へ行くところですわ」
「なんて?」
「……失礼、八月一日さんですわ」
八と一と九を足して18か。
「……あんまりその名前で呼ばない方がいいんじゃない?」
「わたくしもそんな気がしていましたわ」
十中八九ズミ自身の命名だろう。
「それで、ついてくるなら構いませんわよ。魔術関係のつまらない事務連絡ですし」
「いいの?」
「なんのつもりかは知りませんけれど、わたくしに用があるのでしょう?」
「別に用はないよ」
「はい?」
「ただなんとなく、さざれに会いたかっただけ。そういう日ってあるだろ?」
「………………」
照れてくれるのが理想だったが、難しい顔をされてしまった。
「まったく、軽薄な方ですわ……」
「ついていっていいんだよね?」
「……どうせ言ってもあなたは聞かないのですわ」
これは押せばヤれそうだ。




