21 誰と誰が知り合おうと勝手だけど、面倒事だけは増やしてくれるなよ。
水分高校の放課後。
ストーカー業が忙しくてサボり気味だった陸上部ですが、最近は躑躅のストーキングをやめたこともあって毎日ちゃんと出ていました。優は偉いのです。
「はっ……はっ……はっ……」
勉強だけでなく運動も出来過ぎる万能人の優は、一年の頃に男子八種競技で偉大な記録を樹立したスポーツマンでもあります。風よりも迅く、岩よりも硬く、柳よりもしなやかなスタープレイヤー優は、今日も大会新記録目指して走ります。そう、今は長距離の記録を測っていたのです。
「ふっ……ふっ……ふっ……」
「更科のやつ、最近来ないから心配していたが、全くの杞憂だったな」
「あいつに限ってないとは思ってましたが。自主練してたんですかね」
安定したペースでトラックを駆ける優に、先輩たちは笑顔を浮かべます。なんといっても優は、十六夜躑躅をストーカーするために毎日街中を練り歩いていたのです。自主練習には事欠きませんでした。
「更科君がんばってぇーーー!!」「今年も全国行ってぇぇぇぇ!!!」「速い速いよっ、その調子!!!」「他の部員もついでにがんばれー」
「それに、あいつがいると黄色い声援が絶えないしな。俄然身が引き締まるってもんだ」「まあ、ほとんどの奴は更科しか見てませんけどね……」
100人を超える学校中の女子生徒が、優を応援しています。優はそれに応えるべく、わずかにペースを上げました。彼の成長はとどまるところを知りません。
……そんな水分高校女生徒たちの声援に交じって、異質な、よく通る、天使のような声が、二つばかり聞こえてきます。
「スグルー! がんばれーー!!」「わたしたちが応援してるのよ、自己ベスト更新くらいしてみなさい」
――なんであいつら普通にいるんだよ……。
グラウンド脇で躑躅と野分が、我が物顔で陸上部の活動を観戦していたのです。
「江川さんどうします、あの子……十六夜躑躅でしたか、また来てますよ……」
「もう放っておきましょう、向こうの学校もお手上げって雰囲気でしたし。なにか問題が起きても、更科ならなんとかするでしょう」
「まあ、そうですね」
――もう少し頑張って追い出してくださいよ……!
とても喋る余裕はない優は、躑躅の対応をあっさり諦めた教師たちを心の中で強く恨みました。
「こらスグル、ペースが落ちてるわ。ちゃんと走ってる? わたしたちはもうじき引退なんだから」
特に『更科』と書かれたジャージ上下に身を包んだ野分は、もう姿を隠す気もなくトラックの近くまで来ていました。彼女はしっかりと『八幡宮』を演じます。
不審に思った陸上部の三年生が、野分に声を掛けます。
「あの、何部の人ですか? この時間のグラウンドは陸上部が使うので……」
「わたしは水分高校三年の陸上部、八幡宮よ」
「いえ、あなたみたいな同級生、この部活にはいませんけど……」
「何言ってるの、三年間同じ部活だったじゃない。去年の総体は残念だったわね」
「勝手に悲惨だったことにしないでください。満足いく結果だったんで」
「ほら、あなたも一緒にスグルを応援しましょう」
「え、マジでこの人は誰……怖すぎるんだけど……」
「ふぅ……久々だしこんなもんか」
そうこう言っているうちにスグルは1500mを走り切っていました。
「スグル、お疲れさま!」「あなた、手だけじゃなく足もはやいのね」
「先輩、次いけます」
「よし、じゃあ準備するぞ」
「無視しないで! 自分の奴隷の面倒ちゃんと見るんだわ!」「ねえ! 聞こえてるでしょ!」
面倒そうなことは後回し。優はとても理知的でした。
……その時、玄関口の方がにわかに騒がしいことに気づきましたが……優はそれも無視しました。
「呼ばれて飛び出てみこここ~ん! 三手白神社のスーパーみこみこアイドル、八月一日九ちゃん見参です! 今の挨拶が最新の令和式神道の作法なので、みなさん覚えていってくださいね~。参道の正中は神様の通る道だから歩くな! 鳥居の前ではお辞儀しろ! そんなルール誰が決めたのでしょうか、巫女のわっちも分かりゃあせん! ……って、わふ? わおおん? おほー、めためたかわいいおにゃのこを前方2時の方向に発見! 我会敵す! 令和のハイパーみこみこナンパ師の腕の見せ所でありんす! へーいそこのみやびでぷりちーなお二人さ~ん!」
「ちょ、ちょっと待ってズミ! その格好のまま外に出るのはいくらなんでもだよ~!」
やかましく、無駄に冗長な口上と共に玄関口から出没したのは不登校気味なおちゃらけ少女、八月一日九。そして彼女を追いかけるように、エーデルワイスが息を切らしてやってきました。
九が言うかわいい少女たちとは、もちろん躑躅と野分のことです。彼女は二人の方へ迷わず走っていきました。
「なに、さっきからうるさい声が……って、えっ……!?」
「進学校っておかしいわ! うちとはベクトルの違う狂い方してるのね!」
二人は九を――水着姿で走り寄ってくる九を見て驚愕し、ドン引きし、そして危機感を覚えました。
このままでは――自分たちと衝突してしまう、と。
「スク水を着たかわいい女の子! こっちに来るわ!」
「ツツジ、逃げないと捕まるわよ……!」
「なんで逃げるの? 私は美しいものと関係したいわ!」
「ツツジのそういうところ、直さないといつか死ぬと思うのよね」
その場から動く気のなかった躑躅は、いくらもしないうちに九に捕捉され――
「ないすとぅーみーとぅー!」
「うひゃあ! びしょびしょだわ! はじめまして! 十六夜躑躅よ!」
「そりゃあさっきまでプールで泳いでましたから!」
二人は挨拶と同時にひしと抱き合いました。プールから上がった思いきや、そのまま体も拭かず着替えもせずにグラウンドに飛び出してきた考えなしの九のせいで、躑躅の制服が濡れてしまいました。
「この私のことはホズミックちゃんと呼ぶのだ!」
「分かったわ、とってもかわいいあなたはホズミックちゃん! 水に濡れて艶のある黒髪も、ぱっちりと開かれた黒目も、おっきくて重たいお胸も、合格よ!」
「なんてこった、こんなにも愛らしい素直な美少女がボクを間近に見ている! 野兎のような瞳、小鹿みたいな背中、ひかえめな甘い香り、あてぃしと同じくらい性的なおっぱい! そう、あたしは白状すると、もうずっとこんな出会いだけを待ち望んでいた! 穢れなき純白の翼を生やした私の天使!! ぎゅ~!」
二人はすぐに打ち解けたのです。
「ところでレンゲちゃんは、ここでなにをしてたんですかー?」
「レンゲちゃん! 素敵な響き、私のことね! 私はここでスグルを見てたの!」
笑顔で躑躅は指を差します。その先には最上の美を備えた更科優。九はすぐに理解しました。
「はは~ん。レンゲちゃんは更科優に惚れてるんですね~?」
「ううん、別に好きじゃないわ」
「あ、そ、そう……なんですね……」
いきなりドライな反応を示した躑躅に、九は気勢を削がれます。
「だって、今のスグルは分からなくて、見えなくて、だから醜いんだもの! そんな人好きになれない! だから私、スグルの奴隷になったんだわ!」
「はわわぁ、奴隷なのよ?」
「そうよ、美しいけど醜いスグルの、本物の麗しさを見るために、そういう風に関係しようと思ったの! 私は本当のスグルが見たいわ! それってきっととっても美しいはずだわ!」
「……そ、それは……この子には、魔力が見えてる、のかな……それとも、ただ、そういう思想……?」
「……?? どうしたんだわ、ホズミックちゃん?」
「なんでもないのじゃ、レンゲちゃんは妾のことなど気にせず、更科優の応援を存分にするがよいのじゃ!」
「そうするわ! スグルがんばってぇーー!!」
走高跳に挑戦中の優は、文句のつけようがない完璧な背面跳びで2mのバーを跳んでいるところでした。
「あれってどのくらい凄いの? 棒高跳びのことなんて分からな…………あ」
「ズ、ズミ~! そんな恰好でうろついちゃだめだよ、みんな見て…………あ」
またその脇では、野分とエーデルワイスが偶然の鉢合わせをしていました。
視線がバッチリ交差して、戦闘開始です。
「どうしてここにいるんですか、八幡先輩」
「ねえ、あなたもう忘れたの? バカなの? わたしは陸上部の三年生、八幡宮。スグルの先輩なんだけど?」
「それならこんなところで立っていないで、自分の練習に集中したらどうですか。三年生はこの夏が最後ですよね」
「それを言うならあなたこそ、部活はどうしたの? スグルからあなたのこと聞いてるわ、水泳部なんでしょ。あそこでツツジと話してる子は部員? 随分自由なのね」
「っ……ズミは突然泳ぎたくなったって言ってプールに飛び込んできただけです、部員じゃありません。それに、部活はもう終わりましたから。だからこうして更科くんの応援に来れてるんです。部活をせずに、ズルしてる先輩とは違って」
「ズルって……ふふ、幼稚ね。わたしがどうしようとわたしの勝手、あなたに指図される筋合いはないわ」
「そ、それは……そうです、けど……」
元来心優しいエーデルワイスに口論は不向きでした。それでなくてもこの状況は彼女が野分へ一方的にいちゃもんをつけている図なのですから、優でもなければ野分を言い負かすことは難しかったでしょう。
「聞いてくださいよレンゲちゃん、漫画とかでよく『学年一の美少女』って表現あるじゃないですか? でもせいぜい百数十人に一人のかわいさって大したことないよなぁって思うんですよ!」
「それとっても分かるわ! どんな作品の美少女を見ても、現実だったら絶対私の方がかわいい! って思うんだわ!」
「なんたってあっしたちは学年どころか世界規模でも有数の美少女でごじゃりますからね、お頭!」
「あたぼうだわ!」
「おぉ~よしよしよし、物わかりのいいワンコロだねえ」
「へっへっへっへっへっへっ」
美少女たちが仲を深めている一方で、真面目な優は真面目に部活に取り組んでいました。
「更科、次は」
「疲れも取れてきたので、短距離行きたいです」
「そうだな。今ライン引いてるから待ってろ」
「はい」
……優はほんの一瞬だけ、自分のために集まった彼女らを放っておくのは少々無責任かと思い、先ほどから騒がしいグラウンド脇へ視線を向けましたが……
「それゆけ忠犬レンゲ、このフライングディスクを取ってくるのです~! ヤー!」
「わお~~~ん!!」
「分かったら、わたしに話しかけないでくれる? 下級生の相手してるほど暇じゃないの」
「でも、それでも……私は更科君の……え、あわわっ、なんか飛んできたぁ……っ」
「エルルン伯爵令嬢! そっちにディスクと犬が行っちゃったから頑張って避けてみせよ!」
「えぇっ、ちょっとズミ学校でなにして……きゃああっ」
「わふーっ!」
「あら、獣が突っ込んできたと思ったら親友じゃない。また悪ノリしてるのね。おかしいわ」
「と、いうか――あなた……十六夜躑躅……またこの学校に来たの……!?」
……彼女らのから騒ぎを見て、やはりこのまま部活に専念しようと、固く心に決めたのでした。
「ズミ、十六夜躑躅と知り合いなの?」
「前世からの盟友でござる!」
「初対面なんだね。ズミ、分かってるよね? 十六夜躑躅って、あの……」
「ねえツツジ、あなたあの頭のおかしいスク水痴女と仲良くなっちゃったの? バカが感染るわよ」
「前世からの盟友だわ!」
「そうね、あなたは元からバカだったわね」
「私は賢くて気立てのいい完璧美少女十六夜躑躅!」
その頃には、奇しくも集まってしまった四人――というより、九――の姿に引き止められた男子生徒たちが、
「なあ、あの女子たちヤバくね? 源さんが溶け込めるレベルの美少女集団」「てかあの痴女よく見たら八月一日じゃん、D組の」「なにあの恰好、胸も太もももむちむちえっちっち……」「スクール水着で外出歩くとか、なんらかの法に触れてるだろ」「あれ学校指定のじゃなくて、旧型のスク水じゃん。やっば」
「日常/非日常の狭間に置かれた美少女ってのがあるよな」「この混沌とした状況に『実在性』という補助線を引くと……」「それで近年のきららアニメは学校という共同体から抜け出て学外に居場所を見出していくようになったんでござるよ」「え、彼女がこんなところで水着を着てるのってそういうメタなんですか?」「そういう見方もできます」「八月一日九って真実のお嫁さんなんかなぁ?」
九は一部の男子生徒から「外に連れ出してくれそう」という理由で人気でした。青春の正道を歩めなかった男子の嗜好というのはよく分からないものがあります。
それらの視線に気づいた、九はと言うと。
「……あ、あの、エル……出来たら、か、カーディガン……貸して……」
「ズミ? 急にどうしたの?」
「れ、冷静になって……周りからの視線、が……。あんまり、見られたく……ない……」
「もう、考えなしに行動するからそうやって恥ずかしい思いするんだよ? 反省しなきゃだよ?」
「はい……ごめんなさい……」
自らを客観視して、すっかり意気消沈してしまった九にカーディガンを羽織らせたエーデルワイスは……今度は敵意を滲ませた目で、例の二人に相対しました。すなわち、この場における部外者である、白住学院のお二方です。
「あの……あなたが十六夜さん、ですよね」
「そうよ! 白住学院では美の神アフロディーテーに喩えられる万年に一度の美少女、十六夜躑躅だわ!」
「十六夜さん、そこの八幡先輩とお知り合いなんですか?」
「え、誰なんだわ……? この子は私の親友の」
「えい」
「きゃいんっ」
野分はかわいい掛け声と共に、躑躅の頭を横からがっつり殴りました。白住の生徒は暴力の行使に躊躇がないことが特徴です。
「ええ、そうよ。水分高校三年の陸上部所属八幡宮は、十六夜躑躅と知り合いなの。そうだったわよね、ツツジ?」
「い、痛いわ痛いわ! 脳味噌ぐしゃってなったわ! なんで殴ったんだわ、ノ」
「てりゃ」
「ぎゃんっ」
「わたし・八幡宮と、あなた・十六夜躑躅は知り合い。分かる?」
「は、はい……そうです……私ツツジ、あなたミヤコ……オトモダチ……」
躑躅はわりと暴力に屈する女でした。それは白住の生徒の共通認識だったので、彼女のなよやかな矮躯には常に痣が絶えません。
「そうですか。十六夜さん、あなたも更科くんに会いに来てるんですよね」
そしてエーデルワイスは今のやりとりを少しくらい訝しんでもいいはずなのですが、九のクラスメイトとして彼女の奇行を常日頃から目の当たりにしていた影響から、これしきの不審な行動は気にならなくなっていました。
「そうだわ! だって私はスグルの奴隷だから!」
「ど、奴隷……」
エーデルワイスはひどい立ち眩みがしました。
いざ躑躅の口から聞かされたその言葉の重みに、思わずたじろいでしまったのです。
「そう、ですか……ああ、そうなんですね……」
しかし、どうやら彼女はそれで逆に冷静さを取り戻すことができたようでした。なにせ彼女は今の今まで優に秋波を送る野分に腹を立てていて、目の前の物事が見えていなかったのです。
「……八幡先輩。あなた、不知森野分ですよね」
「あら? どうしてこのタイミングでいきなりバレたのかしら……」
別に正体がバレてもいいと思っていた野分は動揺こそしなかったものの、そのあまりに急な身バレに困惑したのです。
逡巡の後、エーデルワイスは答えました。
「……十六夜躑躅と不知森野分は仲良しの美少女コンビとして有名ですから」
本当はこんなこと言いたくなかったエーデルワイスは、少しバツが悪そうでした。
「ミヤコ! 私たち仲良しで有名だって!」
「もうノワでいいわよ」
「ノワ! 嬉しいわね!」
躑躅は野分に抱きついてしまいます。
「急に飛び込んでこないで」
「そんなこと言いながら私を抱きしめ返してくれるノワは優しくてかわいい! 大好きだわ!」
「……おかしいわね」
野分はこの四人の中で最も身長が低いので、躑躅と抱き合うと子供のようでかわいらしいのでした。
「まあいいわ。そうよ、わたしこそ白住三女神が一柱、知恵と戦勝を司る神アテーナー。あるいは【氷結のカサブランカ】不知森野分。覚えておきなさい」
普段の野分ならば、このように痛々しい名乗りを上げることはなかったのでしょう。けれど今は躑躅が甘えてきて気分が良かったので、ついやってしまったのでした。
「それで? スグルと同じ学校ですらないのに仲良しなわたしに、ただのクラスメイトのあなたが何の用なのかしら」
「かしらかしら、何用かしら!」
「なんでだろう……ちゃんと日本語で会話してるはずなのに話が通じてない気がする……」
一方で、エーデルワイスは自身がおきあがりこぼしを殴っていることに気づきつつありました。
「すんすん……あれ、スグルの匂いがするわ?」
「スグルのジャージだもの」
「…………」
エーデルワイスはだんだん自分のしていることが徒労に思えてきました。
「そうだ、金髪のかわいい女の子!」
「なんにでもすぐ『かわいい』って言う薄っぺらな女みたいね」
野分との仲を褒められた躑躅は、エーデルワイスを気に入ったのです。
「あなたはスグルが好きなの?」
「そ、それは……」
「ぷっ、隠さなくていいでしょ。だって丸わかりだし」
「……っ!」
エーデルワイスはムッとして野分を睨みます。二人はあまり馬が合わないようでした。
「それなら何も争うことはないわ! 一緒にスグルを応援するんだわ!」
「え、えぇっ……」
人の心の機微に敏感な躑躅は、エーデルワイスの怒りの根源が明らかになった途端に彼女の手を掴んで、
「あなたも友達だわ!」
「話に聞いてた通りの変な子だよ……」
自らの横にぐっと引っ張ってきてしまいました。エーデルワイスは眉をハノ字にして困り顔。
「あなたのお名前教えて?」
「……み、源エーデルワイス」
「エル! よろしく!」
「距離が近いよ……」
「で、水着の痴女、あなたはなんなの。関係者なの、部外者なの?」
「こりゃ失礼、あっしは八月一日九ってもんでさぁ」
「名前を聞いたんじゃないんだけど」
「ホズミイチジク! だからホズミックちゃんなんだわ!」
「そうなのですよ。ちなみにこう、こう……こんな字で」
地面に『八月一日九』と書く九。
「とっても不思議な字面ね!」
「でしょ~、ちょっくら聞いてくれやレンゲの姉貴、あれは遡ること明治初期、穂積本家の老いぼれ共は、苗字の義務化に従って差別化のためだけにあっしたちを『八月一日』だなんてへんてこな表記にしよったんですわぁ。まっことくだらねえ見栄坊ばかりであっしらはてんてこまい、分家だってあのまま穂を積んでいきとうございました……」
「大変だったのね!」
「わたしはあなたを何て呼べばいいの?」
「ウチのことを名前で呼ばないかわいい女! キューちゃんで!」
「キューちゃん、あなたテンション高いわね。ツツジとちょっと似てる」
「「それほどでもあるわ!」」
「あぁ……ズミがこの二人と意気投合しちゃった……なんか嫌だな……」
「薄雪草なら、あなたもユキね。どうもユキ2号」
「誰のこと言ってるんですか八幡宮さん」
「それじゃあ今日の部活はここまで。地区予選ももうすぐだ、気を抜くなよ」
「「「はいっ!!」」」
「それと明日だがな、部活は予定通り……」
女四人揃ってやかましい話をしているうちに、すっかり部活は終わっていました。
ちょうど揃っていたので、優は例の術を使ってみました。
――《片恋目》。
「更科もようやく部活に戻ってきてくれたんで、明日からもしっかりとやっていくぞ。更科、いいな?」
「……あ、はい!」
やはりまだその効力はゼロだったので、優はすぐにその眼を引っ込めました。
――まあ、あの四人が揃って殺し合いの喧嘩に発展しなかっただけマシか。帰り際もあいつらに捕まらないようにしないと。
とても部活を終えた後とは思えない、涼し気な顔で微笑むスグルのそれは、ほほえましい青春の一幕なのでした。
なにやらグラウンドが騒がしいことに気づいた縁「混ざりたい……けど、いざ行ったらぜぇーーーーーったい後悔する気がするので、大人しく帰宅します!」




