1 学院を護りし者……ですわ。
よろしくおねがいします。
――燃え盛る炎の中を、一条の金色が奔った。
まばゆいばかりに閃く光と見紛うそれは、一人の少女。
「追いかけっこはおしまいですわ、粗悪品の皆さま」
炎々と広がる災害現場に揺らめく金の正体は、この国では珍しい彼女の特徴的な髪色が魅せる幻影であり。
「ひぃっ!? く、来るな、このバケモンが!」
「んなもんどっから手に入れやがったんだよ、チクショウッ!!」
またその金髪よりいくらも珍しいのが、彼女が右手に構えている一丁の拳銃であった。
グリップに施された荒波と三日月の紋は、既存のあらゆるピストルにも見られないものである。
故にその紋が――海と月の家紋が示すところは一つ。
「この世界には、魔術というものが実在しますの」
――その拳銃は科学の産物ではない。
「世界のあらゆる物質は、魔力という不思議な力によって構成されていますわ。科学ではそれを、原子などと呼んでいますけれど」
金髪の少女が片手で悠々と構える拳銃――その銃口から伸びた緑のレーザー光は、15m前方で腰を抜かして怯えている凡夫の額を撫でる。
「わたくしたちが生きて、会話をし、触れ合い、食事を摂り、眠りに落ち、恋に落ちることさえも――魔力の複雑な働きによるものでしかありませんわ」
少女が優雅に語るは、この世の真実。永い歴史の中で権力者達により迫害され、重宝され、秘匿され続けてきた世界の原動力。
「ですから、気にすることではありませんわよ。魔術の存在を知らない一般人が束になったとしても、わたくしのようなか弱い少女にすら指一本触れることができないのは――それは自然の摂理、仕方のないことなのですから」
――バスバスバスッ!
「うっ――」
「がっ――」
少女がトリガーを引く度に、拳銃の形をしたその凶器は、男たちを一人、また一人と途轍もない衝撃で炎の大海原へと吹き飛ばしていく。
「我が国の魔術師が防衛省と手を組み開発した魔法化学兵器――《X‐0γ》。よく御覧なさいな、まだ貴重なんですのよ」
――バスバスバスッ!
かかる無惨な光景を眺める少女の双眸に、一切の躊躇いはなかった。限界まで研ぎ澄まされた神経はただ眼前の粗製濫造された者共を片付けることのみに注がれていた。
「や、やめろおおおおおぉぉぉぉ!! ふざけんな、こんなの軽い冗談で――」
「さようならですわ」
最後の一人が大音声を上げて命乞いをするも、金髪の少女の意志は固い。
「ぁ――――」
無慈悲にも撃ち放たれた魔弾は男を淡々と地獄の痛痒へと誘う。それはまた、少女にとっての作業が終了したことをも意味していた。
…………。
「ふぅ……」
自らの役目を終え、警戒を解いた少女は腰に手を当てて一呼吸。
「さて……あちらは今頃、上手くやっていますかしら。心配ですわ」
爛れるような熱の中で一人、眉を下げて微笑を浮かべる少女の姿は、嘘のような慈しみに溢れていた。