大型犬のようなその男は…
肌の透けたガウンに着替え、わざと振り乱した髪。
オトコを誘惑する化粧。
私の言う通りに、身支度を手伝う侍女に私は身体を委ね、マニキュアを塗った。
皇族とはいえ重要度の低い身分ゆえ、侍女はお気に入りの子しかほとんど部屋に入れることはない。
「あの、こちらの殿方ですが……」
侍女が何か言いかけたが、どんな身分でどんな姓のものでも私が取る行動は同じ。
それより一刻も早く、一人きりの空間に戻りたかった。
「いいわよ、どうでも。それよりも早く殿方をお通しして。」
身支度は十分に整えられていたが、侍女はモジモジといているままだ。
「で、でも……いえ、分かりました。」
私の命令は絶対、を遵守する可愛い侍女は何か言いたげだったけれど、私にどやされるのを恐れ、言うのを止めたようだ。
誰が来ても、ベッドに誘い込んで脅しつけて帰すだけ。
侍女は求婚者を呼びに部屋を後にして、数分後のことだった。
普通は侍女が部屋に入ってもいいかの確認をする場面だが、低くて心地のいい声が先に耳に響く。
「入ってもいいでしょうか、殿下。」
「…、え、ええ。」
堂々とした声色に少し驚いたが許可を出すな否や、私の部屋の扉は開いた。
「わぁ、本当だ。寝室に通すのですね、皇女。そしてそのお召し物。セクシーでいかにもオトコを惑わす服装だ。」
案内する侍女よりも先にバタバタと入ってくる足音。これまた恐ろしく顔の整った男。
爛々とした目を輝かせた、この国では見たことの無い大柄。緑の目がふわふわの髪から覗いている。
ここまで整っていたら、社交界では求婚が耐えないはずだ。
大変ね…名前くらい聞いておくのだった。
しかも、この男どこかで見覚えが……。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
この男も帰るように仕向ける。それだけ。
侍女はいつもの事ながら足早に部屋を去っていた。
「皇女殿下、お久しぶりですね。こんなにお美しくなられて……。麗しい瞳、唇。あの時のままだ。」
私はやっぱりこの男に会ったことがあるらしい。