皇族が似合わなすぎます。
浴室からそーっと出ると男爵家の男はもう居なかった。
代わりに、侍女がいた。
「皇女殿下、男爵様は泣きながら謝罪をして帰られました。」
いつもの光景がゆえに侍女も、顔色ひとつ変えることはない。
誰1人とも、身体の関係を持っていないことをバレないのかと思うかもしれないが、こんな不名誉な求婚の話を吹聴する男はこの世に存在しない。
むしろ、ベッドでは可愛かったなどと、嘘を言う者までいる。不敬罪でとっ捕まえたいところだが、私にとってはむしろありがたい。
私はガウンを着直すと、侍女が口を開いた。
「皇女殿下、本日は隣国の皇太子様との親睦会が入っております。」
「ああ、ファビエンヌ王国の……。」
小さな我が国とは違い、多くの資源と富を誇る王国の皇太子達が1週間ほど前から親睦のために訪れていた。
ファビエンヌ王国の皇子は2人、絶対的な権力を誇る長男のジェイド。彼は冷酷だが整った顔ゆえにお姉様達もブロマイドを持っているほどだ。
次男のレモンドは、2m近くある大柄な男で、対照的にふわふわのくせ毛が栗色で可愛らしいと聞く。
流石に隣国の皇子と会うのにスケスケのガウンではいけないので、それにしてもセクシーなざっくりとスリッドの入ったドレスに身を包むと、侍女には髪型を整えるように指示をした。
「殿下の髪の毛はサラサラにございます。それにしても…憂鬱そうですね。」
「そりゃ、そうでしょ。相手だって嫌々だろうし。ジェイド様………ね。」
なぜ、大国の皇子が第三皇女と2人きりの会食を持ちかけてきたのかは分からないが、皇族の全員と2人の時間を設けているのかもしれない。
相手は覚えていないかもしれないが、長男のジェイドとは幼い時に親しかった事がある。
ユリシア王国と、ファビエンヌ王国は規模はだいぶ違うが、昔から親しい国として留学生や親睦会が後を絶たなかった。
次男のレモンドも、会ったことは何度もあるのだが、印象には無い。
「殿下、このような髪型はどうでしょうか?」
清楚の欠片もない、誰が見てもはしたないと言うであろうドレス、それに合う宝石、髪型。
娼館に居ても驚かない、むしろ皇宮があまりに似合わない私の完成だ。
「さて、行くわよ。」
自室のドアを開ける侍女が小さく呟いた言葉は、私の耳には届かなかったようだ。
「なぜ、皇族でも…いや我が国でも1番の美貌を誇るユアン様はこんな風に無茶をされるのでしょうね……。」