男を惑わす事が護身術です。
第三皇女と言っても皇族は皇族。
求婚は免れない。これを断ることなくうまく返すことが私の結婚もせず一生皇族のタダ飯食いとして生きる術なのだ。
「お見えになったら寝室に通しなさい。」
普通、子息が求婚に来るなら着ないようなシフォンの肌がよく透けるガウンを身にまとった。
その下には体のラインがよく出る肌着のような短い丈のドレス。
お姉様には似ても似つかなかった、くるくるの髪の毛は纏められずに、体たらくさを物語っていた。
とてもとても…婚前の男性に見せてもいいような格好ではない。
それから紅茶一杯と3枚のクッキーが無くなる頃、小さな咳払いとノックの音が響いた。
「皇女様、男爵家のビッシュでございます。ほほ…本当に寝室へ入っていいのですか?」
少し、震えの入ったような声。
「ええ、どうぞ。」
4枚目のクッキーを皿に戻して、私は薔薇の花びらが散るベッドへ横になった。
キィ
顔を赤くした若い男。
「ここ、このような……え、えと…この度はお会いできて光栄でございます、皇女様。」
普通なら肌の見えないドレスを着て、客間や庭園でおしゃべりでもするのもしれないが、私は夫にも見せないようなセクシーな服に場所はベッド。
恐らく、噂は本当であったかとドギマギしているのであろう。
誰とでも寝てしまう、皇女。
そして、皇女と関係を持った者は結婚どころか、もう二度と宮殿に現れることはないというのが有名な話だ。
結婚した者に純潔を捧げるのが一般的なこの国では、私のような淫売はとんでもなく軽蔑された。
それでも、求婚者が耐えないのは流石皇族って感じよね、と小さく呟くとベッドに男を招き入れる。
「さぁ、噂は知っているでしょ。脱いで…早くこちらに来なさい。」
ただ、勘違いはしないで頂きたいのだが、これは私が自分を守る術であって、誰にでも身体を許せるような女ではない。
もちろん、1度もそのような行為に至ったことがないのだ。
どのようにこの場を切り抜けるかというと、下着1枚に剥かれた男の顎に指を添えながら、お決まりのこのセリフ。
「求婚に来たのよね?ええ、いいわ。結婚してあげる。その代わり、毎日あなたのお尻に私の腕を刺させてね。雄叫びをあげるあなたの声を聞きたいの。その頃には女の子みたいに善がるんじゃないかしら?
あれが薔薇の花のようになるまで可愛がってあげる。
1日10回、私と関係を持ってもらうわ。これから一生。1度でも完遂されない日があったら……そうね、男色の館にでもあなたを貰ってもらおうかしら。」
生娘の私には言葉にするのも躊躇われるような単語達。
そう耳元で呟くと、男はガクガクと震え出した。
「私は湯浴みして清めてくるから、その間に覚悟しておくのよ?」
とガウンをストンと落とし浴室に向かう。
そう、これが私の護身の術。
おかしいわよね、身体の関係を求めることが私を老人の貴族と結婚させない術なのだから。