今さえ乗り切れば平穏な筈。
「そ、そうよね。初めてはロマンチックじゃないと…。」
別にレモンドとの初めてで……とは言ってないのだが。
どうにか今のレモンドに客人が泊まる別邸に帰ってもらうには丸く収めるしかなかった。
キラキラと目を輝かせる大型犬。
「そうだよね?!結婚式もさ、華やかで…綺麗で…その日だけは兄様にも他の奴にもユアの綺麗なところ見せてあげる。でも、次の日からは絶対見せないんだ。毎日20回!ユアの事毎日抱き潰して、外出られねぇようにして……」
まだまだ色々言ってたかもしれないけど、とりあえず帰ってもらうことしか頭にない私には雑音でしかない。
熱の篭った目で私を見ているレモンドの頭をぽんぽんと撫でると、幼い時の可愛いレモンドに少し重なった。
「とりあえず、今日はお部屋に帰りなさい。
また後で食事しましょう。」
もう二度と部屋には、入れない。
そして、公の場で婚約は断れば身の安全は脅かされないのだ。
まだ恋人でも無いのに、2mの毛玉は私の首や頬に口付けて抱き寄せて別れの言葉を囁いた。
内容は、また必ずとか近いうちにとか在り来りな文句だったと思う。
自分の身の危機を脱した事を喜ぶことしかできない私。
そして、もう淫靡な女の振りはやめよう。
そもそも、こんな事は無茶があったのだ。
男が帰ってくれなかった場面で、また大変なことになる。
しばらくハグとキスを繰り返してなかなか帰らない筋肉を半ば無理やり部屋から出して、またねと私も呟いて手を振った。
「ユア、また来るから!」
ぶんぶんと手を振るレモンドを私も手を振って見送ると、レモンドが部屋から出てきた事を察して侍女が近寄ってきた。
疲れた顔の私と、いつもより大分多めにかかった時間で侍女は今回は、並大抵でない事が起きたのだと悟ったらしい。
「殿下、また湯浴みの準備致しましょうか?」
「結構よ!」