第166話
義兄上は、僕に輝若丸様を託すと去った。
「くっ」
三好は悔しそうになっている。最初は友好的だったが、もう今や立派な敵だ。いずれ戦は避けられないだろう。それがいつになるかはわからないが。しかし三好的には今、今川家の勢力は増している。畠山殿も所詮はこちら側の派閥だ。しかし繋がりを増やしたい。確か畠山殿には嫡男がいたが、そちらも既に婚姻を結んでいたと記憶している。しかし未だ子供は居ないようだ。まあ子供ができたら今川家縁故のものを正室として送れば良いだろう。場合によっては僕自身の娘もあり得るし。まあ第一子は輝若丸様の正室になるんだけれど。
僕は悔しがっている三好殿を遠目で見ながら直ぐ様退出した。そして、義兄上の元に行った。もうこれからは、僕が預かるから、義兄上は滅多に会えなくなる。だから会ってもらう。その間に朝廷に挨拶に行く予定だ。まあ最後の親子3人で楽しめる時間だ。義兄上たちはさぞ辛いと思うが、これが慣例なそうなので我慢する必要があるんだろう。将軍家に生まれなくて本当に良かった。
義兄上に輝若丸様を返すと、そのまま急いで朝廷に向かった。しかし、今回は少し雰囲気が違っていた。なんか皆慌てているのだ。それに今までよりも多くの公卿が詰めかけている。帝が体調を崩されているのは知っていたが、そのためなのか?僕は気になったため、親交を深めている貴族に聞いた。
「久我殿、これはどういうことだ?」
「帝の容態が悪化された。それ故に殿上人が集まっている。今川殿、今日謁見する予定だったのだろうが、会えるかはわからぬ。かなりあぶないようだ。」
「それは何と言えば良いのか。」
「本当にそうだ。今川殿も出世し忙しくなられた。なかなか蹴鞠が出来なくて残念だ。」
「こちらも同じです。」
「改めて結婚おめでとう。今や関白様と、義兄弟ではないか。関白様は将軍様の義兄、今川殿は、将軍様の義弟だ。」
「そうですね。」
「今川宰相殿、帝がお呼びだ。」
「すみません、先に失礼します。」
「気にするな、友だろう。」
「帝、今川参議氏真、帝のお呼びにより参上致しました。」
「入れ」
帝はとても弱っておいでのようだった。半年ほど前に会った時もそうだが、今はもう起き上がれないようだ。更に悪化されたようだ。
「近う、御簾の中に入るが良い。」
「それは恐れ多いこと。」
「其方を我が臣として持てて幸せだ。良いから参れ。」
僕は帝の押しに負けて、近づいた。周りには関白様や、皇太子殿下などの身分の高いお方がいるから緊張するのだが。
「いったん下がるが良い。朕は参議と話したい。」
「はっ」
周りにいた高位の方々は全員いなくなってしまった。こうして2人になると余計に緊張するのだが。




