第160話
次の日、僕は朝食を政姫様と共にとった。これは結婚して、すでに半年ほど経っている今でも初めてのことだ。朝食の間は結局全く離さなかった。というよりは、僕が女性に対してはコミュ障でまともに話せない。照れるわけではないのだが、なんか怖いのだ。
「若殿、此方へ、正式な日ですから直垂を着てください。」
「わかった。」
「奥様にも、衣装を用意しています。西陣織と言われる、織物で作らさせました。」
「そうなの?ありがとうね。」
「いえ、今川家の持つ財力を出すためなので気にされる必要はありません。若殿の隣にいて恥じないようにお願いします。」
「わかったわ」
僕と政姫様もどちらも着替えが終わったようだ。2人とも、なんかすごく豪華で少し変な気がするが、権力闘争が強まっている今では、軽い格好は下に見られる可能性もあるので出来ない。家臣団もきちんとした格好をしている。政治はやはり面倒だとしか思えない。
「若殿、奥様、出発の準備が完了いたしましたことを輿にお乗りくださいませ。」
「うん」
僕は輿が嫌いだったし、目の前だから普段は乗らなかったけれど、今回は素直に乗った。三好が許されていない輿に乗るのは三好にとっては悔しいだろう。しかし、これが家格の差というものなのだろう。所詮は三好は阿波細川家の家臣であり、陪審だ。今は主家たる細川家を裏切って、将軍家に直接従っているが、実際の家格はだいぶ下だし、今川や足利と違って自称の源氏だ。ある意味僭称だ。朝廷も把握しきれていないから認めているが、実際は僭称な家が多い。本当の源氏は数少ないのだ。それが今川家や足利家として現在は続いているということだ。
御所に着くと、誰か忘れたが幕臣が待機していた。普通は坊主だから、これも特別扱いの一つだろう。
「今川宰相様、御簾中様よく参られました。御簾中様には、御台様がお呼びです。宰相様には、控え室に一度行っていただき、上様との謁見に臨んでいただきます。」
「わかった。」
僕はそのまま、幕臣について行って、政姫様は、侍女について行った。
控え室はもちろん僕専用のだ。そこに仕事が少しあった、代わりにやってくれということだろう。まあ仕事が大変なのは理解できるが、押し付けてほしくはない。まあ代理をできる人間が、あまりいないのもあるだろうけれど。重要な書類では。控室に入って少し経つと坊主がやってきた。
「今川宰相様、毛利様が挨拶を望んでおいでです。」
「そうか。許可しよう。」
毛利がやってきたようだ。恐らく尼子と大友を止めてくれということだろう。まあ少しは協力してやるつもりだ。もしあのニ家が停戦命令を破いても特に何もしないけれど。こちらも自分達の戦さがあるから、あまり他に手を回せないし。毛利はもうすぐにでも救援が欲しいのか、坊主についてきていたようだ。それだけ戦況が苦しいのかもしれないな。