第159話
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「若殿、お帰りなさいませ。上様はなんと?」
「それは言えぬ。藤枝美濃守を呼べ。」
「はっ、こんな夜分な故にすでに役宅に下がっていますが、それでも良いですか。」
「ああ緊急だ。後は電報を打つ。」
「はっ、なんと?」
「二郎、耳を貸せ。」
「はっ」
僕は耳に対して囁いた。
「大陸に出兵する。その許可と軍の用意をするように。後、紀伊国に、畠山某というものを京に連れてこいと。もう一つ、大和国に高貴な子供が過ごすための部屋とその従者の部屋を用意せよと。」
「はっ、すぐに行います。」
「うむ」
僕はそのまま部屋に戻った。これから大変だ。今川家の立場は上がるが、それに伴って責任も重くなるし、妬みもひどくなるだろうから。
「若殿、及びに応じて参上いたしました。」
「よくきたな。」
「はっ、それで何故このような時刻に?」
「義兄上に呼ばれたのは知っているな。そなたにも関係あることだ。正式な発表は明日であり、その時でも良いのだが、京都奉行として知っておいてほしい。また、密かな工作もかける。」
「はっ、」
「まず最初に、今川家の本家に当たる、吉良家の家督は、今川家が継ぐ。そして、名跡は断絶となる。嫡流を今川に移すのだ。」
「はっ」
「あとは管領に、畠山総州家の人間を据える。」
「畠山というと、元紀伊守護で、総州家は確か助けを求めてきたほうですね。」
「我々に協力したのだった覚えがある。今川家が尾州家を滅ぼしたことにより、家督継承も相成ったし、敵対はしないはずだ。管領をうまく操るのはそなたの仕事だ。」
「はっ」
「あとは、今川家に御所号、御一家の資格が与えられた。」
「おめでとうございます。それ故に、今川家家臣であるそなたの立場も上がるはずだ。陪臣といえど、特殊な立場なのだからな。それに気をつけて、執務をせよ。」
「はっ」
「もう一つ、大陸に出兵いたす。」
「何故!」
「既に決められたことだ。上様の命令である。」
「了解いたしました。」
「全て明日発表されるであろう。管領のけんはきいより到着するのを待つ。そして、今川家が若様の養育を担当することに相成った。」
「それは全て三好を抑えるためですか。管領もしかり、養育も。」
「そうだ。若様には、大和にて育っていただく。」
「偶に様子を見てこいとのご命令ですか。」
「そのとおりだ。藤枝美濃守、」
「はっ」
「余はそなたのことを信頼しておる。それ故に京を任せた。これからも頼むぞ。」
「はっ」
「京は今川、将軍家と三好の不仲が強まり、政情不安定になるであろう。しかし、治安を維持し、関係ない民は傷つけないように。将軍家の守護も任せる。」
「はっ」
「このような時刻にすまぬな。これを伝えたかっただけだ。」
「いえ、重要なことなので仕方がありませぬ。若殿のためにこれからも働かせていただきまする。」
「これからも頼むぞ。」
「はっ」
まあ藤枝美濃守に伝えたし、とりあえずはいいだろう。後は丹羽を呼ぶか。今回の仕事は丹羽に任せよう。長門守には、明と朝鮮を探らせるか。小太郎にも協力させよう。色々頑張らなければ。




